FF7

□心に輝くのは
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どうして1人で行ってしまったの?
何を想っていたの?
寂しくなかった?
怖くなかった?
今はもう、聞くことはできないけれど――。




○心に輝くのは○




「わあ!これ可愛い!!」

街での買い出しに出ていたティファは道端のワゴンで売られているアクセサリーの1つに目を奪われた。
金色の細いチェーンにシンプルな飾りがあしらわれているブレスレット。

「ほら、エア―――」

それを手に取り大好きな親友の名前を呼ぼうとしたティファだったが、そこではっと我に返った。

(…ああ、また私…)

そう、彼女はもういない。
あの日、忘らるる都で帰らぬ人となってしまったのだ。
もうあれから何日も経つというのに、未だにティファは先程のような感覚に時々陥ってしまう。
"後ろでエアリスが微笑んでくれている"ような感覚に。
そうしてその度にいないことを改めて感じて落胆するのだった。

(…しっかりしなきゃ)

きゅ、と表情を引き締めて自分にそう言い聞かせたティファは名残惜しそうにそのブレスレットを元の場所に戻し、宿への帰路に着いた。


***


「あら、ユフィ戻ってたの」

宿に着き、自分とユフィにあてがわれた部屋にティファが入ると、ユフィが此方に背中を向けてベッドに腰掛けているのが目に入った。

「うん…」

声を掛けられたユフィはというと、振り向くことなく静かに言葉を返した。
ティファは明らかに元気の無い彼女の様子を感じ取ると、ゆっくりとベッドに近づき隣に腰掛けた。

「何か、あった?」

「……」

その問い掛けにユフィは俯いたまま何も答えない。

「ユフィ?」

優しく、優しく問い掛ける。あの大好きな彼女が自分にしてくれたように。

「……アタシさぁ、またやっちゃったんだ」

漸く口を開いたユフィはそう言うと自嘲気味に笑った。

「やっちゃった?」

「うん。さっきね、街で可愛い小物見つけたんだ。…エアリスが好きそうな、さ」

そこまで聞いたティファはどきりとした。しかし、それを悟られないよう平静を取り戻し、ユフィの次の言葉を待った。

「…それで、思わずエアリスのこと呼んじゃった。もう、いないのに」

そう続けたユフィは膝を立てるとそこへ顔を埋めた。やっぱり、とティファは思った。彼女もまた同じなのだ、自分と。
彼女がいた暖かな日々があまりにも当たり前過ぎたから。
ティファは同意の意味を込めてそっとユフィの肩に手を置いた。

「…多分ね、エアリスに最後に会ったのって、アタシなんだ」

「え?」

「あの日、クラウドが寝かされてた部屋で、何でもない話して…エアリス、いつもとおんなじに笑うからアタシ―――」

そこまで言うとユフィの肩が微かに震えだした。

「何で…なんにも言ってくれなかったのかな……何で、気付かなかったんだろう…」

ユフィは嗚咽混じりにぽつりぽつりと呟いた。大粒の涙が頬を伝っては彼女の膝を濡らしていく。

「ねえティファ、何で?何でエアリスは1人で…!こんなちっぽけな星の為に、死んじゃうなんてーーーアタシは、星なんかよりもエアリスの方が大事だったのに…!」

ぽろぽろぽろぽろ。
ユフィの瞳から次から次へと涙が溢れ出る。

「…違うよ、ユフィ」

ずっと口を閉ざしていたティファがぽつりと言った。

「え…?」

ユフィが抱えた膝に押し付けていた顔を上げると、自分と同じように涙を流すティファがそこにいた。

「私は違うと思う…エアリスは自分を犠牲にしようと思って行ったわけじゃないよ」

「…どういう、こと?」

キョトンとした顔でユフィはティファを見つめた。
ティファはそんなユフィを見つめ返し、未だ濡れている彼女の目元を指で優しく拭った。

「帰ってくるつもりだったんだよ」

私たちの元へ―――。

「だって、エアリスはいつだって誰よりも明日を夢見てた。どんなに辛くても、哀しくても、明日があるからって笑ってた」

そうでしょ?とティファはにっこりと笑った。

(そう、そうだった…)

