小説

□中下
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「飛鳥あぁぁぁあぁぁぁぁああぁああ!!!!!!!!!!」


ごめん…飛鳥…あたしのせいで…


1000年先のブストーリー
中下編:1000年後のセカ


無残な光景が広がっていた。
黒月は見下ろすように下を向いたまま立っていた。
黒月の足元には、当たり前の如く返り討ちにされた、飛鳥が横たわっていた。
夢夜は、その光景を虚ろな目で見つめながら、その場に座り込んでいた。


――飛鳥…まだ…生きてる…? 生きてるよね…?


夢夜はやっとの思いで立ち上がり、フラフラした足取りで飛鳥の元へ進んだ。
黒月に見下ろされたまま、夢夜は飛鳥の生死を確認した。

「息…してない…」

夢夜は静かに言った。そして、顔を上げて、キッと黒月を睨んだ。

「人間相手にっ…本気出さなくてもいいじゃない!! 人間に本気出したら死んじゃう事くらい…あんたなら知ってるでしょ!?」

目には、涙が浮かんでいた。夢夜はもう1度飛鳥を見た。

「飛鳥…飛鳥ぁ…飛鳥ぁ!! 何馬鹿な事やってんのよ!! 早く起きなさいよ!! 何時までそんな冗談やってんの!? 早く起きないと…早く起きないとっ…あたしもう飛鳥と一緒に帰ってあげないよぉっ…!?」

飛鳥の体に、夢夜の涙がポタポタと零れ落ちて、小さな水溜りを作った。

「おい。何時まで俺を待たせるつもりだ? この俺が待っててやってるんだ。もう用は済んだか? お別れなんて必要ないだろう? どうせ今からお前が天国に会いに行く事になるんだからな!!」


天国ニ…会イニ…?


そっかぁ…ここであたしが黒月君にやられて死んでしまえば、飛鳥に…会える…

でも、あたしはそれで済んでも、お父さんとお母さん、絵里姉と恵兄と孝兄、

それから、飛鳥のお父さんとお母さん、香奈芽さんと信二さん…

みんながそうじゃいかないよ…それに、こんなとこであたしが死んだりしたら…

折角飛鳥が自分を犠牲にしてまで守ってくれたっていうのに…飛鳥にあわせる顔ないよ…

今度は、あたしが返す番…飛鳥を…飛鳥を死なせるわけにはいかない!!

あたしは…まだ飛鳥に何も伝えてないんだから!!



夢夜がスッと(黒月からすると突然)立ち上がった。

「ぐはっ!!」

黒月は、油断していたので避け切れず、夢夜の頭は立ち上がった時黒月の顎に激突した。しかも夢夜は勢いよく立ち上がったので、結構衝撃があったらしい。黒月はそのまま後ろに倒れこんだ。

「ってぇ〜…」

黒月がそのまま顔を上げると、夢夜が物凄い形相で黒月を見下ろしていた。ゴゴゴゴゴ……という効果音がついていそうだ。

「このクズが……よくも飛鳥を…絶対許さん!!!!! 生きて魔界に帰れると思うなよ!!? 今すぐ地獄の塵にしてやる!!」
「何だそれ!? まさかあの魔法を使うつもりか!!? 止めておけ。お前のような半人前の魔女が使えるような術ではない!! 万一使えたとしても、何千年と眠り続ける事になるぞ!!」
「それでも構わない!!! 飛鳥をこんなにした罪は…それくらい重いんだから!!!」

チャージ完了。夢夜はもう既に発動させるだけになっていた。

「貴様…っその男の事は別にどうでもいいんじゃなかったのか!?」

黒月も応戦したが、飛鳥への想いと黒月への怒りに満ちた今の夢夜に、敵うハズもなかった。




何で今まで気付かなかったのかな…



あたしが…鈍感だからだよね…





次の瞬間、眩いほどの光が夢夜の視界を覆い、あまりの眩しさに、夢夜は目を閉じた。
次に目を開けると、黒月の姿は消えていた。

「やっ…た、の…? あたし…たお…した?」

夢夜は、あまりの衝撃に震えていた。

「あああ…やっ…やったぁー…!!」

嬉しくて、涙が溢れてきた。しかし、すぐに眠気に襲われた。

「あ…飛鳥…」


このまま死なせたくなんか…ないよ…!



夢夜はウトウトしながらも、眠りに着く前の最後の魔法を使った。



『もぉーっまたかよ;; 前髪切ればいいじゃん』

そう言いながらも、いつもちゃんと結んでくれた飛鳥。


『これでセーフ♪』
『いやあるイミアウト! 風紀さん見てる!!』

鈍感な上に天然なあたしを、いっつもサポートしてくれた飛鳥。


『アイツはやめとけって!』

いつもあたしの事心配してくれた飛鳥。


『馬ー鹿! おまえが鈍感だからだよ!』

何だかんだ言って、いっつも助けてくれた飛鳥。


『でもそんなとこも全部ひっくるめて、オレはずっと夢夜が好きだった!』

こんな鈍感で馬鹿なあたしを、ずっとずっと好きでいてくれた飛鳥。




それなのに…あたし…


『負けると分かっていても相手に向かっていくのが、人間の男ってもんなんだよ!!!』


最後まで…何にも気付かなくて…



今更…気付くなんて…






遅…す…ぎ…










目を開けると、視界いっぱいに真っ青な空が広がっていた。

「あ…れ…? オレ…生きてる…?」

飛鳥は起き上がった。

「夢夜は…?」

すると、手が何か温かい物にあたった。

「ん?」

飛鳥は横を見て、その温かい者の正体に気付いた。

「ゆ…」





理京、遊二、一純、塁の4人は、家の外で飛鳥達が帰ってくるのを待っていた。しかし実際は、帰ってくるのを願っていた、の方が正しい。何せ相手はあの黒月一族だ。
もっとも、一純と塁は、黒月一族がどういう一族なのか、よく知らないわけだが。

