FF7

□ビタースウィートナイト
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「おい、あれ見てみろよ」

バレットが缶ビールを片手に窓の方に顎をやった。

「あん?」

声を掛けられたシドは同じく缶ビールを片手に窓の外を見る。




「かーっ!青春だねェ」

窓の外にいる人物を確認すると、シドはビールを勢いよくあおった。

「まったく、同感だぜ」








○ビタースウィートナイト







「わぁ!!星きれいっ」

宿の外ではエアリスが空を見上げて嬉しそうにはしゃいでいた。

「これをわたしに見せたかったの?」

空から視線を外し、エアリスは隣にいる人物に尋ねる。

「あ、ああ…」

その人物───クラウドは顔を赤くして照れ臭そうに呟き、俯いた。

「ふふっそれならそうと言ってくれれば良かったのに。
急に呼び出すからびっくりしちゃった」

少し肩を竦めてエアリスは言った。

「すまない…」

更に赤面し、俯くクラウド。

「まぁ、クラウドらしい、かな」

そんな彼の様子にエアリスはくすくすと笑う。
そしてまた満点の星空を見上げた。
それを合図にクラウドも同じように空を見上げる。
空気が澄んでいるせいか、夜空には何千何万もの星が瞬いているのが見てとれる。普段は滅多に見れない星座まで。
たまたまこの星空に気付いたクラウドはすぐにエアリスの顔が浮かび、彼女を外へ連れ出したのだ。
嬉しそうに空を見上げるエアリスに、クラウドは口許を緩めた。







「オゥオゥ、何か良い雰囲気じゃねーか?」

宿ではバレットとシドが先程と変わらず飲み交わしていた。

「見せつけてくれるねェ〜
クラウドのやつ、あーんなカオしやがって」

そう言うとシドはもう何本目かも分からない缶ビールを手に取る。
プルトップを開ける音が部屋に響いた。

「………」

「なんでィバレット、急に黙りやがって!」

バレットは静かに外のふたりに視線を注いでいた。

「…いやぁ、なんて言うかよ…昔を思い出してよぉ」

照れているのか頬をぽりぽりと掻きながら言う。

「はぁ?!」

シドは驚き、同時に蔑んだ目でバレットを見る。

「シド、よく思い出せって!
オレらにだってあーんな時があっただろ」

バレットは真剣な眼差しで必死にシドに訴えかける。

「オレはあったぞ…ミーナとは…そう、ミーナ…くうっ」

酒も入っているせいか、亡き妻のことを思い返したバレットは豪快に鼻をすすった。

「…まぁな、確かに俺様にも覚えがあるぜ。あんな風に甘くて酸っぱい経験がよォ」

若かりし頃を思い出したようで、シドは目を瞑りタバコの煙を天井に向けてゆっくりと放った。
そしてふたりは更に酒が進むのだった。







「クラウド、あれは?」

「オリオン座」

「じゃあねぇ、あのすっごく大きく見える星!」

「多分あれがサザンクロスじゃないか?」

そんなオヤジふたりの会話など露知らず、クラウドとエアリスは先程のように綺麗な星空を見上げていた。

「クラウドすごい、ね!
何でも分かっちゃうっ」

エアリスが手を合わせて楽しそうに言う。

「別に何でもってわけじゃ…
有名なやつくらいしか知らないよ」

「でもすごい、よ!
あ、サザンクロスって特定の地域でしか見れないんだよね?」

思い付いたようにエアリスは尋ねた。

「ああ、俺も正確なことは分からないけどミッドガル辺りは見えないんじゃないか?」

「やっぱり…クラウドたちと旅しなかったら見れなかったんだ、ね」

遠くを見つめるようにしてエアリスは嬉しそうに呟く。

「え?まぁ、確かに…」

彼女の言葉に戸惑いつつもクラウドはそう答えた。
するとエアリスは手を後ろに組み、小首を傾げるいつものポーズでクラウドの顔を覗き込んだ。

「わたし、また旅して良かったこと、見つけちゃった」

急に近くなった翡翠色の瞳にクラウドは少しだけ頬を赤く染めた。

「あのね、旅を始めて、辛いこともたくさんあるけど、良いことの方が多いの。
みんなと旅できて、クラウドに出会えて、わたしほんとに良かった!」

いつもの花のような笑顔を向けるとエアリスは体勢を元に戻し、また空を見上げた。
そんなエアリスの言葉が心底嬉しくて、クラウドは彼女の左手を自分の右手で優しく包んだ。

