DOUBLE WHITES*DOUBLE KINGS

□白雪姫
2ページ/3ページ

 問題はここからだ。

 石段の端から王子役の拓也が、継母と魔女の役目を終えた信明の背に跨がってやって来た。
 今度は馬役のようだ。

「おお!なんとうつくしい姫ぎみなんだ!!」

 大袈裟な身振りと共にしらゆきの側まで歩くと、方膝を付いて座り込んだ。
 しらゆきはその前で胸の上で両手の指を絡め合わせて目を閉じたまま横たわっている。

「悪い魔女に毒リンゴを食べさせられた白雪姫は死んでしまったのです」

 映士は棒読みなのを身振りで誤魔化す。

「王子様、白雪姫に愛の口づけを!」
「な"っ!!?」

 馬役も終えた信明はいつの間にか映士の隣に立っていて、小人役をしていた。

 思いも寄らない言葉にバッと勢いよく信明を振り返った。

明らかに狼狽する映士を見て信明はニヤリと笑う。

「うつくしき白雪姫!僕の愛の口づけで生き返っておくれ、そして僕の妻に!!」

 慌てる映士を無視して拓也は寒い台詞に感情をたっぷり込めて熱演を続け、しらゆきの肩に手を添えた。

 そうだ。白雪姫は王子様のキスで目覚めるのだ。

拓也の顔がゆっくりしらゆきの顔に近付いていく。

(だっダメだっ!!!!!)
 
 ドクドクと体をめぐる血液の流れが頭に響くのを聞きながら、映士は目の前の二人を見つめていた。


「ん〜」

 あと10センチ、あと5センチ・・・あと・・・

「がぁあぁぁッ!!待った待ったぁぁあぁあッ!」

 気付いたら映士は主役二人の間に入って拓也の口を押さえて頭を押し返していた。

しらゆきの肩に手をおいたまま、拓也は海老ぞりになった。

「ないふんはよ!!!」
 何すんだよ、とジタバタ暴れる拓也。

 驚いて目をぱちぱちさせて映士を見つめるしらゆき。

「・・・ブッ!だぁっはっは!!」

 腹を抱えて笑い転げる信明。

 そして、

「あ"・・・」

 自分の行動を今更ながら自覚して青くなって固まる映士。

「バカだぁ、映士。ほんとにするわけないのにねー」

 涙を拭いながら未だに笑いを堪える信明はやはりのんびりした口調だった。
 しかし彼が腹の中で何を考えているのかは、まだこの時は誰も知らないだろう。

「ちぇー、つまんねえの!もうちょっとだったのに。なぁ、しらゆき?」

 不満そうに頭の後ろで手を組む拓也はしらゆきに問いかけた。

「そうだねぇ。えーじ、どうしたの?白雪姫は王子様の口づけがないと生き返れないんだよ?」
 小首を傾げて不思議そうに訴えるしらゆきに、知ってるよ!、と心の中で悪態をついた。
 彼女は何も分かっていない。
 だからこそ。

(しらゆきにキスなんかさせてたまるか・・・)

 自分が周りの虫からしらゆきを守ってやらないと。

 苦虫を噛み潰したような顔をして、映士はため息をついた。
「兎に角ー、今日はここまでー。もう暗くなるし家に帰ろう」
 助け船を出したのはやはり信明。
 へらりと笑顔でいうと、しらゆきに手をさしのべて彼女を立たせた。

「映士はねぇ、しらゆきに他の男とキスなんかさせたくないんだってー。どうする?しらゆき」

 信明はそう言って視線だけを映士に向けると、ニヤリと嫌な笑顔を浮かべた。

「な"っ!!!!」

「ふぅん」


「「・・・」」

 以外にも淡白なしらゆきの反応に映士と信明は言葉を失った。

「なぁー、もう帰ろうぜー」

 完全に蚊帳の外に追いやられていた拓也が痺れを切らしたようにわめきだした。

 その一言で四人は広場をあとにする。

 帰り道。
「『ふぅん』だって。残念だったね、映士」

 きゃっきゃと騒ぐ拓也としらゆきから少し離れた後ろで、信明は映士に話しかけた。
 面白そうにニヤニヤと薄い笑いを讃えて。

「…何がだよ」

 口をへの字にして映士は聞き返す。

「何がって。…じゃ、あのとき『どうして』って聞かれたらどうしてた?」

 あの時、とは恐らく『ふぅん』の後だろう。

「わからない。でもまだしらゆきは何もわかってないだろうから適当に誤魔化したと思う」

「あはは、まぁ、気長に頑張ってー。きっとこれからもっと敵は増えるよ」

そう言うと分かれ道で信明と拓也は右の道に曲がり、四人は手をふって別れた。


「わかってるよ。でも…」

 映士は横を歩くしらゆきに目を向けると、夕日に照らされて紫色に朱が映ったしらゆきと目があった。

「なぁに?えーじ」

 小首を傾げて映士を見つめるしらゆき。

「何でもない」

 ふわりと笑って手をとった。


真っ赤な夕日に染まる道、後ろを付いてくる影くらい背が伸びた頃、二人はどうなっているだろう、と映士は未来に思いを馳せた。





終わり

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