FF7

□Dear my only one flower
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「ねえ、みんなはエアリスを何かに例えるとしたら何だと思う?」

上手い料理と酒、そして美人オーナーで人気の飲食店、セブンスヘヴンに店主であるティファの声が響いた。営業はすでに終了しているが、今夜そこにはかつて共に戦った仲間であるクラウドとバレット、ユフィにナナキがぽつぽつと顔を出しため、そのまま居座ることを許可して酒や料理を振舞っていた。そんな4人はティファの一声に一同に首を傾げる。
「直感でいいから!ねえ何だと思う?」
「うーん、花かなあ、やっぱり」
同じ質問をもう一度繰り返したティファに対し、最初に口を開いたのはユフィだった。
「オレも1番に思いついたのはやっぱり花だぜ」
「うん、オイラも!」
そしてバレットとナナキが後に続いて口々にそう答えた。
そんな3人に満足そうに微笑んだティファは、1人答えていないクラウドに向き直る。
「クラウドは?」
もちろん、右に同じである。とクラウドはあくまで心の中で回答しつつ、曖昧に頷いた。何だか本当にあの彼女に似てきたのではないかという幼馴染の何かを含んでいるような微笑みが、何かヘタなことでも言ったら大変な目に遭いそうだという予感をさせる。
「…どうしてだ?突然」
「ホントだよティファ、急にどうしたのさ?」
そう思いつつ冷や冷やしながらティファに尋ねたクラウドだったが、運良くユフィも乗っかってきたことを有難く思う。
「実はね、」
尋ねられたティファは待ってましたとばかりに、バーカウンターの下をなにやらごそごそ漁りだした。
先程の予感は思い過ごしだったことに安堵して、クラウドはティファの次の言葉を待つ。他の面々もテーブルを離れるとカウンターに集まってきた。
「この間家の片付けしてたら出てきたの。バレットは知ってると思うんだけど…」
そう言ってティファがカウンターの上に置いたのはクレヨンで描かれた1枚の絵だった。見るに子供が描いたようなものである。
「ああ!そういやこんなこともあったな!」
すぐに合点がいったのか、バレットは懐かしげに笑んだ。
何の話かまったく見えないクラウドは、その横でその絵を覗き込む。ユフィもナナキもそうだったのか、2人もその絵をよく見ようと身体を乗り出した。
「これは…」
それは笑っている女性の絵だった。子供の絵独自の拙さはあるが、栗色の髪にピンク色のリボン。それはまさに、
「この絵の人ってもしかして、エアリス?」
クラウドよりも早くそれを言葉にしたのはユフィだった。そう、それはどう見てもエアリスの絵だった。
「そう。これね、2、3年前かな?マリンが描いた絵なんだけどね」
そこまで言ったティファはバレットと目を合わせると、2人してニヤリと笑う。
「学校で好きな花の絵を描いてくださいって言われて描いたものなの」

その課題が出た時、マリンは迷わずこの絵を描いた。しかし、先生に"これは花じゃないでしょう?"と諭され、マリンの抵抗も虚しく結局は泣く泣く違う絵を描いたらしい。

「今でも"わたしは間違ってないもん!"って言ってたぜ」
「ナールホド!でもユフィちゃんはマリンの気持ち分かるなあ」
「うん、オイラも!」

(エアリスが、花…)
そんな仲間たちのやりとりを聞きながら、クラウドは頭の中である記憶を引き出していた。
まるで背表紙のある本のように彼女との思い出は彼の頭の中できちんと整頓されていて、いつでも取り出しその鮮明な温かい思い出に浸ることができる。
(そう、あれは確か)

