FF7
□きっと、それが
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"ずっと傍にいたい"
とにかくそう思うんだ
○きっと、それが○
「おはよ、クラウド」
宿のロビーにあるソファーに座って、新聞に目を落としていたクラウドが顔を上げると、エアリスがこちらへ歩いてくるのが見えた。
「ああ、おはよう」
「今日も頑張ろうね」
「ああ」
いつもの朝の会話。
だけどふたりには少しだけいつもと違った朝。
"クラウドとずっと一緒にいられるといい、な"
昨夜、満天の星空の下でそう呟いたエアリスに、クラウドは何も言わずキスをした。
でも、それはふたりにとって充分すぎる"答え"だった──…。
「今日の予定は?」
エアリスはクラウドの隣に座って尋ねる。
「夕方にはみんなここに着くから、一旦ミーティングだな。
それまでに買い出しを済ませておきたい」
「買い出し!じゃあ、行こっ」
嬉しそうに言って、エアリスはクラウドの腕を引っ張って立ち上がらせた。
「!」
いつもの行動なのに、触れられた部分が物凄く熱く感じてクラウドは硬直した。
「どうか、した?」
心配そうにエアリスはクラウドの顔を覗きこむ。
「いや、何でもない…」
必死に平静を装って、クラウドは答えた。
「そ?なら、いいけど」
エアリスは一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに玄関へと駆け出した。
そしてクラウドもその後を追う。
「これでだいたい全部、だね
クラウド、重くない?」
買った物が入った紙袋を持ってくれているクラウドに、エアリスは声を掛けた。
「いや、大丈夫だ」
「そっか、さすがソルジャー!
あっ"元"、ねっ」
楽しそうに笑って、エアリスはまた前を向いて歩き出す。
そんなエアリスをクラウドは横目でちらっと見やる。
特別な感情はもうずっと前から抱いていた。
彼女をずっと守っていきたいと、
彼女の傍にずっといたいと思っていた。
だから昨日彼女があの言葉を呟いて、お互いの想いが分かって…
────それで、どうしたらいいんだ?
クラウドはただ、戸惑っていた。
すると不意にエアリスが足を止めた。
「エアリス?」
クラウドも足を止める。
「───ね、クラウド。
手、繋ごっか」
「えっ…」
エアリスの突然の提案に驚いたクラウドは言葉を失った。
「はい!」
そう言うとエアリスは笑って小さな白い掌を差し伸べた。
クラウドは恐る恐る手を差し出し、エアリスのそれに重ねた。
「ちょっと歩こ、ね?」
お互いの指を絡め、ふたりは宿まで遠回りの道を進み始めた。
「────なに、考えてたの?」
しばらく歩くと、エアリスは前を向いたまま優しく尋ねた。
────どう、言ったらいいんだろうか。
思考を巡らせ、クラウドは口を開けずにいた。
それが分かっているようで、エアリスは何も言わずにクラウドが言葉を紡ぐのを待った。
そして暫しの沈黙がふたりの間を流れた。
「────俺は…その…どうしたら良いのか、分からないんだ」
やっと口を開いたクラウドはそう告げた。
「どう、って?」
小さな子供を諭すようにエアリスは促す。
「昨日、あんたと俺の…気持ち…?が分かって…だけど…」
────俺は気の利いた言葉なんて言えないし、どんな風にしたらエアリスが喜ぶかとか、分からない…
その言葉はクラウドは飲み込んでしまった。
しかし、エアリスは
「そんなこと、考えなくていいのに」
そう言ってクラウドを見つめると優しく微笑んだ。
「わたし、特別何かしてほしいとか、ないよ?」
クラウドははっとしてエアリスに向き直った。
「…昨日も言ったけど、一緒にいられたらそれでいいの。
クラウドは、違うのかな?」
いつもの小首を傾げる仕草でエアリスは優しく投げ掛けた。
クラウドはふるふると首を振る。
そんなクラウドに安心したように翡翠色の瞳を細めると、エアリスは続けた。
「こうして手を繋いで一緒に歩いたり、
夜中にこっそりお話したり、
たまに…キス、したり?
きっとそれが、わたしたちふたりのカタチかな、って」
エアリスはまたふわりと笑った。
エアリスの言葉ひとつひとつが深く響いて、クラウドは胸の痼がふっと溶けていくように感じた。
「ね?そんなのがわたしたちにぴったりだと思わない?」
そう言うとエアリスは手を繋いだままクラウドの腕に寄り添った。
「─────ああ、そうだな」
─────エアリスが愛しい。
あんたをこれからもずっと守っていきたいと、
あんたの傍にこれからもずっといたいと、
本当に心からそう思うんだ…
クラウドは微かに、でも確かに優しく微笑んだ。
「クラウドくんがたまぁ〜にそんな風に笑うのも、わたしたちのカタチ、だね」
それをしっかりと見ていたようで、エアリスは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
隣で楽しそうに笑うエアリス。
こんな些細な時間ですらとてもいとおしく感じられて、クラウドはエアリスの手を引き、彼女を自分の腕の中に閉じ込めた。
「…たまにこうするのも、か?」
クラウドはエアリスの耳元で小さく呟いた。
「うん…わたしたちのカタチ、だよ」
*****
「でも、まさかクラウドがそんな風に悩んでた、なんて」
繋いだ手はそのままに、ふたりは今度こそ宿に向かって歩いていた。
「俺だって…いろいろ、悩む…」
口をもごもごさせて、クラウドは答えた。
「ふふっそっか!」
そう言うとエアリスは楽しそうに繋いだ手を前後に振った。
「─────ね、クラウド」
「ん?」
「だいすきっ」
眩しい程の笑顔でエアリスは言葉を放った。
クラウドは一気に耳まで赤くなる。
「……………ぉ……俺…も……」
「いいよ、無理して言わなくて」
言葉を絞り出そうとするクラウドを制し、エアリスは人差し指を立てて彼の唇に添えた。
「それも、わたしたちのカタチ、だよ」
…うん、こうやっていつまでも
一緒に笑ってたいね
end
→アトガキ