小説
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≪次の日≫
ビリッ
どさっ
「おわったぁー」
何が終わったかというと、荷物の整理。たった今、全部の荷物を段ボールに入れ終えたところ。後はこれを送るだけ…。
川越理京(13)、ひとまず休憩。すると。
♪チャラララララチャ♪
机の上に置いておいた、理京の携帯が鳴った。理京は相手を確認せずに出た(癖かもしれない)。
「もしもし?」
『あ、理京…』
「波音!」
一純と13の扉
A一純絶体絶命
電話の主は、理京の鬼ダチ飯根波音(13)だった。
『よかったー最後に話したかったんだー』
『最後…?』
波音は驚いたように言った。
「うん。私…もう…学校に行けない』
波音には、十分すぎるほど衝撃の一言だった。今まで鬼ダチとまで言われ、凄く仲の良かった親友、理京。
用事こそ重大ではあったが、いつも通りに電話をした。するといつも通りで無い返事が返ってきた。
「え…」
『ところで何か用?』
理京が、話をそらす様に言った。電話に出た時の波音の声色もなんか変だったからだ。
「あっそーだった」
波音、忘れてたの?
「理京っテレビつけて、テレビ!」
波音の口調からして、何かヤバそうな雰囲気だ。
「えっテレビ?」
(もうしまったよ〜)
テレビは既に段ボールの中だ。しかも全部同じ段ボールであるせいで、どれに入っているか分からない。
「どれだっけ?? あ〜〜〜も〜〜〜;;」
「???」
電話越しの波音には、理京が何をしているか全く分からない。ましてや――
「?」
「それっ!」
理京が魔法を使って、テレビを出したことなんて。
理京はテレビのスイッチを入れる。テレビはゆっくりとついた。泣いている男の人と、その人に背を向け、立ち去る女の人がうつっていた。恋愛系のドラマのようだ。だが、重要なのはそっちではなく、その上に映し出された、【ニュース速報】のテロップ。
【SAN503便が現在、エンジントラブルにより降下中。墜落の可能性あり。】
『503便』
『エンジントラブル』
『降下中』
――『墜落』
理京の目には、それしか映っていなかった。ドラマの男の人は、立ち去る女の人に何か叫んでいるようだったが、理京の耳には、何も入ってこなかった。
『理京? 大丈夫? 切るよ?』
それを察した波音が言った。
「あ…うん。バイバイ」
最後の電話を、こんな簡単な挨拶で済ませてしまったが、今はそれ以上にまずい事がある。最期かもしれない状況。普通墜落と聞いたら、乗客の安全を祈る事しかしないだろう。理京はそれだけでは済まない。何故なら――
(SAN503便って…一純が乗るって言っ…)
♪チャラララララチャ♪
床に落とした携帯が、再び鳴り始めた。理京は震える声で出た。
「も…もしもし?」
『理京?』
電話の相手は。
「一純!? ケータイ持ってたの!?」
一純の周りが騒がしい。
『テレビ見たよっ乗ってるの!?』
「うん。理京…僕…もうダメ…死ぬ…』
「あ…一純…っ」
『理京…最期に一つ…』
「えっ何?」
『理京…
愛してるよ…』
理京の目から、涙が流れた。自分に向けられた、最期の言葉。
『わ゛ぁ゛…っ プツ
「一純!? いっ…」
電話から聞こえるのはもう、虚しい機械音だけだった。
――こんなに好きなのに、私はあの人の為に、何も出来ないの?
そんなの
そんなの
嫌だ!!!
