FF7
□そして、歩きだす
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身体がふわりと浮いている感覚。
───瞼が重い…。俺は、どうしたんだっけ?
○そして、歩きだす○
浮遊感の中クラウドは感覚を研ぎ澄ませた。
すると、浮いていたはずの身体は今度はどこかへ寝そべっているような感覚になった。
────草花の香りがする。
俺はこの匂いを知っている。
「もしもし?」
───懐かしい声がする。
「もしも〜し!」
ずっと焦がれてやまなかった、声。
額に手が触れる。
暖かく柔らかな感触。
クラウドはその手を取ろうと腕を動かした。
「あ、動いた!」
既視感。まさにそれで。
あの時とは違う。
あんたは俺が誰だか分かるだろ。
どうかその声で、
なまえを、呼んで。
「クラウド」
クラウドはゆっくりと瞼を押し上げた。
「また、会えたね」
────ああ
目の前には花のように笑う愛しい人。
起き上がって辺りを見回すと、そこは見慣れた古い教会の花畑の上だった。
「クラウド、無茶しすぎ」
そう言うとエアリスは苦笑混じりにクラウドの額を小突いた。
「そうだ…俺はヤズーに撃たれて、爆発に巻き込まれて、それで…」
「ここに落ちてきたんだよ。…あの時みたい、だね」
懐かしそうにエアリスは笑った。
「俺は…夢を、見ているのか?」
もう会えることのないはずの、愛しい人。
2年前と何も変わらない、場所。
「うーん、夢でもないし現実でもない、かな」
その答えに心の中に芽生えていた微かな希望が否定された気がして、クラウドの胸はチクリと傷んだ。
「もう!そんな顔、しないの。わたしはまたあなたに会えてとっても嬉しい!
…クラウドは嬉しくないの?」
そう言ってイタズラっぽくエアリスは笑った。
「嬉しいに決まってる」
いつになく素直なクラウドに驚くエアリスをクラウドは抱き締めた。
「やっと…会えたね」
────ほんとうの、あなたに。
クラウドの腕の中でエアリスは嬉しそうに呟く。
「遅くなって、ごめん」
何の偽りもない自分がエアリスを抱き締めているという事実に、クラウドの胸は暖かくなる。
彼女の纏う、花のような優しい香りに包まれているとひどく心が落ち着いた。
この時間が永遠に続けば良いのに、とクラウドが思ったその矢先、腕の中のエアリスがゆっくりと顔を上げた。
「───ね、クラウド、聞こえる?」
優しく、諭すように彼女が囁く。
「みんなが、呼んでる」
にっこりとエアリスは笑うと更に言葉を続ける。
「戻らなきゃ、ね?」
「あんたは…?」
一瞬で現実に引き戻されるような感覚に苛まれたクラウドの瞳が哀しげに揺れる。
「わたしはね、ここ」
そう言ってエアリスはクラウドの胸を指差す。
「クラウドの、ここ、みんなのここにいるから」
「いつも傍にいるから、見守ってるから」
ね?とエアリスはまた笑う。
たまらなくなってクラウドエアリスを更にきつく抱き締めた。
「エアリス…俺は…」
「だめ、だよ。答え、見つけたんでしょ?」
胸が締め付けられるように苦しい。
ああどうして。やっと会えたというのに。あの日あの時ふたりきりのゴンドラの中で、彼女が会いたいと言ってくれた自分の姿でやっと彼女の前に立てたというのに。
「エアリス…」
「うん?」
「俺は、あんたに助けられてばっかりだ」
「そんなこと、ない」
「会えて良かった」
「うん…」
「もっと一緒に…いたかった」
「……うん、わたしも」
「エアリス…」
「なあに?」
「…ありがとう」
一番言いたかった言葉をやっと言えた。
そう、償いの言葉でも懺悔の言葉でもない。出会ってくれたこと、同じ時を過ごしてくれたこと、そして自分という一人の存在を認めてくれたことへの感謝の言葉。
そんなクラウドの想いを全て汲み取るように翠色の瞳を細めたエアリスは、彼の両頬を小さな白い手で包んだ。
どちらともなく瞳を閉じる。
───そして、
ふたりは触れるほどの優しい口付けをした。
『わたしも、ありがとう』
***
また浮遊感。
身体に触れる温もりを感じてクラウドは目を開けた。
視線の先には見覚えのある天井───
クラウドは教会に湧いた泉に浮かんでいた。
周りには心配そうにこちらを伺うこどもたち。
「おかえりなさい」
ふいに聴こえたその声に振り向くと、マリンが笑っていた。
バレットやティファ、それから共に戦った仲間たちもみんな満足そうに微笑んでいる。
「ただいま」
皆の歓喜の渦の中、あたりを見渡すと、愛しい色が目についた。
ピンク色のその人。
「もう、大丈夫、だね」
彼女はそう言って微笑むと、ゆっくりとした足取りで歩いていく。
─────うん、俺は…独りじゃない。
みんながいる、
心にはエアリス…あんたがいる。
それだけで俺は生きていけるよ。
そして、俺は歩きだす。
─────クラウドのこと、いつも見守ってる
end
20160524 加筆修正
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