FF7

□pray for you
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ねえ、あなたは光なの。
未来を照らす光そのものなの――。


冷たかった風が段々と暖かいものに変わり、草や木には青々とした葉が芽吹く。
最近では、すっかり見なくなっていた虫たちも顔を出し始めていた。
「春だなあ」
窓際に置いたロッキングチェアに揺られながら、ティファは窓に映る景色に目を細めた。
眼下の道を走りまわる近所の子どもたちも、つい先日まで身に着けていた厚手の上着を封印したようだ。そしてそれを眺めるティファも春らしいカーディガンを羽織っていた。

「ティファちゃん、いるかい?」
春へと移りゆく景色にすっかり夢中になっていると、遠慮がちに開いた扉からいくばくか歳を取ったというのに、あの頃と変わらない凛とした声が舞い込んできた。
「エルミナさん!」
来客の姿を確認し、慌てて立ち上がろうとしたティファをエルミナは手で制した。
「いいよ、そのままで」
そう言って歩み寄るエルミナに「すみません」と苦笑すると、ティファは座り直した。エルミナはそんな彼女に満足したように微笑むと、傍にあった椅子に腰を掛けた。
「どうだい?身体は」
「とっても調子良いですよ!勿論こっちも」
エルミナの気遣いに笑顔でそう答えると、ティファは自身の大きくなったお腹を擦った。
「そうかい。もうすぐだろ?」
ティファのお腹に手を添え、エルミナはティファの身体に宿る新しい命を愛おしそうに見つめた。
「はい!早く出てきたいみたいで、しょっちゅうお腹蹴るんですよ」
肩を竦めて困ったように言葉を零したティファだったが、表情はそれに反して嬉しそうに笑っていた。そんな彼女にエルミナはくすりと笑った。
「元気な子の証拠だね。男の子なんじゃないかい?」
「いえ、多分女の子だと思います」
エルミナの問いに迷わず即答したティファは、確信があるのか自信ありげに口角を上げる。
「そんな気がするんです」
そう続けたティファは柔らかく微笑んだ。そしてもう1度お腹をひと撫でした。
「ティファちゃんがそう言うなら間違いないね!でも御主人は女の子だったらかなり喜ぶんじゃないかい?」
よくある娘の男親の性を想像したのか、エルミナは楽しそうに笑った。
「そうなんです!何かやけに張り切っちゃって、今なんてベビーベッド作ってるんですよー!」
ティファは呆れ気味にそう言うと、先が思いやられると言わんばかりに苦笑交じりに溜息を吐いた。その様子にエルミナは吹き出すと声を上げて笑った。そして落ち着きを取り戻すと、目を細めてティファと彼女のお腹を見つめた。まるで自分の孫を慈しむかのように。
ゆったりとした時が流れる。外からははしゃぐ子供たちの声が聞こえ、風がカーテンをゆらゆらと揺らし、床に不思議な形の影を作っていた。
いつの間にか舞い込んだ小鳥の羽がふわりと部屋の中を舞う。その羽を目で追いながら、ティファは意を決したように表情をきゅ、と引き締めるとエルミナに向き直った。
「エルミナさん、」
声を掛けられたエルミナは彼女の纏う空気が急に変わったことに少し驚いたが、先ほどと変わらぬ優しい面持ちでティファの次の言葉を待った。
「実は、もう名前を決めてあるんです」
ひとつひとつ言葉を確かめるようにティファはゆっくりと告げた。
「…聞かせてくれるかい?」
ティファは同じようにゆっくりと口を開いたエルミナに頷くと、緊張した面持ちのまま口を開いた。

「リーサ」

「…リーサ…可愛い名前じゃないか」
告げられた名前を確かめるように反芻すると、エルミナはにっこりと笑ってそう言った。その笑顔に少しほっとした表情を見せると、ティファはロッキングチェアのサイドに置いてあるテーブルの上からメモ用紙を取り、エルミナに差し出した。
「こう、書くんです」
差し出された紙を受け取り、そこに書かれているものに目を走らせるなりエルミナは目を瞠った。
「あの…ダメ、ですか?」
黙りこんでしまった彼女に、急に不安になってしまったティファは眉根を寄せて顔を覗き込んだ。するとそこには涙を浮かべて微笑むエルミナがいた。
「…な、に言ってるんだい!良いに決まってるじゃないか」
エルミナは嗚咽を堪えながらそう言うと、またそのメモに目を落とし、ティファの書いた文字を指でなぞる。

『R i e t h a』

そこにはそう書いてあった。エルミナの瞳から溢れた涙がぽたりと落ちて、文字を滲ませる。
「この子は私たちの光なんです。だから―――」
言いかけたティファの目尻からも涙が一筋伝った。
いつも光へと自分たちを導いてくれたエアリス。そんな彼女の願いを、祈りを、彼女が愛してやまなかった明るい未来へと繋がる新しい命に託したかった。そうして生まれたのがこの名前だった。
「エアリスもきっと喜ぶさ!今頃どっかで飛び跳ねてるんじゃないかい?」
ティファの瞼から零れた涙を人差し指で優しく掬うと、エルミナはイタズラっぽく笑った。
彼女の言葉にティファも思わず噴き出す。そして自分のお腹に再び目を向けた。
「私、この子に伝えたいことが沢山あるんです。この星のために頑張った人たちがたくさんいたこと、厄災や重い流行り病に見舞われても、誰1人諦めなかったこと、復興にたくさんの人が立ち上がったこと―――」
本当に沢山の辛く、悲しいことが起こった。自分にも目の前の彼女にも、一緒に旅をした仲間たちにも。だけど皆強く生きている。前を向いてしっかりと地に足をつけて。
「だからこの子の名前はその第一歩なんです」
彼女に教えられた「明日を信じる」こと。それをこのお腹の中に居る子に繋げていきたい。
「それと、"独りじゃない"って伝えたい。私や主人はもちろん、クラウドやマリン、バレットやユフィ…みんなあなたの傍にいるよって」
独りじゃないって思えるだけで、人は強くなれる。この世に生れて来た時点であなたを思う沢山の人がいるってことを―――。
「…なんて、私に全う出来るか分からないですけど」
ティファの思いをじっと聞いていたエルミナは、床に膝をついて彼女に寄り添うとその手をそっと握った。
「ティファちゃんなら大丈夫さ。きっと強くて優しい子になるよ」
「ありがとうございます」
そう言ったティファは決意を表すかのようにエルミナの手をしっかりと握り返した。


あなたに沢山のことを伝えたい。
家族がいること
友人がいること
笑えること
泣けること
この世に生を受けたこと
それがどんなに幸せなことか。
例え小さな幸せでも、1つ1つが合わさったらどれだけ大きな幸せになるか。

そして私にとって、あなたはとても大きな幸せ。
そんなあなたは光なの。
私にとっても世界にとっても。
―――明日を照らす光。
だから覚えていて。
あなたは独りじゃない。
人はみんな繋がってるから。


生まれてくれて
生きていてくれて
ありがとう――――




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この度の震災で被災されたすべての皆様にお見舞い申し上げます。
1日も早い復興を心から祈ってます。
『終わらない冬はない』
『明けない夜はない』
ずっとずっと見守ります。みんな繋がってます。

20110405 mai


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