――…それは、理京にとって一番大きな魔法。
大好きな人を守るための、愛の力。
『皆様にお知らせします。当便SAN503便のエンジントラブルは、解消されました。現在、当便は、順調に宮崎空港へ向かっておりますので、ご安心ください。繰り返します――…』
周りは喜びや安心の声で溢れかえっていた。そんな中、
「理…京…?」
一純だけは、これが奇跡でない事を知っていた。
≪RIKYO≫
「ハァハァハァ…やっちゃったぁ…」
理京は、仰向けに倒れていた。
(好きな人の事になると、やっぱやっちゃうよね…)
「魔力使いすぎちゃった…;」
理京は起き上がり、お茶を一口飲んだ。
「よーしテレビ片付けて終わりだー!!」
≪空港≫
「ホント奇跡的だな」
「だよねー♪」
一純の兄・佐藤透(18)と弟・佐藤仁(11)がこんな会話をしていた。今は夜で、2人とも女の姿だった。そこに、一純が入ってきた(勿論女)。
「……理京だよ…」
「りきょう? ダレ?」
透が聞いた。
「知ってるー! 兄ちゃんの彼・女! 見た事はないけど」
「え゛え゛ーっっお前彼女いたのかよっ!! 美人!?」
「しーっ兄ちゃん声でかい;」
さぁ、バレちゃいましたよ?? どうする一純!?
「でもその彼女と奇跡…? どう関係あんだよ?」
アレ、意外と簡単に終わったな。つまんねーの。
「理京…人間じゃないから…」
「え゛――――っっ!!!」
仁と透が想像するのは、世にも恐ろしい生き物(?)。恐ろしい生き物を想像した2人はカナリ怯えてます。
「何かキモイ奴想像してない? 見た目人なんだけど…; 魔女だよ! 魔・女!」
魔女という事がどういう事なのか、一純はまだ理解していないらしい。(バカだろ
全く隠そうという気もなく言った。すると。
「お前…大丈夫か? パシられてるだろ…逆らうと怖そうだな。付き合わされてんのか?」
「まさか兄ちゃん、ワザワザこんなのとは…」
言いたい放題言ってる人たち。
(こいつら…自分の兄弟を何だと…#)
「悪かった…冗談だ。魔女だからって悪い奴とも限らないし、第一、そんな奴が助けてくれるわけないしな」
「確かに魔女なら出来るかもね☆」
話を聞いていた一純の姉・佐藤千瀬(17)が言った。
「でもなんでオレらが乗ってるって知ってたんだ? ニュースとかじゃ分かんないよな?」
仁が言った。
「ケータイで電…」
「ケータイ!? 俺のケータイパチッたのお前かよっ! くそぉ…テトリスいいとこだったのに(後略)」
「あんな時にテトリス!?」
上から、一純、透、仁。
「つーか一純キスした?」
「え…まぁ…」
「えー何回何回!?」
「んー…6回」
「6回!?」
「多っ; オレより…くそっ…」
「父さーん兄ちゃんキ…」
「ギャー!! ストップストップ!!」
≪理京宅≫
とんとん
靴を履いた。もう準備は万端だ。
カチャ
ドアが開いて、理京の母・マミ子が入ってきた。ここは、理京の部屋の中。
「支度できた?」
「お母さん。うん。バッチリだよ☆ 荷物送ったしv」
そこには、髪を下ろしてウェーブをかけ、黒いワンピースに黒いマントという格好の理京がいた。
それを見て、マミ子は突然泣き出した。
「お母さんっ!? 大丈夫よ。1年だけだし」
「こっちは3年なのよ」
親のわりに、子はそこまで不安がっていないものだ。
「リキョー、気を付けて…!」
「大丈ー夫だって!」
理京はそう言って、右のクローゼットを開けた。
「気を付けるほど遠くないから」
そこには何処まで続いているのか分からない、闇があった。その闇の中に、1つ扉が浮かんでいた。
「さてと…」
理京が手を出すと、箒が出てきた。そして箒にまたがり、黒いとんがり帽子を被った。典型的魔女スタイルだ。
「あ、お母さんこれ、大斗に渡しといて」
そう言って理京は、マミ子に封筒を渡した。猫の尻尾のようなものが付いた、奇妙な封筒だった。
「分かったわ」
マミ子は、封筒を受け取った。
「絶対、開けないでネ」
そう言い残し、理京は床を蹴った。闇の中を急降下し、ゆっくり浮上しながら理京は扉へ近付いていった。
頭の中では、一純との思い出が蘇っていた。
次会う時には、きっともう…
一純…
またね…
理京は、扉の向こうへ、消えていった。
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