FF7

□pieces of her wish
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この小さな小さな粒を「星の欠片みたい」なんて言って、君は嬉しそうに見つめていた。口に含めばただ甘いだけの、小さな砂糖菓子を。

「こんぺいとう…」

手の平で転がるいくつかの小さな粒たちを眺めながら、俺はその名を口にした。
エアリスが遺していった片手に収まるほどの小さな缶。その中に収まっていた物のひとつがそれだった。
甘いものが好きだった彼女らしいといえばそうだが、食べ物を入れるとはなかなか勇気のある行動だと一方で感心してしまった。

こんぺいとう。

俺が口にするのと、彼女が口にするのとでは不思議と放つ印象が違うように思える。
きっとそれは、あの日嬉しそうに笑った君の顔が脳裏に焼き付いて離れないからに違いない。

***

「クーラウドー!」
呼ばれた声に視線を上げると、結った長い栗色の髪を揺らしながら、エアリスが駆け足でこちらに向かってくるのが見えた。先程見かけた、何やら叫びながら母親に駆け寄る小さな子供とそのエアリスの姿が重なって、思わず吹き出しそうになる。普段は年上ぶるくせに、たまに(いやいつもか?)見せるこういう姿を見るとどっちが年上か分かりゃしない。
「ねえ、見て!」
そんな俺の考えを余所に、エアリスは傍までやってくるなり手に持っていた袋をこちらへ差し出した。
拳ほどの袋には色とりどりの金平糖がいっぱいに詰まっていた。
「……懐かしいな」
思わずそんな言葉が口をついた。
「クラウドも?わたしも懐かしいな〜って思わず買っちゃった。こんぺいとう、母さんが好きだったの!」
そう言って嬉しそうに微笑む彼女に自然と口元が緩んだ気がして、さり気なくそれを手で覆った。決してどこかの忍者娘に「エアリスといる時のクラウドって、アホヅラだよね〜!」などと言われたことを気にしているわけでは決して無い。断じて無い。
そんな俺の様子には気づいていないようで、エアリスは嬉々として金平糖の袋を開けていた。そして「食べる?」と中から一粒取り出して、俺の手のひらに載せた。無言のままそれを手に取り口に含むと、昔のままの、あの甘さが広がった。
「おいしい?」
こちらを眺めていたエアリスが得意げに微笑む。
"母さんが好きだったの!"
そういえば、俺の母親も好きだった。これが詰まった小さな小瓶が常にダイニングテーブルの隅に置いてあった。コーヒーや紅茶用の砂糖が切れると代わりに入れていたけど、専ら母さんの「お楽しみ」だった覚えがある。何か家事を済ます度に嬉しそうな、いたずらっ子みたいな顔で一粒口に含んでいた姿が思い浮かんだ。
そんな、何だかくすぐったい想い出の余韻に浸りながらふとエアリスを見ると、親指と人差し指で摘んだこんぺいとうを空に掲げて一心に見つめていたいた。そして、「ふむ」と一言呟いたかと思えば、いつもの笑顔へと表情を変化させた。いや、いつもの笑顔だが、何か俺にとってあまり宜しくないことを思いついた時の妖艶な笑みにも思える。
「星の欠片みたい、だね」
「は?」
俺の不安をよそに彼女が呟いたのはそんな一言で、思わず間抜けな声を上げてしまった。
「これ、星の欠片みたい」
エアリスはもう一度呟く。
こんぺいとうが星の欠片。彼女らしい思いつきに無意識に俺はうなづいていた。
「ねがいごと…」
「ん?」
「なんでもない!いいこと、思いついちゃった!」
そう言って笑った彼女は、今度は俺を含むみんながいつも元気をもらうあの花が咲いたような笑顔だった。

***

「…良いことって何だったんだ」
先程から手のひらにのせたままの金平糖に尋ねるが、無論答えが返ってくるはずもない。
星の欠片、願い事…あの時彼女が呟いた言葉を頭の中で反芻する。
そこでふと、あることに気が付いた。
ただ単に袋からひとつまみ取ってあの缶にしまっていただけだと思っていたが、まさか。
ひとつ、ふたつ、みっつ…目で追って金平糖を数えてみる。先程頭に浮かんだとある数に近づくたびに胸が高揚してくるのを感じた。

「……9つ…」

ああ。そういうことか。
いつだったか流れ星に願い事をすると叶うという話で盛り上がった時に、星が落ちきるまでに3回唱えないといけないと聞いて、むくれていたっけ。
「確かに、これなら余裕だよな」
もう一度金平糖に視線を落とす。ピンク色が3つに水色が4つ、白と黄色がひとつずつ。
なるほど、彼女らしい気遣いだ。
それにしても、
「9人全員分願うなんて、あんたどんだけ欲張りなんだ」
ひとつひとつに、ひとりひとりに3回願い事。
小さな小さな星の欠片に。
なあ、一体何を願ってくれたんだ?
「…まあ、あんたのことだから、期待しても良いんだよな?」
ピンク色をひとつだけ摘んで空に掲げる。窓から差し込む太陽の光を浴びたそれは、なるほど、星の欠片に見えなくもない。
彼女のいたずらにも似たおまじないに胸が暖かくなったところで、金平糖を戻そうと例の缶に手を伸ばしたが、そこでふとある思い付きが過った。
「…エアリス、あんたの宝物ちょっと借りるぞ」
手近な小瓶にそれを移すと、母さんが楽しみににしていたあの金平糖の瓶を思い出した。からからと弾むような軽い音を響かせる欠片たちを大事にポケットにしまう。

折角だからみんなを呼ぼう。みんなを呼んでこの小さな星の欠片を見せてあげよう。
小さな小さな星の欠片に込められた、優しい優しい彼女のおまじないを。

2016.11.9
mai

「ほしのかけら」寄稿

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