FF7
□If...
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「くっ…」
相手の攻撃に耐えきれず、クラウドは思わず膝をついた。そしてすぐに一瞬視界から外してしまった敵を探そうと周囲に目を向ける。しかし、その敵はというと、少し距離のある所で佇んでいた。向こうにはまだ余裕があるようだ。
イミテーションといえど実力は本物だ。今回クラウドは戦い始めから相手のペースにすっかり嵌ってしまっていた。
このままではまずい。未だに余裕そうにこちらを窺う相手を睨みつけ、クラウドはどうしたものかと思考を巡らせた。
その時だった―――
「手、貸してほしいか?」
ふいに背後から弾むような透明感のある声がした。その刹那、クラウドは不思議な感覚に襲われた。何処かで聞いたことのあるようなセリフ――いや、もっと低い声だったか。しかし、考えを巡らせるも頭の中が霧がかっていて真意がつかめない。
思考を戻し、クラウドは後ろを振り仰いだ。
「女…?」
誰にも聞こえないくらい小さな声でクラウドは呟いた。
そこには女が1人立っていた。ピンクのロングワンピースに赤いジャケット、そして長い茶色の髪を高い位置で結んでいる、一見こんな戦場には不釣り合いな格好をしている細身の女。
新手か?彼女が手に持つロッドを確認したクラウドは思案した。もしもそうだとしたらかなりまずい状況になった。前方にはイミテーション、背後にはこの女。ここまでで相当な体力を消耗してしまったクラウドには辛い状況だ。
「何者だ?」
勢いよく立ちあがり、クラウドは身の丈ほどある大剣を構えなおした。
「…そっか、記憶、ないんだっけ」
クラウドの行動に対し、女はロッドを構える素振りもなくぽつりと呟いた。
「は?」
臨戦態勢だったクラウドは思わず拍子抜けしてしまった。
「あ、何かその反応、懐かしいな〜!」
剣を向けられているというのに女は楽しそうに笑いながらそう言った。
敵ではないのか?それに…
「あんた、俺のことを知っているのか?」
彼女の口ぶりを鑑みるとそう思わずにはいられない。しかし、異世界であるここに召喚された自分たちは元いた世界の記憶が曖昧なのだ。もしかしたらあちらで何かしら関わりがあったのかもしれない。
「んーゆっくり話したいとこだけど、そうはいかないみたい」
その質問には答えず、女はクラウドの後方を指差した。その方向へ視線を向けると、先ほどまで黙って立っていたイミテーションがこちらへ向かってくるのが見えた。
クラウドは瞬時に剣を構えなおす。一歩前に進んで隣に立った彼女もロッドを構えた。
「なあ、あんた味方か?」
向かってくるイミテーションから視線を外さぬまま、クラウドは女に尋ねた。
敵は容赦なく技を繰り出す。2人は同時に地面を蹴って左右に跳んだ。
「だから言ったでしょ?手、貸してやろうかって」
その言葉が聞こえた直後、癒やしの魔法が彼を包んだ。
***
「悪かったな、疑ったりして」
イミテーションが完全に消えたのを確認してから、クラウドは女に声を掛けた。
共闘した結果、あっさりと倒すことが出来た。彼女が自分の行動パターンを熟知しているかのように立ち回ってくれたからだ。初めて共に戦ったというのに、正直とても戦いやすかった。
「ううん、気にしないで」
そう言うと彼女はにっこりと笑った。
その瞬間、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚にクラウドは陥った。さっき彼女が声を掛けて来た時と同じような感覚だ。
やはり自分はこの女を知っているのか?でも、うまく思い出せない。頭に濃い霧がかかったままだ。
「あんたは俺のことを知っているのか?」
先ほどは答えを貰えなかった質問を、クラウドはもう一度口にした。
「うん、よーく知ってるよ」
微笑みを称えたまま、彼女はそう答えた。
この笑顔、この瞳、この声…やはり自分はこの女を知っている気がする。
「思い出せない?」
顎に手を当てて考えを巡らせていたクラウドを、女は覗き込んだ。
「すまない…」
申し訳なさそうにクラウドは言った。思い出せそうで思い出せない―――引き出しはあるのに取っ手がない、そんな感覚だ。
「知りたい?」
少しイタズラな笑みを浮かべながら彼女はそう尋ねた。
―――知りたい。彼女が誰なのか、胸を締め付ける物の正体が何なのか。それに、先ほどの癒やしの魔法はとても懐かしい感じがした。あの暖かく優しい春の風に包まれているような感覚は、初めてではないと確信している。
そして何よりも、ふわりと香る花の匂い―――。
クラウドは無言で力強く頷いた。
「じゃあねえ…」
そう切り出した女は、手を後ろに組み小首を傾げるポーズを取ると、
「デート1回!」
とびきりの笑顔でそう言った。
「………エアリ、ス…?」
返事の代わりに返ってきたのは、極彩色の微笑み。
20110126 mai
20110127加筆修正