DOUBLE WHITES*DOUBLE KINGS

□第2部:知られざる文化
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 店を閉め、街を出てから五日。
「なぁ、まだなのか?ボルドの町ってのは」
「んー、この辺の筈なんだけど…」
 私たちは歩いていた。
 五日の間、ずっと。
「お前たちの歩くのが遅いからだ。本当ならとっくに今頃向こうの世界に居る筈だと言うのに…」
「何よ!私のせいだってゆうの!?」
「他に誰のせいだと言うんだ」
 朝も昼も夜も。
 殆ど寝ずに話していたせいもあってなかなか打ち解けて来たと思う。
 それは良いんだけど。
「しょうがないでしょー! お前には金の力があるなんていきなり言われてもハイそうですかって出来るわけないじゃない!」 私、しらゆきには空間を操る『金の力』というのがあるらしい。
 …全く使えないんだけど。
 だって私たちの世界では魔法なんて『寝言は寝て言え』ってくらい有り得ない事なんだもん。
 解らないし、大体それが本当かも疑わしいし。
「はぁ、一発で出来るとは思ってなかったが、まさか此処まで才能無しとは…。宝の持ち腐れだな」
「何なのあんたムカつくーっ! 映士、斬っちゃって!」
「あいあいさー! 今の俺に斬れねぇもんはねぇ!」
 スラリと背負っていた剣を抜く映士。
 しかし、その剣は幼い頃から振り慣れた古い剣ではない。
 行き付けの研師のおじさんに旅立ち知らせると、見かねたおじさんが映士の古い剣を引き取って新しい幅広の長剣をくれたのだ。
 流石にあのボロい細身の剣で数々の試練を乗り越えるのには少々心許ない。
 映士はそれを肩に担いで黒髪の男を向き合い、ニヤリと歯を見せた。
「意気込みは良いが人を斬るのは犯罪だ」
「うるせぇ、お前を人と思わなけりゃ問題ねぇ! オラ食わせろ寝せろハゲ頭ーっ!」
 勢いよく地面を蹴り飛ばして男目掛けて走り出した。
 両手に力を込めて剣を振り切る。
 寝不足と空腹で目が血走っていたため、迫力がある。
「とうとう狂ったか…だが甘いっ!」

《キンッ…!》

 男は自らの細剣で映士の大剣を受け止めると、あっさりと映士を身体ごと跳ね返した。
「うぐっ」
「あーもぅっ! 伸びちゃった、どうするのよ! まだボルドに着いてないのに!」
「知らん。捨てておけ」
「……」
 どうしようかな。
重いし、でも流石に捨てるのはちょっと…。
 黒髪の男は私と気絶して顔の上をヒヨコが駆け回っている映士に背を向けてさっさと歩いていく。
 その背中越しに横に広がる光の帯が見えた。
「あ、ボルドの町!?」
 首を縦に振った男を見て浮かれた私はいつまでも伸びている映士を一睨みして思いっきり腹に蹴りを入れてやった。
「ブホォ!」
 あ、起きた。ラッキー!
「映士、見て! あれが、ボルドの町!!」
 映士は咳き込みながら起き上がって何やら文句を言いながら前方に見えるボルドの町に視線を向けた。
「げっ、まだ遠いじゃねぇかよ…」
「本気で捨てるぞ、さっさと歩け。今日中にボルドに着くぞ 」




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