***

「お花はいかがですか?」
街頭に立ち、花を売るエアリスとその足元にまるでマスコットのように鎮座するナナキをクラウドは少し離れた場所で見守っていた。
「記念日に、プレゼントに日頃の感謝の気持ちにお花はいかがですか〜?」
初めて彼女に出会った時を思い出させるその光景。しかし、あの時よりやや必死さが見え隠れしているのは決して気のせいではない。
それもそのはず、この行為の理由は所謂『資金集め』だ。旅を続けて行く中、出会うモンスターたちもだんだんと手強くなってきた為、やむ負えず仲間全員の武器や防具を新調したのだ。必要経費である。しかし、予想外の出費に旅の資金が底を尽きかけていた。いくら自分たちが強くなったとて、先立つ物が無ければ先に進めない。
そこでエアリスが提案したのが花売りである。他に案が出なかった彼らは、ナナキの鼻によって容易く野の花を見つけ、2人と1匹でせっせと小さなブーケを作った。そして低コストにしては可愛らしく仕上がったそれらを籠に収め、今に至る。
実を言えば先程までクラウドもあちらに立っていた。しかし、エアリスの『もう!クラウド、そんなぶすっとしてたらお客さん寄り付かないよ!あっちいってて!』という辛辣な戦力外通告を受け、渋々退散したのだった。営業スマイルなんて、彼には到底無理な話である。

「5ギルになります、ありがとうございまーす!」
エアリスの言葉通り、クラウドが退いた直後から売れ行きが好調になっていた。
腐ったピザの下ではなく、太陽の下で花を売るエアリスは本当に生き生きとしていて、クラウドの頬は自然と緩んだ。
(悪くないな、こんなのも)
そう思ったのも束の間だった。

「なに、キミ花売ってるの?」
そうエアリスに近づいてきたのは見るからに軽そうな若い男。
クラウドの胸に暗雲が立ち込める。
「そうなの!このミニブーケ、ひとつ5ギルなんだけど、いかが?」
そんなクラウドの気持ちを梅雨知らず、エアリスは営業トークと共に華やかに笑って見せた。
「うーん、ブーケもいいんだけど…」
男は一歩近付き、エアリスの手を握る。
「オレはこっちの花がいいなあ。どう、今夜飲みにでも行かない?」

ぷつん
クラウドの頭の中で何かが弾ける音がした。自分がいなくなった途端これである。やはり無理にでも居座れば良かった、と後悔の念が襲う。
そう思うが早いかクラウドはずんずん、と効果音が鳴りでもしそうな足取りで殺気を放ちながら2人に近づいていった。

「ごめんなさい、生憎こっちは売約済みなの」

あと一歩というところで、そんなエアリスの一言が聞こえてきて、クラウドはぴたりと歩みを止めた。
(売約、済み…?)
一体どういうことだ?という疑問が頭を占領して、その後も一言二言やり取りをしている2人の声はクラウドの耳には届かない。
男が去るのを見届けて、小さく息を吐いたエアリスが立ち竦むクラウドに気がつくまで、彼は微動だに出来なかった。
「クラウド…もしかして、聞いてた?」
「あ、ああ…」
尋ねてきたエアリスの頬が仄かに赤く染まっているように見えて、不安が一気に増幅する。
「誰にだ?」
「え?」
気がついたら言葉にしていた。
一体どこの誰になんだ?
まさかやはり例のソルジャーか?
クラウドの頭の中をひとつの疑問が様々な形をして渦巻き、クラウドは拳を握りしめてエアリスの次の言葉を待った。

「もう!クラウドに決まってる、でしょ」

片手を腰に当て、もう一方の手の人差し指をびしっと立てると、エアリスはそう言い放った。聞こえてきたその言葉に、クラウドは一瞬目を瞠った。
そんな彼に、違うの?とエアリスは小首を傾げた。
密かにそうであれば良いと思っていた。不安だらけの頭の隅でその言葉を期待していた。でも、言い切る自信なんて、自分には欠片もなかった。だけど、
「……違わない」
ようやく絞り出した声でクラウドがそう言葉を紡げば、エアリスは嬉しそうに微笑んだ。

「お花、いかがですか?」
「…喜んで」

***

「…まったく、いつ届くのやら」
「え?クラウド何か言った?」

つい浸り過ぎて声に出してしまったクラウドは、あわてて「何でもない」とティファに告げるともう一度カウンターの上に置いてある絵を見遣った。
あの時の彼女の笑顔と、絵の中の彼女の笑顔が重なる。

「着払いだからな」




『お買い上げ、ありがとうございます!』
『…因みにいくらふっかける気だ?』
『う〜ん、それはお気持ちで!』



幾らでも、何でも払うよ。
世界にたった一つの極上の花になら。

「だから、早く届けてくれ」

ずっと待ってるから。



Happy birthday, Aerith!!
We love your smile like a flower!

20140207
mai

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