「俺も…あんたに出会わなかったら感じられなかったことがたくさんある…」

クラウドは今度は俯かず、隣にいるエアリスをその蒼い瞳で真っ直ぐに見つめて言葉を綴った。

「クラウド…」

ありがとうと小さく呟いて、エアリスはクラウドの肩に寄り添った。







「あーあーあーあー、クラウドのやつ固まってやんの」

シドがけらけらと笑う。

「でもよう、そのうちクラウドもエアリスにプロポーズしたりとかすんじゃねーの?」

その様子を少し想像したのかバレットが笑いをこらえながら言う。

「顔真っ赤にして、しどろもどろにってか?そんで結局ねぇちゃんに促されてよ」

「ああ、正にそれだな」

ふたりはニッと笑い、どちらともなく手に持った缶ビールを高く掲げた。




「でもそういえば、エアリスって父ちゃんいないんだよな」

以前知った真実を思い出し、寂しそうにバレットが言う。

「なにー??!!じゃぁねぇちゃんは誰とバージンロード歩くんだよ」

経験者として当然の疑問をシドは口にした。


「………」





「「もちろんオレ(様)だろ」」





声を揃えて同じ発言をしたふたりは睨み合う。

「おめぇさんそのナリでよく言うぜ!それに娘の時があるじゃねぇか」

「マリンは誰にもやらん!
それにエアリスだってティファだってユフィだってオレにとっては娘みたいなもんよ」

空になった缶をぐしゃりと潰してバレットは熱く語る。

「おめぇみたいなヤツが花嫁の隣にいたら客が引いちまうだろ」

「常にタバコ口にくわえてるヤツに言われたかねーよ!」

「俺様だ!!」

「いいやオレだ!!」

「なぁに?何のはなし?」




急に降ってきた自分たち以外の者の声にふたりが振り向くと、そこには外にいたはずのエアリスが立っていた。

「なーんか熱く語っちゃってたみたいだけど、どしたの?」

その一言にふたりは勢いよく立ち上がった。

「エアリス!」
「ねぇちゃんよぅ!」


「ん?」




「「バージンロードオレ(様)とこいつ、どっちと歩くんだ??!!」」



急な話に、急な質問。
流石のエアリスもきょとんとしている。

「もちろん俺様だろ?」

「いいや!オレだよな?」




エアリスは酒臭いふたりの中年男性を交互に見つめていたが、ふと何かを思い付いたようで、ゆっくりと口を開いた。

「うーん、ヴィンセント、がいいかな?お父さんだし」

にっこりと笑ってエアリスはその名前を口にした。

「「は?!」」

思いもよらぬ人物の登場に、ふたりは目を丸くして固まった。
今の一言で酔いもすっかり冷めてしまった様だ。
そんなふたりにエアリスはふふっと微笑む。

そして

「うそっ!わたし、出来ることならみんなと並んで歩きたい、な」

そう言うとテーブルに広げてある缶ビールをひとつ手に取り、バレットとシドそれぞれの持つ缶にかつんと合わせた。
その小さな金属音に我に返ったふたりは顔を見合せる。



「へへっ」

「嬉しいこといってくれるじゃねぇの。その方が式だって盛り上がるってもんよ!」

「そうだな」

バレットとシドは嬉しそうにくしゃりと笑った。

「うんうん、すっごく楽しみ!!」






そして、花嫁を中心にみんなで並んでバージンロードを歩く姿と、それを苦笑しながらも嬉しそうに迎える新郎を3人はそれぞれの胸の中で思い描いた。


end
bitter-sweet>>甘酸っぱい
→アトガキ


For "Can you…":未柚さま
as 相互記念

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