「ねっねぇ…やっぱり行ってきた方がいいんじゃないかな?」

塁が言った。

「いや、待って! あれ…」

理京が指差した方に目をやると、そこには必死に走ってこちらに向かってくる飛鳥の姿があった。

「飛鳥!!!」

塁は飛鳥の方に走っていった。

「ねぇ…」

一純は静かに言った。

「夢夜ちゃんは…?」
「ねぇっ!! 理京ー!! 早くっ…早く来てっ…! 夢夜ちゃん…夢夜ちゃんが…っ!!」

塁の声に、3人は急いで走っていった。しゃがみ込んでいる飛鳥と塁の後ろに、もう1つ人影が見えた。

「ゆっ…夢夜!!」
「ねぇ飛鳥君!! 何があったの!?」

遊二と理京が声を上げた。飛鳥は、背中に背負っていた夢夜を下ろして言った。

「分からない…何にも分からないんです…オレは、あいつに…黒月に向かっていって、やられました。それから目が覚めたら…黒月はもう居なくて…代わりに、夢夜がオレの隣に倒れてて…」
「消去魔法…?」
「それから…回生魔法だな…」

理京と遊二は、顔を見合わせて言った。

「しょうきょ魔法…とかいせい魔法…? って、何だ?」

一純が首を傾げて尋ねた。

「消去魔法ってのは、“消し去る”って意味の魔法で、記憶とか物を消すような消却魔法とはワケが違う…かなり難易度の高い魔法だ…」
「回生魔法は“生き返らせる”魔法で、これもかなり難易度の高い魔法…一応存在はしているけど、普通は殆ど使わない…何故なら難易度が高い故にその分負担も大きいから…」
「負担?」

飛鳥が言った。

「魔力の使い過ぎで起きていられなくなるんだよ。魔力だって万能ではないもん…こんなに難易度の高い魔法となると…1000年くらい眠る事になるんじゃないかな」
「1000年!?」
「違うな。2つだから2000年だ」

遊二が付け加えた。

「2000年…」

飛鳥は呆然としていた。

「でもっ…どうして? あたしこのコにそんな魔法教えてないよ…まだ早いと思ってたし…」
「失敗すれば命だって落としかねない魔法だからな…」
「…んで」

呆然としたまま飛鳥が言った。

「え?」

理京と遊二が聞き返した。

「何でそんな…凄い魔法を…2つも使う必要が…」
「飛鳥君の為じゃないのかな」
「え?」

理京は続けた。

「多分…飛鳥君がやられた時、飛鳥君…死んだんだと思う」
「え?」

飛鳥が言った。驚くのも無理はないかもしれない。1度死んだ、という経験をした人など、この世にはいないのだから。でも、これなら目が覚めるまでに何が起こったのが全く分からないのも納得出来る。


もし、本当に俺が死んだのだとしたら…?

俺を殺された恨みを晴らす為に、黒月を消去魔法って奴で…?

それから俺を…回生魔法で…?

でも、おばさんは教えてないって…何で使えたんだ…?

それに…2000年眠る事になるのも…知ってたはず…なのに…何で俺の為に…?


「何故使えたか…それってさ、1つしかないんじゃないかな?」

沈黙を破って、塁が言った。

「えっ…でも、教えてもないのにあんな高度な魔法…どうやったって使えないよ!? 何を使ったっていうの!?」

理京が堪らず聞き返した。

「ち、違うよ…そうじゃなくて…何かを使うんじゃなくて…」

塁が、一呼吸置いて言った。

「愛の力、だよ」
「愛の力???」
「ホラ、よく言うじゃない。愛は無敵って。愛があれば何でも出来る、って。それ信じ難い事だけどさ、そういうのを奇跡って言うんでしょ? あたしは信じる」

塁は真顔で言う。冗談で言っている訳ではない、そういう顔だった。

「そういうのあるかは分かんないけどさ、夢夜が飛鳥君の事好きだったのは本当だよ」
「え? どういう…?」

飛鳥は理京に聞いた。

「自分では気付いてなかっただろうけど。気が付くといつも飛鳥君の話をしてた。何だかんだ言って、あのコ飛鳥君の事、必要としてたんだよ」

飛鳥は、ある決心をした。

「あの…1つ提案があるんだけど…」

2043年、秋の事だった。








「ぅん…」

夢夜は目を開けた。視界には、見覚えのある天井が広がっている。

「ここは…?」

ボーっとする頭をフル回転させた。そして遂にその場所に気付いた夢夜は、ガバッとベッドから飛び起きた。

「あたしの…部屋…」

自分がどれくらい眠っていたのかはハッキリしないが、確か聞いた話では、魔法は2つだから2000年…しかし部屋は、夢夜が眠りにつく前と、何ら変わっていなかった。

夢夜の好きなピンク色の壁、ストライプ模様のカーテン。



 
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