FF7

□You are just like...
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こんこん



扉を優しく叩く音が宿の廊下に響く。
ノックされた扉の部屋の主は手入れをしていた愛用の銃から顔を上げた。

「ヴィンセント、いる?」

扉の向こうから歌うような軽やかな声が届く。
ノックの主が誰かを悟り、ヴィンセントはゆっくりと腰を上げて扉へと向かった。






○You are just like...○





「良かった、いた」

開いた扉の隙間から顔を覗かせた彼を見るなり、先程の声の持ち主───エアリスは嬉しそうに微笑んだ。

「何かあったのか?」

彼女が自分の元へやって来ることは別段珍しい訳でもないが、とりあえずヴィンセントは尋ねてみた。

「ちょっと、ね。入ってもいいかな?」

「構わないが」

「じゃ、お邪魔しまーす」

そう言うとエアリスは部屋の中へ入っていった。ヴィンセントも後へ続く。



「ん、オイルの臭い。
もしかして邪魔、しちゃった?」

部屋に微かに広がる独特の匂いに気付くと、エアリスは申し訳なさそうに呟いた。

「いや…もう終わる所だ」

ヴィンセントは開け忘れていた窓を開けようと手を掛けた。

「ふうん?なら、良いけど」

部屋のテーブルに一度目をやり、エアリスはベッドに腰掛けた。
銃はテーブルの上で未だばらされたまま広げてあり、エアリスは先程の彼の言葉を思い浮かべながら小さく笑った。


「そうだ!はいっ」

ヴィンセントが窓を開けて戻ってくると、エアリスは小さな袋を差し出した。

「私に…?」

その袋の中身が何かを確認したヴィンセントは少しだけ怪訝そうに尋ねた。

「そう!あんまり甘くないの、選んだのよ?」

それはクッキーだった。
エアリスが自分にお菓子を買ってくるなんて初めてのことで、ヴィンセントは少しだけ驚いた顔をした。

「いらない、かな?」

おいしいんだけどな、とエアリスは俯いてその包みを見つめる。

「いや、有り難くもらおう」

一生懸命選んでいる彼女の姿が頭に浮かび、ヴィンセントは小さく笑ってそれを受け取った。

「うん!それ、豆乳のクッキー。おいしい上に身体に良いんだって!」

エアリスは満足げに笑ってそう言った。
彼女が"身体に良い"というフレーズをやけに強調したのが引っ掛かったが、ヴィンセントは大事にそうにその包みをテーブルに置いた。
そして向かい合うように椅子に腰を降ろす。
その様子を終始黙って見ていたエアリスだったが、ふと口を開いた。

「…ねえ、ヴィンセント」

それだけ言ってエアリスは翡翠色の瞳でまじまじと見つめてくる。
微かな凄みを感じたヴィンセントは少し顔を強張らせた。
彼女に見つめられると強く物を言えなくなる。
クラウドはいつもこうなのか、と金髪碧眼のリーダーに少しだけ同情した。あくまで少しだけ。
これも彼女の魅力のひとつなのだと彼は思っていたからだ。

「…何か?」

思案したヴィンセントはとりあえずそう一言。

「それ、部屋でくらい脱いだら?」

「は…?それ?」

何を言われるかと構えていたヴィンセントは拍子抜けした顔で答える。

「それ!マ・ン・ト!」

「マント…?」

彼女が言いながら指差したのは彼の着ている深紅のマントだった。

「部屋でそんな格好してて、動きにくくないの?…ていうか暑苦しい、よ」

エアリスは飽きれ顔で溜め息混じりにはっきりと意見を連ねた。

「…確かにそうだな。
脱ぐのを忘れていた」

彼女の言葉に素直にそう返すと、ヴィンセントはマントを脱いでベッドに放った。

「あーっもう!ちゃんと掛けておかなきゃくしゃくしゃになっちゃうでしょ!!」

それを見るなりエアリスはそう叫んだ。

「す、すまない…」

あまりの勢いにさすがのヴィンセントもクールな顔を歪ませた。

「大事な一張羅なんだからっ」

小言を言いながらエアリスは放られたマントを拾い上げ、ハンガーに掛けるべく立ち上がった。
が、彼女の動きが止まった。
下を向き、肩がふるえている。

「エアリス…?」

「ふふっやっぱりヴィンセントってお父さん、みたい!」

そう言い出したと思ったら、エアリスは声を上げて笑い出した。

「…お父さん…?」

突拍子もないその言葉に、訳が分からないという様子でヴィンセントは呟いた。

「うん、お父さん!
どーんと構えて静かに暖かく見守ってくれてるんだけど、ちょっと抜けてるお父さん」

そう言いながらも、まだ笑いが止まらない様子のエアリス。

「抜けてる…?」

少し不服そうな顔をしてヴィンセントはその言葉を繰り返した。

「だってヴィンセント、お茶目なとこ、あるじゃない?」

震わせていた肩をやっと落ち着かせて、エアリスは続ける。

「お茶目…」

また繰り返すヴィンセント。

「あ、傷ついちゃった?
そーんな格好良いのにお父さん、だなんて」

エアリスはイタズラな笑顔を浮かべてヴィンセントの顔を覗き込んだ。
"お父さん"と呼ばれた当人は、澄ました顔の裏で色々と考えているようだ。

「…では、エアリスは私の娘、ということか?」

考えた末にヴィンセントはこう呟いた。

「やっぱりお茶目!」

それを聞いてエアリスはまた笑い出した。
今のセリフがどうお茶目か分からないヴィンセントはただ"?"を顔に浮かべるばかりだ。

「っうん、それもなかなか良い、ね。お茶目なお父さんに小言を言うしっかり者の娘、なんてどう?」

腰に手を宛て、胸を張ってエアリスは言った。

「…悪くはないな」

楽しそうに微笑む彼女に、ヴィンセントも笑顔を向けた。




「ではお父さん、肩でもお揉みしましょうか?」

得意気にエアリスは言う。




「…頼もう」





You are just like
a father!!



20090621 on father's day
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