小説
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『理科よ、自習になれっ』
(え)
『突然自習になってさ』
『一純の奥さん責任重大だね』
『右のクローゼット開けてないっ!?』
『理京?』
『自習になってさ』
一体どういう事!?
一純と13の扉
@一純と理京の秘密
≪7月≫
「あっつー」
川越理京(13)は、髪を下ろして、教室でうなだれていた。
「理京? 暑いなら髪結べよ」
鬼ダチ、飯根波音(13)が言う。
「んー…」
理京は髪を結び、再びうなだれた。
「あっつー」
理京、顔がたれぱんだにそっくり…
「みてるこっちのがあついっつーの!」
マブダチ、村上凛(13)が突っ込む。
「美夜、マンガない?」
理京は、うなだれながら友達の山田美夜(13)に尋ねた。
「んー…もうちょっと」
美夜は、隣で腐女子友達(!?)の松浦まなび(14)(2-4)と高崎晴日(13)(2-3)に覗き込まれながら、マンガを描いていた。どうやらもう少しで完成らしい。そのすぐ後。
「できたァ!」
美夜が叫んで立ち上がった。そして理京の方へノートを持ってやって来た。
「はいっ」
美夜は理京にノートを渡した。
「ん」
『林檎』。ノートに書いてあるタイトルは、理京が初めて見るものだった。
「新作!?」
理京は嬉しそうな顔をしながら美夜に聞いた。
「うん。詩が入ってるよ」
わくわくしながら、理京はノートを開いた。
『いつかはあなたのこと――』
詩を一通り見て、理京は言った。
「これ、借りていい?」
「? うん…でも…何で?」
美夜は不思議そうに聞いた。
「この詩ちょーいいから!」
理京は笑顔で言った。
「でもあつー;」
「まだ言うか#」
「ガマンしろよー明日から水泳あるからさ」
え、7月から? 遅くねェ? あ、男子が先だったのか。
≪翌日≫
「あっつ〜〜〜;」
「ガマンしろってー6時間目なんでしょ、水泳」
波音、人事のように言ってますが、ほんとに人事なんで。この学校の体育の授業は1、2組と3、4、5組に分かれてるので。波音は2組、理京は5組なので別。ほら、人事でしょ?
「水着持ってきた〜?」
「忘れる訳ないよねー」
凛と晴日がわざとらしく聞く。
「気持ちよかったよ〜v」
1、2組はもうあったようだ。美夜が自慢するように言った。
「!!」
理京が、ヤバそうな雰囲気を漂わせた。
「どうしたの? 理京?」
「まさか忘れた? …ってこたないか」
そのまさか。
(忘れた…;;)
「わわわわ忘れるワケないぢゃん; ちょぉっとトットイレ!」
理京、動揺しまくり;; 理京が去っていった後。
「忘れたっぽいよ」
「っぽいね;」
晴日と波音の間ではこんな会話があったとさ。
「ハァハァハァ…;」
理京は体育館裏まで走ってきた。あれ、トイレじゃ…
(しょーがないよね)
「ここなら誰も…」
来ないと思うけど、何する気?
(ん、理京?)
その時。友達と鬼ごっこをしていた一純が丁度そこを通りかかった。運がいいのか悪いのか…少なくとも、ここから2人の運命は大きく変わっていく…
偶然か、必然か。
理京は手を前に出し、何か言い始めた。
「夜の闇に咲く全ての星たちよ…我に力を。水着を…ここへ!」
最初の呪文のわりに願いが微妙…
理京の手の先に、星の形をベースにした俗に云う、魔方陣が現れた。理京の願い通り、水泳用のバッグが魔方陣から出てきた。理京はそれを受け取る。それは紛れもなく、魔法だった。
「理京?」
一純は、後ろから声をかけた。理京が驚いて振り返った先には勿論…
「一純!?」
とってもヤバい状況。
「見てた? 今の…」
「うん」
一純は、何の躊躇もなく答えた。ヤバいとかそういうのを、一純は理解していない。
「理京ってもしかして…魔女……?」
――『魔女』。
出た。ついに、この単語が。
バレた。理京の、秘密が。
「…じゃないよね? だって秘密はなしって…」
「そうだよ。あたし魔女」
理京は笑顔で言った。もう、隠しもせずに。
(嘘だ)
「これがあたしの秘密。隠しててごめんね」
(そんな…)
「じゃぁ…サヨナラ」
そう言って、理京は一純の横を通り過ぎた。残された一純は、ただ呆然と立ちすくしていた。
「うっ…うっ…うぇ…」
理京の頬を、涙が伝う。
(いつかこうなるって…分かってたのに…)
「一純、明日と明後日、旅行って言ってたな」
(丁度いいか…)
≪放課後≫
「あれっ姉ちゃん今日部活は?」
校門を出たところで、弟の川越大斗(12)と遇った。しかもその隣には…
「大斗…まなび!? Why!?」
何でそんなところでEnglish?
