DOUBLE WHITES*DOUBLE KINGS
□金色の力
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「はぁ…はぁっ…」
開けた土地の真ん中にしらゆきはいた。
「『灯火』!!」
彼女の荒い声と共に、手を伸ばした方に拳大の火の玉が勢いよく飛び出した。
一本の木に当たったそれは、一気に葉に燃え移る。
「『水流』!!」
すかさず水の塊が燃え盛る木にぶつけられ、ジュッという音と共に黒い煙をあげた。
雷、大地、風…しらゆきが知る限りの魔法を展開し尽くした後、強気な雰囲気漂う表情は崩れ、前に付き出した手をだらりとおろした。
(私、何やってるんだろう…)
手の甲で額に浮かぶ汗を拭うと近くの木に背中を預けて夜空を仰ぎ見る。
部屋を飛び出してからどれくらいたっただろうか。
既に空には星が散っており、細く欠けた月も薄い雲で見え隠れを繰り返している。
汗で首に張り付いた髪を剥ぎ取ると、ひんやりと吹き抜ける風が体を冷した。
「寒…」
思い返すと後悔ばかりが押し寄せる。
(最近の私、どうかしてる。莉緒だって聞かれたくないことくらいあるのは当たり前なのに…勝手にイライラして勝手に泣いて……)
「最悪…呆れただろうなぁ」
「ほぉ…この世界にも魔法を知るものが居るとは…」
「え…?」
反射的にしらゆきは突然掛けられた声の主を探してあたりを見渡す。
「あ…」
振り返った後ろに一人の老人が立っていた。
白い髪は既に残り少なく、腰を曲げて一本の杖に体重を掛けている。
かなり高齢だろうと思われた。
(はっ!まずい、見られた!?)
莉緒は何も言わなかったが常識的に混乱を招くだろう魔法を使うところは他人に見せるべきではないことはわかっている。
しらゆきは困惑の表情で老人を見つめる。
「お嬢さん、クレドのもんじゃろう?」
優しく微笑む老人にしらゆきは戸惑いを隠せずに彼を見つめていた。
(クレド…この世界の名前をどうしてこのお爺さんが知ってるの…?)
動揺で訳がわからなくなっているしらゆきは少しも体を動かせなかった。
「ほっほ。そう固くならんとも大丈夫じゃ。ワシも昔はバリバリの魔法使いだったんじゃから」
「えっ…魔法を使えるんですか?」
目を見開いたしらゆきは問い返す。
この世界には魔法をつかう文化はないと莉緒が言っていた。 それは間違いであるはずはないし、当然しらゆきは魔法を使う人間を自分以外には知らない。
「ほぉ、二日で五色の力は習得したか…なかなかじゃな」
「え? でも莉…私に魔法を教えてくれた人には才能が無いって言われましたよ」
二人は開けた土地の端に置いてあった古い木の椅子に腰掛けていた。
老人はつい最近莉緒が魔法を学びに行ったセシリアの世界から旅行に来たらしい。
「いや、全く魔法に触れる機会が無かった状態から始めたんじゃから大したもんじゃよ…あやつの見本だからか、この荒らさ…」
「えっ? 何ですか?」
最後の一言が聞き取れなかったしらゆきは小首をかしげて老人を覗き込んだ。
「い、いや何でもない!…で、お嬢さんは何でこんな時間に一人でおるのかね? 随分荒れておったようじゃが」
「う"…それは、その…」
朗らかに笑う老人にしらゆきは俯いて先程起こった宿での出来事を話した。
「ほっほ、そうかい、そうかい」
(あやつ、昔から変わっとらんのぅ)
老人はまたしても朗らかに笑った。反対にしらゆきは僅かにほほを膨らましている。
(むぅ…真剣なのに…)
その様子に気づいたのか、老人は優しく微笑んでしらゆきに向き直った。
「お嬢さんは『金の力』を習得してその男をウィンテリアへ連れていきたいんじゃな?」
「…はい。」
しらゆきは力なく首を縦に振った。
「しかし、向こうにいって男と白雪姫が再開することが辛い…か?」
「…? いえ、逆に早く逢わせてあげたいです。白雪姫もきっと彼を待っていると思いますから」
まっすぐ老人を見据えてそう言ったしらゆきの言葉に嘘は無かった。
(お嬢さんはまだまだお嬢さんかな…)
老人は困ったように眉を下げて笑い、白雪姫も待っている…か、と誰にも聞き取れないように小さく呟いた。
「それではお嬢さん、『金の力』の使い方を教授しようか?」
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