FF7

□その瞳に映るもの
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好きな人ができました。
そう言ったら、
貴方は怒るでしょうか。
それとも、笑うでしょうか。





○その瞳に映るもの○




「クーラウド!」

街が見下ろせる小高い丘の上で、クラウドは愛剣の手入れをしていた。そこへ届いた自分の名前を呼ぶ声に顔を上げると、エアリスが小走りで駆け寄ってくる姿をその瞳に捉えた。

「良かった、やっと見つけた」

そう言いながら彼の傍までやってくると、エアリスは少し息を弾ませながら嬉しそうに微笑んだ。

「何かあったのか?」

クラウドがそう尋ねると、エアリスは言葉を返さないままその場にしゃがみ、座っている彼の瞳を覗き込むように見つめた。

「…ッエアリス?」

「いいからそのまま!」

急に近くなった翡翠色の瞳に戸惑いを隠せないクラウドに、エアリスは彼の蒼い瞳から視線を外さずぴしゃりと言葉を放った。

「――――うん、ありがと!」

時間にしてみると数秒だっただろうか。エアリスはそう言うと漸くクラウドの瞳から視線を外した。

「何だったんだ…?」

彼女の無言の攻撃からやっと解放されたクラウドは、訝しげな表情で真意を問うた。

「ちょっと確認、かな?」

エアリスは多くは語らずにクラウドの隣に移動すると、そこへ腰を降ろした。

「確認…?」

相変わらず訳が分からなかったがこれ以上追求しても無駄だろうと、クラウドは視線を愛剣に戻し作業を続けた。
そんな彼をエアリスはちらりと横目で見遣る。

(変わることなんて、ないと思ってたんだけど、な)

最初は彼を通して"彼"を見ていた。
似てないけどそっくりな彼を通して、あの"彼"を。
"彼"のように人懐っこいわけでも、明るく笑うわけでも、優しく言葉を掛けてくれるわけでもないのに、ちょっとした仕草や癖が"彼"に重なった。
だけど、いつしかこの目の前の彼自身に惹かれていた。

(わたし、薄情なオンナ、なのかな)

でも知ってしまったのだ。
彼の不器用な優しさを。
彼の存在がどんなに自分を救ってくれているのかを。
そして、この強くも儚い彼を守りたいと思う自分を。

ふと、視線を上げると目の前には雲1つ無い空が広がっている。

(うーん、"俺のことなんか忘れていいよ"、とか言いそう)

そこに"彼"を思い描いたエアリスの口元は自然と緩む。

「百面相」

すると突然横から声が降ってきた。

「え?」

声の主を振り仰ぐと、呆れたように苦笑しているクラウドがこちらを見ていた。

「あんたさっきから百面相してるぞ」

「わ、やだ!」

エアリスはあわてて両手で頬を覆った。
いつの間にか顔に出てしまっていたらしい。見られてた、そう思うと途端に恥ずかしさが込み上げる。

「一体どうしたんだ?」

突拍子も無いのはいつものことだが、今日の彼女は明らかに様子がおかしい。
そう思ってクラウドは少しだけ真剣に尋ねる。

「ん〜?ないしょっ」

先程の慌てた様子から一転して、落ち着きを取り戻したエアリスはいつもの調子でそう誤魔化した。

(今はまだ、ね)

「ふうん」

クラウドはそれだけ言うと手入れが終わった愛剣を手に立ち上がる。

「あれっ拗ねちゃった?」

「…別に」

くすくすと笑い声を上げるエアリスが面白くなくて、クラウドの顔は余計に強張った。
にも関わらずエアリスは相も変わらず楽しそうに笑っている。そこから立ち上がる気配は、無い。




「……ほら」

突然、エアリスの目の前にグローブをしたクラウドの手が差し出された。
彼のその行動にエアリスが驚いて顔を上げると、決して表情豊かとは言えない彼の照れくさそうな顔がこちらを向いていた。

「戻るぞ」

そして、ぶっきらぼうにそう言葉を零すと余計に恥ずかしくなったのか、とうとうそっぽを向いてしまった。

「うん!」

満面の笑みでそう答え、その手を取ったエアリスをクラウドは立ち上がらせてやる。

(…ほら、こんなにも違う)

今目の前にいるこの彼が堪らなく愛しく感じるのだ。
滅多に笑わなくて、不器用で、だけど彼なりの優しさで自分を包んでくれるこのひとが。

「ね、クラウド。いつか話したい事、あるの。聞いてくれる?」

長い長いわたしの初恋。
この澄みきった青空のようなひとの話。

「なんだよ、俺があんたの話を聞かなかったことがあるか?」

その問い掛けにクラウドは不服だと言わんばかりに大袈裟に肩を竦めた。

「うんうん、そうだった、ね!」

そしていつか、ザックス、貴方も聞いてくれる?
わたしがこの世界でどんなに幸せだったか。

いつの日か空の果てで。




――忘れるわけ、ないよ。
いつまでも心に残ってる。
大事な大事なわたしの初恋のひと―――。



20101203 mai
くるみさまに捧げます。

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