隣にいたのは美夜の腐女子友達・松浦まなび。
「年上の彼女/年下の彼氏 ってやつ?」
マジですか。しかも息ピッタリ。ピースとかしちゃってます。こいつらもバカップルか…
つーことは何だお前ら、今から放課後デートかァ?
「大斗…分かってるよね」
「勿論」
いや、私が分かってないんですけど。
きっとこれは、2人のような境遇の人にしか分からない事。
「何の話?」
まなびが大斗に尋ねる。
「ヒミツ☆」
「ケチ」
ケチで済むんだー。どうやらこの2人は別に秘密はなしとか決めてないようですね。
「あ、そだまなび、一純に伝言いい?」
理京は思い出したように言った。
「え? うんいいよー何?」
まなびは、軽い気持ちでOKしたのかもしれない。その役目が、とても重いものであるとも知らずに。
「もう…『学校に行けない』って」
「え…」
まなびと大斗は言った。2人とも、驚きを隠せなかった。でも、大斗が驚いたのは、まなびとは違う意味で。
「姉ちゃん、バレたのか?」
まなびには聞こえないよう、大斗は小声で言った。
「あんたは気をつけなよ」
理京は笑って言った。
「2人ともっ! お幸せにv(?)」
「姉ちゃん……」
「川越さん…」
「じゃぁ…部屋の片付けがあるから…」
「え」
まなびは言った。
「模様がえすんの?」
「まぁ…そんなトコ」
本当は、もっと…
≪次の日(土曜日)≫
「はぁーっ順調順調v」
理京は、段ボールに荷物を入れる作業をしていた。その時。
コンコン
誰かがドアをノックした。
「はーい」
ドアが開いて入ってきたのは、理京の母・川越マミ子だった。
「お母さん」
「どう調子?」
「うん順調v 明日中には行けるよ」
「そう」
いや、『そう』じゃないよ。何処に行くのさ? そんな荷物(段ボール)持って。
「短かったわね」
「長かったよ」
約7ヶ月。それは長かったのか、短かったのか。
「あの人ニブいのよ。もっと早く気付いてもおかしくなかった」
――あの人は本当に鈍感だ。それだけじゃなくて、反射神経だってない。呼んでも、2秒ぐらい後に返事するし、テニスも相手の速い球のスピードについていけないし、それに、それに…。
一純の笑顔が頭に浮かぶ。
鈍感だけど好きだった。
鈍感だって好きだった。
ヤなとこだって好きだった。
思い出が蘇ってくる。つらい。
そんな空気を察知したマミ子は、言った。
「お茶入れようか?」
「うん」
数分後。
コンコン
「はーい」
理京はドアを開けた。その先にマミ子はいなくて、かわりにお茶の入ったコップがフワフワと浮いていた。これが普通なのだ。
「ありがとー!」
理京はコップを掴むと、1階にいるであろうマミ子にそう言った。そして理京はお茶を一口飲んだ。
「よっしゃーっ! がんばるぞ」
大きく伸びをした。勿論、コップは浮いたままだった。
理京はまだ知る由もなかった。一純に何が起こるかなんて。
翌日。一純があんな事に巻き込まれるなんて…
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