DOUBLE WHITES*DOUBLE KINGS

□さぁ、手をとって。
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《カタン……》
 木製の丸テーブルの上に三セットティーカップが並べられた。
 三人はそれぞれ自分の前に置かれたカップに手を伸ばす。
 ここはしらゆきの店。
「で!?アンタ誰だよ?」
「さぁな」
「テメェ、ふざけやがって…」
 森から帰り着いてすぐ、初めに口を開いたのは暗い青色の髪を揺らしながら金色の瞳を細めて鋭く光らす映士。
「何か見たこと無い服装ね」
 続いて警戒心からかまだ動きに滑らかさが戻らないしらゆき。
「気にするな、大した事じゃない」
 それより、と男は続けた。
 ティーカップをテーブルに置くと真剣な表情でしらゆきを見る。
「しらゆき少女。頼みたいことがある」
「おいおい、それより自己紹介が先だろ」
 黒髪の男は映士を静かに一瞥した後、質問に答えることなくしらゆきに視線を移した。
「おい、テメェ聞いてんのか?」
 ガタンと椅子から立ち上がり、映士は黒髪の男に怒鳴り付ける。
「うるさい犬だ」
 黒髪の男は鼻と眉の間にシワを作りイラつきを露にした。
「だぁあぁぁ!ムカつく!めちゃくちゃムカつくぞ!」
「映士、黙って」
「ぐっ、しらゆきまで…」
 暴れる映士を一喝すると、しらゆきは男の黒い瞳を見つめた。
「簡単に言うとしらゆき少女、俺の旅に付き合ってほしい」
 黒髪の男はテーブルの上に肘をつき、両手の指を組み合わせて確りとしらゆきを見つめ、静かに言葉を放った。

・・・?

「はい?」
「何だ!いきなり!?ってかお前は名乗れ!!」
 突然放たれた言葉にしらゆきは完全にフリーズ状態。
 映士は足を踏み鳴らして暴れだす。
 しかし黒髪の男は全く気にした様子もない。
「まぁ、そういうわけだ。本当は今日中にこの街を出たかったが何せもう夜だ。出発は明日にしよう。俺はもう寝る」
 そう言って男はカウンターの奥、つまり しらゆきの家に入っていった。
「あっ! おい! ……何なんだアイツは! 旅にしらゆきを連れていく? その前に名乗れっての! 意味わかんねーなって聞いてるかしらゆき!」
「……」
 しらゆきは映士の言葉に答えずに真っ直ぐ男が消えていった扉の向こうを見つめていた。
「いやダメだ。断じてダメだ。しらゆきを旅になんて出せるか! ……ってそれより普通ーに独り暮らしの女の家に上がり込むんじゃねぇ!!!」
 映士は本来父親のために用意された台詞を大声で叫ぶと椅子に座ったまま動かないしらゆきを置いて奥の部屋に走り出した。
「おい!テメェ本当何なんだ!まずは名乗れ―――――の前にこっから出ろ!!」
 黒髪の男に追い付くなりその腕をつかんで入り口の方へ引きずり出そうと引っ張るがびくともしない。
 映士は男の腕にしがみつき何度ももがく。
「はぁ。お前は騒がしい。名乗れと言われても君には関係ないんでね。ほら離せアホ」
 黒髪の男は自身の腕にしがみつく少年の頭を反対の手でガッと掴むと適度に力を加えてそれを押し返す。
「がっ!!カンケーねぇだと抜かせ!!俺はしらゆきの…………!」
 最初こそ勢い良く叫ぶものの、次の言葉に詰まった。
 ここぞとばかり黒髪の男は映士を引き離し片手を腰にあて肩越しに映士に笑いかける。
 それはもう、不適に。
 ニヤリと音がなりそうなくらい嫌らしく。
「あぁ、父親か?」
「出てけェェェェェ!!!!!!」
 殺気を発しながら睨むがこれ以上あの男に掴み掛かることはできなかった映士を男はさっさと追い返した。
 パタンと扉が虚しく閉まる。
「父親なんかじゃ…ねぇよ」
 映士は小さく地面に向かって呟くとさっと顔をあげてしらゆきのもとへ戻った。
 心の中に消えた怒りを探しながら足を踏み鳴らして。





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