FF7

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大好きなあの方へ、愛を込めて。

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(今この瞬間に同じ物を見て、同じように感じてるのって、それってもしかしたらーーー)

「あれ、この本…」
旅の途中に立ち寄った街で、気になったお店にふらりと入るなり、エアリスの瞳に飛び込んできたのは棚に平積みされているカラフルな表紙の本だった。
「「懐かしい…」」
思わず声を上げたエアリスだったが、そこへもうひとつの声が重なったので、勢いよく隣を振りあおぐ。そこには、はにかんだように笑うティファがいて、彼女はそれを1冊手に取るとぱらぱらとページを捲る。
「もしかしてティファも好き、だった?」
「うん、すごく」
「うわあ、嬉しいなあ!わたし、何度も読んだ」
「私もきっと負けないわよ!主人公にものすごく感情移入できちゃうお話よね」
「うんうん!そうなの!あ、でも…」
お互いに同士を見つけた喜びからか、雄弁に語り始めたふたりだったが、ふと何かを思いついたようにエアリスが瞼を伏せる。
伏せた睫毛が頬に影を作り、先程の無邪気な様子から一変して大人びた印象を受ける。このふとした瞬間に見せるひとつ年上の彼女のちょっぴり大人な雰囲気がティファは好きだった。
(睫毛、長いなあ)
そんな事を頭の隅で思いながら、ティファはエアリスの言葉の続きを待つ。
「あのね、大きくなってから読むと、なんだか主人公の家族とか、周りの大人たちに感情移入しちゃって、いつの間にか主人公がんばって!みたいな気持ちになるの」
ようやく先程の続きを吐き出したエアリスは、そう言うと恥ずかしそうに笑った。
ティファはというと、驚いていた。なぜなら、
「私も同じ!大人になると感じ方って変わるわよね」
「えーほんと?!嬉しい!」
同意してもらえるとは思わなかったのか、エアリスはその言葉を受けるとみるみる笑顔になり、嬉しさのあまりかティファに抱き付いた。
「私も嬉しい!」
そんな彼女をしっかりと受け止めると、ティファも満面の笑みをこぼした。

***

それから暫く本の話で盛り上がっていた2人だったが、またふとエアリスが何かを思いついたように声を上げた。そして、近くの棚に陳列されていたアクセサリーをふたつ手に取ると、そのひとつをティファの眼前にぶら下げる。
「ねえ、これ、可愛い?」
「え、え、これ?」
「正直に言って!」
突然の尋問に戸惑いつつも、エアリスの顔が真剣そのものだったので、ティファは彼女の要望どおり正直に答えることにした。
「うーん、好みじゃないかなあ」
「じゃあ、こっち!」
その返答を聞くと間髪入れずにもう一方のアクセサリーを見せる。
「可愛い!」
ティファの答えを聞くと、エアリスは満足げな表情でふたつのアクセサリーを元あった場所にに戻しつつ、
「なるほど」
と呟いた。
「なに?なんだったの?」
そんな納得の様子のエアリスに対し、終始翻弄されるばかりのティファが痺れを切らして問いただした。その問いに、片目を瞑る仕草をするとエアリスはその答えを伝えるべく口を開いた。
「えっとね、どこかで聞いた話なんだけど、人って瞳で見た映像を脳で見てるんだって。だから、感じ方それぞれでもしかしたら同じ物を見ていても違うものが見えてるかもしれないの」
そして先程ティファに見せたアクセサリーに再度向き直る。
「さっきティファが好みじゃないって言った方、わたしは可愛いって思ったんだ。もうひとつのティファが可愛いって言った方は、わたし好みじゃないの」
「へえ、だからなるほど、だったわけね。でも、何だかちょっぴり寂しいね」
感心しつつもそうぽつりと零したティファに向き直ると、エアリスはにっこりと笑った。
「そう?わたしはすごいことだなって思うの。人の数がいるだけ見え方が違うって」
「あ、もしかして例えばだけど、格好良いなって思う男の人や、可愛いって思う女の人がそれぞれなのもそれのせいかな?」
好みのタイプや美味しそうな物の感想だったり、違ったりすることがあるのを思い返す。仲の良い友人でさえ意見が分かれることもある。
「わたしはそう思うなあ〜でも、ね?」
そう言ってエアリスはとある方向をゆっくりと指差した。その意図を探るようにティファはその白い手が指す先へ視線を移す。

「……あの本…」
人の見え方は違う。でもあの時確かにーーー
「そう!おんなじ感想だった、でしょ?」
嬉しそうにふうわりと笑うエアリスに、ティファもつられて笑顔になる。
こんなにたくさんの人がいて、たくさんの物に溢れている時代にたったひとつでも同じ物を同じように感じることができるなんて。ましてや先程のエアリスが謳った説が本当だとしたら、まさにそれはーーー
「奇跡みたい、だね」
「うん、私もそう思った」

大勢の人の中、こうして出会って同じ物を同じように感じて笑って過ごせる。普段は考えもしないけれど、それはもしかしたら当たり前ではないのかもしれない。

「ねえエアリス、あれは何に見える?」
店を出るなりティファが空を指差して尋ねる。そこには晴天に漂う白い雲。
エアリスが顔を上げひとつ間を置くと、ふたりは同時にそれを声に出した。

「「ソフトクリーム!」」

(それが、奇跡なのかもしれない)


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出会ってくれてありがとうございます!
2017.02.28
maiより

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