小説

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一純が私を忘れても、私は絶対に、一純を忘れない。


一純と13の
Cさよら 一純



「!?」

一純が理京の机に触れた途端、突然辺り一面が光に包まれた。その光は、理京の机から発せられていた。やがて光の中から、ある形が浮かび上がってきた。そして。

カタンッ

机の上に、鍵が落ちた。星型で、リボンまでついた女の子らしい鍵だ。

「鍵…?」

(この鍵は…)

一純は、その鍵に見覚えがあった。



〜一純の回想モード〜

『…けて…』

『見つけて。鍵を』

「理京…?」

「あなたがこの鍵で扉を開けてくれれば、きっとまた私達は昔みたいに仲良く暮らせるはず…だから見つけて。そして開けて。鍵を」

「昔みたいにってどういう…待って理京、理京!! 理京ぉー!!」




「――っ…夢…?」
「りきょうって誰!?」
「ギャー!! ひっひっひっ仁!?」
「りきょうって誰?」
「か…彼女」
「え゛ーっっ兄ちゃんって彼女いたの…「しーっ;;」

〜回想終了〜



(仁にバレたのもあの時だったな…)

今目の前にある鍵は、あの時の夢に出てきたものにそっくりだ。

「って事はこの鍵が…?」

一純が鍵に触れると、鍵は光を放った。そしてその光が消えた直後。

「えっ!?」

そこには扉だけの世界が広がっていた。

『ようこそ。扉の世界へ』

静かに、声だけが聞こえてきた。

『この一から十三の扉はそれぞれ、地獄界、死神界、天界、人間界、魔界、悪魔界、神界、天国界、仏界、吸血界、精霊界、裁界、人界への扉です。よく「人界と人間界は一緒ではないのか」という質問をいただきますが、一緒ではありません。あなたがいるべき世界は人間界です。あなたはどこへ行きたいのですか?』
「えっ…魔界…」

誰がそんな質問するのかとか、ていうかここに人が来るのかとか、色々な事を思ったが、それどころではなかったので言わずにおいた。

『では魔界への扉を選んで下さい』
「Σえ!? 自分で!?」
『当たり前じゃん』

(急にタメ口!? じゃあ1つ1つ試してって鍵穴とあった所が…)

『ただし』
「ただし…?」
『チャンスは1回。失敗すればもうその鍵は、使えません』

それは、あまりにも難しかった。自分の勘を信じていくしかない。けどこれに失敗したら、2度と理京には会えない。そんな気がする。

『どうしますか?』

一純に、決断の時が迫る。優柔不断な一純は、愛する彼女の為に決めなければいけなかった。

「時間を…下さい」

結局、まだ決められなかった。

『分かりました。では決心がつきましたら、私の名前を呼んで下さい』
「名前って…」
『スタードロップです』

目の前に広がる世界が、教室へと変わった。そうだった。もともと自分は、教室にいたのだ。



理京に会いたい。理京に会えるなら何でもする。でも迷いがあった。“チャンスは一回”…


決心がついたのは、8月15日のことだった。


「扉を開けるよ。スタードロップ」


1年前の今日、2人の恋は始まった。

目の前は、自分の部屋から扉の世界へ変わる。

『いらっしゃい』

ロングヘアの女の子が現れた。アラビア風な格好だ。実はあの13段の階段の精霊、サン・フォルテと姉妹らしい。サン・フォルテが姉だそうだ。

(姿もあったんだ…)

前回は声しか聞こえなかったため、一純がスタードロップの姿を見たのは初めてだった。

『さぁ選んで』
「はい」

一純は目を瞑った。

(理京…)

心の中で理京のことだけを想った。

(理京…)


――一純




一純は目を開いて顔を上げた。


――一純


今、確かに聞こえた。理京の声が。


――今何してるのかな…一純…


その声は、「13」と書かれた扉の中から聞こえていた。13。不吉だと言われているが、2人には何かと縁のある数字だ。リリィから貰った液体は、13日だけ違う自分になれる、というものだった。一純が理京に隠していたのは、13歳の誕生日から、夜になると性別が変わる、ということだった。13段の階段には、いろんな意味で世話になった。一純が13人に増えたこともあった。そして何より、一純の13歳の1年間の初恋は、楽しかった。
一純が開けた扉の向こうには、見たことのない世界が広がっていた。
月は赤く光っていた。
西洋風の建物が並んでいた。
空の上にも家があった。
人間界ではありえない、そこには、魔界があった。

(ここが魔界…)

一純は理京を捜して、道を歩いていた。すると正面に、見覚えのある子がいた。カフェテラスのようなところで、友達とくつろいでいた。その少女はふと、呟いた。

「一純…今何処にいるのかなぁ…」

そこには、大好きな人を想う、少女がいた。

「ここだよ」

(え)

