FF7

□僕らは
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「海が見たい、な」

まさに鶴の一声とでもいうのであろうか。稀に飛び出るエアリスの素朴な要望に反対する者は誰ひとりいない。
現に今、海が近くにあるこの場所で各々野営の準備を整えている。
ただ、海が物珍しいと感じるのはエアリスだけなのか、仲間たちは野営の準備に参加しようとした彼女に海を見に行って来て良いと提案した。

「エアリス、ここは良いから行っておいでよ」

「でも…」

「これだけ人数がいれば大丈夫よ。さ、暗くなる前に!」

渋るエアリスにティファは彼女の背中を優しく押してそう告げた。

「ありがとう」

漸くその好意を受け取ったエアリスは、軽い足取りで浜辺へと向かった。
そしてその直後、無言で気配を消した人物がひとり。
それに気が付いたティファは小さく口元を綻ばせてその背中を見送った。


***


仲間たちからそっと離れて浜辺まで来たクラウドは、少し距離を置いて海を眺めるエアリスを見つめていた。
真っ白な砂浜に立つそのピンク色の姿は、差し詰め砂浜に咲く一輪の花のように思えて、クラウドはそんな気障な考えが浮かんだ自身に苦笑を漏らした。

「いつまでそうしてるの?」

不意に掛けられた声にクラウドは我に返った。視線を上げると、顔だけをこちらに向けたエアリスがくすくすと笑っていた。

「気付いてたのか…」

クラウドはバツの悪そうな顔をしてエアリスに歩み寄った。

「いつ声掛けてくれるのかな〜って待ってたのに」

待ちくたびれちゃった、とエアリスは小さく舌を出した。そしてまた視線を海に戻した。
彼女の隣に立ったクラウドもそれに倣って視線を海に向ける。
空では太陽が傾きかけていて、その光を受けた水面はキラキラと光っている。また、海風が心地よく頬を撫でていた。
クラウドがちらりとエアリスを見ると、彼女は真摯にその光景を見つめていた。無言のままの2人の間にはさざ波の音だけが響く。

「ね、ちょっと歩こっか」

どの位そうしていただろうか、エアリスはいつの間にかクラウドの方を向いていて、そう言葉を零した。
彼女の提案にクラウドが無言で頷くと、2人はゆっくりと波打ち際を歩き始めた。

「何を、考えていたんだ?」

暫く歩いてから漸くその口を開いたクラウドは、先程から募っていた疑問を言葉にした。

「う〜んと、ね。海って世界と繋がってるんだな、とか、この風はお母さんの所まで届いてるのかな、とかいろいろ!」

そう言って嬉しそうに微笑むエアリスに、クラウドは内心少しほっとしていた。
また何か1人で思い詰めていたのではないか、と考えていたのだ。

「あとは、不思議だなあって」

エアリスは前を向いたまま、今度は小さく呟いた。

「不思議?何がだ?」

彼女の言葉の真意が分からなくて、クラウドは聞き返す。

「こうやって同じ時間を過ごしているのが」

不思議じゃない?とエアリスは瞳を細めた。

確かに、とクラウドは思った。あの時エアリスから花を買っていなければ、五番魔光炉から落ちた先があの教会じゃなければ、2人はこうしていることは決して無かったのだ。
全く別の人生を歩んでいたはずの2人が、今こうして同じ場所に立ち、同じ景色を眺めている。クラウドは暖かな感情が胸に広がっていくのを感じた。
すると、ずっと前を向いていたエアリスが歩みを止め、クラウドに向き直った。
橙色に染まった景色に溶け込んだエアリスは、柔らかく微笑む。

「嬉しい、ね」

「!!」

自分の気持ちを見透かされた気がして、クラウドの頬は一気に紅潮した。
そんなクラウドにエアリスはふふっと笑うと、海に視線を向けてある一点を指差した。

「ね、クラウド、見て」

クラウドは言われるがままエアリスの指差した方向に視線を向ける。

「空と海が出会う場所」

それは水平線だった。
空と海が溶け合うように寄り添っている。全く別の物が出会っている、場所。

「何だかわたしたちみたい、だね」

嬉しそうにこう呟いて、エアリスはクラウドの手と自分のそれをそっと重ねた。

「…ああ、そうだな」

クラウドはそれだけ言うと、その手を優しく握り返した。

砂浜の上では、長く伸びた2つの影が寄り添うように重なっていた。



僕らが出会ったのは、きっと運命線上―――。


20101120 mai
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