そんなエアリスが死ぬ為に1人で行ってしまったなんて思えない。
ティファが連ねた言葉がすとんとユフィの心に落ちていく。

「っうぅ…〜ッッ」

「もう、泣かないの!」

またしても堰を切ったように泣き出したユフィをティファは優しく抱き締めた。

「ティファだって泣いてたじゃんか!」

「ユフィが泣くからよ」

「アタシのせいかよ…」

そんなやり取りに同時に吹き出すと、2人は抱き合ったままくすくすと笑い合った。

「…ティファ、」

「ん?」

「やっぱ胸デカいね」

「もう!ユフィは!!」

「うそうそ!ありがと!」

「まったく…」

文句を言いつつもやっと顔を上げたユフィのいつもの笑顔が見れて、ティファは小さく安堵のため息を洩らした。

「そうだ、」

ふと、思いついたようにそう言うと、ユフィはごそごそと自分のポケットをあさり始めた。
そして、そこから何かを取り出すとティファの顔の前でその手を開いた。

「あっそれ…!」

ユフィの掌に乗っているそれを目にしたティファは瞠目した。

「えへへ、実は買っちゃったんだ!さっき言ってたやつ」

それはブレスレットだった。金色の細いチェーンにシンプルな飾りがあしらわれた――――正に先程ティファが目を奪われたあの。

「…それ、私も良いなって思ったの」

ユフィが持つそのブレスレットを見つめ、ティファは目を細めた。

「やっぱり?!実はね………ジャーン!」

そう言ったユフィのもう片方のポケットから出てきたのは同じブレスレット。

「お揃いが良いなって」

ユフィは満面の笑みでそのもう1つをティファに差し出した。

「ユフィ…」

ティファはそれを受け取ると自分の手首に着けてみる。そしてユフィもそれに倣ってそのブレスレットを着けた。

「また、会えるかな」

手首でさりげなく存在感を主張するそれを愛おしそうに見つめながらユフィは呟いた。

「会えるわよ」

ティファは迷わず即答した。
いつどんな形かは分からない。
だけど必ずまた会える気がしてならない。
また、彼女のあの花のような笑顔が見れる日が来るような気がするのだ。

「あのね、これ、エアリスの分もあるんだ」

これを見つけた際、ユフィは思わず3つ買ってしまっていた。お揃いなら3人一緒が良くて。
自分とティファ、そしてエアリスの3人一緒が。

「じゃあきっと、それの為に案外すぐ帰ってくるかもよ?」

ティファはそう言ってイタズラに笑った。

「だよね!一番にアタシに会いに来てくれるようにアタシが着けてるんだ!」

ユフィは自慢げにそう言うと、3つ目のブレスレットをポケットから取り出して先程とは反対の手首に着けた。
早く渡したい。そしてこれを渡した時の彼女の嬉しそうな顔が見たい。きっと最高の笑顔で喜んでくれることだろう。
その光景が同時に脳裏に浮かんだのか、ティファとユフィは目を合わせると楽しそうに笑った。

「エアリスー!ここにこんなに良いモノがあるよー」

「早くしないとマリンにあげちゃうわよ!」

ブレスレットをした両手を天に掲げたユフィは楽しそうに語りかけた。そしてティファも負けじと後に続いた。

「…待ってるから」

天を仰いだまま、ティファはぽつりと呟いた。
いつまでも待ってる。
エアリスがいつでも明日を信じていたように、彼女に会える明日を信じて。




――――私たちはこうやって、また涙を流すかもしれない。
でも、もう大丈夫。
それすらも心に息づいて光を失うことのない貴女の笑顔が一掃してくれる。



「だいじょぶ、だいじょぶ!いつだって明日は今日より輝いてるよ」


心に輝くのは、眩しいくらいの貴女の笑顔―――。


20101220 mai
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