リキョーは振り向いた。

「一純!? どうしてここに…」
「あなたがいずみ!?」
「リキョーから耳がタコになるくらい聞いたあの!?」

リキョーの友達が、次々に言った。

「タコ!?」

リキョーは毎日幸せそうに、人間界で出会った“素敵な人”の話をしていた。
バカで、鈍感で、変で、カッコ悪くて、でも大好きな人の話。一純の話を。

「私人間界に戻してくるっリカ、ユウジ、ツナミそこにいてよ!」
「うぃー」

リキョーは、人間界に行く前から仲のよかったリカ・ミュー(12)、リカが連れてきた友達ツナミ・コルノール(12)とツナミの兄・ユウジ・コルノール(14)にそう言い、『魔界と人間界の境界』の方へ走った。




『魔界と人間界の境界』の存在を知る人間はほとんどいない。この世に魔界というものが存在することすら知らないのだから。だが、魔界の住人は、ほとんどが境界の存在を知っている。魔法使いであることを隠して人間界へ旅行へ出かける者もいる。
まぁ、月からでも行けるらしいが。リキョーによると、宮崎へ繋がる境界は、『Forget me not』というお店の裏にあるらしい。

「フォーゲット・ミー・ノット…?」
「知らないの? 日本語で『勿忘草』っていう花」
「わすれなぐさ…」
「花言葉に意味があるみたいだけど…」
「花言葉?」

そんな話をしながら歩いていると、いつの間にか『Forget me not』の裏についた。裏の壁を押すと、その先には見慣れた町並みがあった。辺りは、暗い。

「さっきは昼間だったのに…」

一純は呟いた。

「当たり前よ。人間界は時が経つのが早いから…魔界の1年は人間界の3年なの。だから私達が生まれたのは本当は違う年。そう考えるとちょっと、運命的じゃない? 私達が出会ったの」
「…そうだな」
「ねぇ…」

理京が言った。

「どうして魔界に来れたの?」

一純は、ポケットから鍵を出した。

「それ…私の鍵!!」
「これで扉を開けた」


少しの沈黙の後、理京は目に涙を浮かべて言った。

「会いたかった…」

一純は静かに言った。


「うん」


少し、話をした。前みたいに、たくさん話した。このあと訪れる別れが、嘘のように。

「あ、そうだこれ」

話した後、理京は思い出したように一純に紙を渡した。

(……?)

一純は首を傾げる。

「あげる」

理京はそう言った。一純は紙を開いて、中を見る。中には理京の字で詩が書かれていた。



いつかはあなたのこと
何も感じなくなるのかな

いつかはあなたのこと
忘れちゃうのかな

そう考えるけど
あなたのこと
忘れたくないな

出会いの場面から
もう一度
やり直していい?

だってあの時は
あなたのコト
こんなにも愛してしまうなんて
思ってなかったんだもん

今だから言うけど
あなたが休んだとき
1番空席を見てたのは私だよ

あなたと競ったテストの点数
勝ち負けはどーでもよかったんだよ

あなたからもらった手紙は
今でも私の宝物だよ

あのチョコレートは義理じゃないよ

あなたのとなりで過ごした1ヶ月は
私にとって
他の何よりも

輝いてるんだよ…

もう 後ろ姿だって
1km先にあなたがいたって
何百人、何千人に増えたって 私にはあなたが分かる

視力じゃないよ 目ェ悪いもん
ただ好きだから 分かるの

今度いつ会えるかなんて分からない
もう会えないかもしれない

でも…
たとえあなたが私を忘れても
私は絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に………

あなたを忘れないよ




「いいでしょ? 私のお気に入りの詩なの」

丁度読み終えた頃、理京が笑って言った。

「特にココ」

理京は、最後の部分を指差して、言った。

「たとえ一純が私を忘れても、私は絶対に絶対に絶対に、一純を忘れないよ」

(…? ――??)

「僕も忘れないよ?」

『何でそんなこと言うの』という顔で、一純は理京に言った。
すると理京は首を横に振ってもう一度、

「絶対に忘れないよ…!」

と言って、最後の魔法をかけた。





『こんな体質だけど、一時のつもりでも…理京が好き。大好き』
『あたし体質なんて気にしないよ?』

『キ・スv』
『はぁ?』

『ほ゛ん゛と゛ほ゛ん゛と゛』
『しょうがないなぁ…』

『川越…これから…どうしようか…』
『うん…――』

『――ごめんっ…! ただ……ただ川越が好きなだけなんだ』

『今も……あなたが好きです…』

『ホンモノは…こっち…』

『僕が好きなのは川越だけだよv』
『こんなとこでそんなこと言うなぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!///』

『よろしくね。佐藤君♪』
『佐藤!?』
『ねぇ佐藤なにしてんの?』
『佐藤っ!』
『佐藤さぁ、何なの!? 最近!! なんか変だよどうしたの? 妙に接近してきたり、冷たかったり…』
『一純って妹いないって言ってなかっ…た、け…』
『じゃあ一純の奥さん責任重大だねぇ』
『一純のことが、好きだからだよ?』
『一純?』
『一純が女になる体質でよかったって…思っちゃった…かも』
『バカ一純ーっっ!!』
『一純は自分のコト「オレ」って言わないっしょ?』
『一純っ!』
『一純…今何処にいるのかなぁ…』



 
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