小説

□春
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「あー同じクラス!!」
「香代何組ー?」
「2組ィー」
「うそォーあたし4組だよー」
「ショック〜」
「うわっお前5組かよー」
「また一緒!?」
「美由!! アンタ和也と同じよ!!」
「オマエ境と同じじゃん。よかったな」
「るせー」


1度目の春〜出い〜


桜の花びらの舞う4月。
体育館前に張り出されたクラス表を見ながら、それぞれの友達と互いのクラスを確認しあう新入生達の中に、彼女はいた。
髪の天辺は金色。下にいくに連れてオレンジ、茶色、黒と色が変わっているという異様な色で、まるで濃いピンク色の口紅をつけているかのような赤い唇、真紅の瞳、性格のキツそうな顔立ち。
その全てが、彼女に人を寄せ付けない理由だった。

「3組…」

ワイワイ騒ぐ生徒達の中、その少女は1人で呟いた。



――あたしは1人だ。
この学校でも
きっと――



生徒達の明るい笑い声が煩わしくなって、少女は体育館裏へ向かった。
大きな桜の木の下に、先客がいた。
真っ黒な髪に優しい感じの少年。木に手をあて、微笑んでいた。


――なんだアレ。


少女は眉をひそめた。
少年も少女に気付いたようで、横目でこちらを見る。


――影薄い男!!

「――…どうも」

最悪な第一印象。
良きも悪しきも、これが2人の出会いだった。


「何してんの?」

少女は少年の後ろへ行き、聞いた。

「えーっとあいさつ」

あいさつ?

「誰に?」
「――…木」

少年は少し頬を赤らめた。

「はぁ? 木にあいさつ? オマエバカじゃねぇ? バーカ!!」

少女なのに口悪ッッ!!

「うるさいなぁっ何しようと僕の勝手だろっしかも2回もバカって言うな!!」

少年も負けじと反抗。

「バーカ」

しかし少女は再びそう言い、木に手をあてた。

「この野郎ォォォ!! またバカっ…て何してんの?」
「…あいさつ」
「オマエぇぇぇ!! 僕をバカにしてんのかァァ!?」
「いや」

キレる少年をヨソに、少女は冷静だった。

「木にあいさつすんのってどんなカンジなのかなぁっ…て」
「バーカ」
「バカに言われたくないね」

2人は暫く、黙ったまま木に『あいさつ』をしていた。


良きも悪しきも、それが2人の出会いだった。





――1年3組

(あ、あった。広瀬秀子…)

秀子は自分の名前が書いてある机を見つけて、椅子に手をかけた。

「あ」

丁度その時隣の席の椅子に手をかけていたのは、さっき会った少年だった。

「さっきの…」
「バカ男」

秀子は少年の言葉を遮って言った。

「バカ男って呼ぶなァァ!!」
「だってバカ…あ」

秀子の真紅の瞳の中に、更に深い紅が入った。

「アンタの名前、平田馬鹿男でよくねェ?」

秀子は無表情で極普通に言った。

「言いワケねぇだろォォ!! ん? アレ? 何で苗字が平田って知ってんの?」
「……勘」
「勘? そんなんで分かるか?」
「分かるよ」

秀子の瞳に再び深い紅が入った。

「聡に馬…で何て読むの?」
「…なぁやっぱソレ勘じゃないだろ? こんな滅多にない名前、勘じゃ分かんねェよ」
「えーとあ、あれ」

秀子は辺りを見回し、机の方を指差して、言った。

「ん?」

少年は秀子の指差した方を見た。

「名前、書いてある」
「あ゛」

机に書かれた名前だった。
そこにはしっかりと【14.平田聡馬】と書かれている。

「やっべーどーしよーコレ。マジ恥ずかしいんだケド! これじゃー僕バカじゃん、バカじゃん!!」
「プッ」

真っ赤になった顔を手で覆い隠す少年――聡馬の横で、秀子は噴き出した。

「アンタやっぱバカ」

そして苦笑しながら言った。
聡馬は、顔を覆った指の隙間から秀子を見、更に紅潮した。
秀子の笑った顔を初めて見た。

「ア…アンタは? えっとひろせ…ひでこ?」

聡馬は顔を真っ赤にしたまま、話を誤魔化した。

「ひろせしゅうこ」

秀子は名前だけ答えた。

「しゅうこか…あんましゅうこって読まねぇよな」
「アンタは? 何て読むの?」
「僕はひらたそうま」
「そうまか…成程ね…」
「なぁ、もしかして僕ら隣?」
「もしかしなくても隣じゃない?」
「偶然だな。まぁ、よろしく」

聡馬は秀子に手を差し出した。

「……よろしく」

少し黙って、秀子は手をとった。




 
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