FF7

□ランデブータンデム
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"君が笑う口元

君が怒る目頭

何より綺麗

僕の胸を締め付けては病まぬ人

それが君─────"





「クラウドって、乗り物なんでも運転、できる?」

ずっと人の顔を見て考え込んでいたかと思ったら、そんな質問をエアリスはぶつけてきた。

「何の話だ?」

「なんでも屋さんだもん、ね
きっと大丈夫、うん」

そして顎に手を当てて、ひとりで納得したように更に呟く。
俺の質問は無視か?

「だから何なんだ」

「ちょっと来て!」

「おっおい!」

結局何の話かもさっぱり分かっていない俺の手を引いて、エアリスは弾むように駈け出した。





○ランデブータンデム○




「…乗り物って、これか?」

エアリスに連れて来られたその場所に、その"乗り物"があった。

「そう!街のおじさんがね、可愛いなあって見てたら貸してくれたの」

嬉しそうに彼女は言うが、その乗り物とはどう見ても特段珍しいものではない。

「これって…」

「bicycle!」

俺が最後まで言うより早く、満面の笑みを添えた答えが返ってきた。そう、彼女の言う"乗り物"とはどうやら自転車、らしい。
目の前のスカイブルーの自転車を見て呆気に取られたままの俺を見たエアリスは、小首を傾げるいつもの仕草で

「もしかして、乗れない?」

と悲しそうに言う。

「まさか。というか乗れない奴の方が稀なんじゃないか?」

「そうなの!?」

驚いた様に声を上げるエアリス。
この反応、もしかして…

「あんたは乗れないのか?」

「ていうか、乗ったこと、ない」

俺の質問に答えたエアリスは寂しそう俯いた。…確かに彼女のこれまでの生活を考えると、これに触れる機会はなかったかもしれない。
自転車からエアリスへと視線を移すと、彼女は未だ小さな子供の様にその自転車を見つめている。

「乗りたいのか?」

そんな彼女に意識よりも先に口が動いた。疑問系にはしてみたが、返ってくる言葉と表情は容易に察しがつく。

「乗せてくれるの!?」

…やっぱり。
いつも見入ってしまう程の極彩色の笑顔をエアリスは俺に向けた。

「なんでも屋、だからな」

君のその笑顔が見れるなら
何にだって乗せてやるよ。
────なんて、口が裂けても言えないが。

「ありがとう!クラウド」

そう言ってエアリスはまた笑った。

***

「いいか?しっかり掴まってろよ」

「あいあいさー!」

エアリスを後ろに乗せて、俺はスカイブルーの自転車のペダルを思い切り漕ぎ出した。

「きゃ〜!!」

走り出すとすぐにエアリスが楽しそうに声を上げる。

「思ったより速い、ね!」

「もっとスピード上げるか?」

「うん!」

「仰せのままに」


俺はペダルを更に強く漕ぎ始める。
自転車はぐんぐん速度を上げた。
一面に広がった野原を一気に駆け抜けていく。

「あっお花畑!」

俺の服をつかんでいた手の片方を離し、エアリスが花畑を指差した。

「エアリス、掴まってないと危ないぞ」

ただでさえ危険な二人乗り。
振り落とされでもしたら元も子もない。

「はーい!」

そう言うとエアリスは両手を俺の身体の前に回した。
思いがけない密着に俺の心臓は跳び跳ねる。


「あれ、クラウドさん、耳が赤いですよ〜?」

ころころと笑ながらエアリスは俺をからかう。

「うるさい
…ひとを乗せて漕いでるからだ」

我ながら苦しい言い訳だ。

「それって、わたしが重い、ってこと?」

そう来たか。

「…バレットよりは軽い、のは確かだな」

「なに、その比較対象!
クラウドのいじわるっ」

「…嘘。軽いよ」

「ほんと〜?」

「ほんとだよ」

────本当だよ、凄く軽い。
いじわる言ったのは君が怒る顔も好きだから。
残念ながら、今回は見えなかったけど。

「なら、良かった!」

機嫌が直ったのが声色で伝わる。
くるくるくるくる
表情が変わるエアリスは本当に色鮮やかだ。

「というか、痩せただろ。あんまり無茶するなよ?」

旅が始まって、元々華奢だった首や腕は更に細くなったように俺の目には写っていた。


「無茶なんて、全然!みんながサポートしてくれてるもの」

ありがとね、とエアリスは回した手のひらで俺の腹をぽんっと叩いた。
そんな彼女の仕草に、俺の口元は自然に緩んでしまう。

いつの間にか俺たちの乗る自転車は花畑を抜けて、草原を走っていた。

「風、気持ち良いね」

エアリスは小さく言葉を紡いだ。

「そうだな」

…そういえば自転車なんて久しぶりだ。
頬に当たる心地よい風。
バイクも良いが、自転車もまた違った良さがある気がした。

「ほんと、ありがとっ
クラウドとふたり乗り、すっごく楽しい!」

そう言うとエアリスは俺の背中に耳を当て、頭を預けた。
それに答える代わりに、俺は回されているエアリスの手にそっと自分の掌を重ねた。
───自転車が良いと感じるのは、あんたが後ろにいるからかもしれないな。
背中に感じる暖かな温もり。
俺の心を掴んで離さないその持ち主を、これからもずっと守っていきたいと俺は思う。


雲間から差し込む光に照らされた真っ直ぐな道は、どこまでも続いているような気がした。



"キラメキの向こうへ

君と漕ぎだすんだ"




end
""内歌詞抜粋>>
レミオロメン:「ランデブータンデム」
20160524 加筆修正
→アトガキ

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