小説5

□再会
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「すきぃ? 好きよ?」

白菊が首を傾げて微笑む。可愛いが、そうではない。

「そうじゃなくて、スキー!」


記−雪山の再会−


隆茂曰わく、スキーとは足に板を付けて雪山を滑る遊び(?)なのだそうだ。白菊にはちょっと想像ができなかったが、まあ雪山に行けるというならいいだろう。

「スキーだったら1番普通にデートできると思うんだ!」

これが隆茂の言い分だった。
そうして2人はスキーに行くことにしたのだ。





隆茂の運転する車で2人は、1番近いスキー場に向かった。スキー場に着くと、白菊は目を輝かせる。

「まあ…! 素敵!」
「気に入った?」
「ええ!」
「よかった」

隆茂が笑う。そして2人は受け付けを済ませ、隆茂はスキーウェアに着替える。白菊はそのままだった。

「…白菊、それで大丈夫なの?」
「当たり前でしょう? 折角雪山に来たのに、そんなもの着たら暑いじゃない」
「でも、転んだりしたときとか…」
「私を馬鹿にしてるの!? 雪女が雪の上で怪我する訳ないでしょう!?」
「そうなの?」
「そうよ!」
「…なら、いっか」

そして2人は外に出た。専用の靴を履き、スキー板を取り付ける。

「…動きにくいわ」
「でしょ? 大丈夫?」
「大丈夫よ。いざというときには雪になって逃げられるわ」
「あ、そっか。便利だね」
「でしょう?」

2人で楽しそうに笑う。そしてゲレンデへ歩き出した。白菊がやってくると、周りの人々は目を見開く。ひそひそと話し声も聞こえた。しかし大して気にも止めず、2人はスキーを始めた。雪の上でのスポーツだからか、白菊はすぐにコツを掴んだようだった。

「楽しい?」
「ええ! 楽しいわねすきー!」
「上から滑らない? リフト乗って」
「りふと?」
「アレ」

隆茂は少し上を指差す。2人ずつ座っている椅子が、上に向かって動いている。

「あれが…りふと?」
「そう。あれに乗って上まで行って滑り降りるんだよ」
「へえ…凄いわね」
「凄くはないよ? 普通」
「…そうなの」

2人でリフト乗り場に向かう。係員は白菊の格好を見て驚く。係員に白菊の事情を説明し、理解してもらうのにかなりの時間を要した。そして20分程経ったあと、ようやく乗せてもらえた。

「ごめんなさいね。雪山では触れて証明するのも難しくて」
「まあ、普通に手冷たい人いっぱいいるしね」
「いっそあの人、凍らせようかと思ったわ」
「それはやめてね」

リフトの上で2人はそんなことを言う。上に着くと、2人で雪山を滑り降りる。隆茂は、白菊と一緒にできることがとても幸せだった。

「ねぇ隆茂! もう1回行きましょう!」

滑り終わると白菊は、ノリノリで隆茂を再びリフト乗り場へ誘う。それから何度も上へ行っては滑り降りるを繰り返すと、隆茂はいい加減疲れてきた。

「隆茂! もう1回行きましょう!」

しかし白菊は一向に疲れる気配がない。やはり笑顔で隆茂に呼びかけるのだ。

「ごめん白菊。僕ちょっと疲れたから下で待ってる。1人で行ってきて」

言うと白菊は、少し残念そうな顔をした。

「…そう。じゃあ隆茂はそこにいてね。そこよ。絶対よ」
「分かったよ」

隆茂が返事をすると、白菊は隆茂に背を向け、リフト乗り場へ歩き出した。リフト乗り場に着くと、係員が白菊を見て“また来た!”という顔をする。しかし今度は白菊1人だったので、少し驚いたようだった。

「彼氏はどうしたんですか?」

係員のもとへ向かうと、係員が白菊に話しかけてきた。

「隆茂のこと? 隆茂は疲れたんですって」

白菊はそう言って、リフトに座った。

「…へえ」

後ろで係員が呟くのが聞こえた。
リフトに乗っていると、隆茂が立っているのが見えた。白菊に向かって手を振っている。白菊は微笑んで手を振り返した。上に着いてリフトを降りると、白菊は斜面に向かう。しかしその途中、木々の向こうに誰かがいるのが見えた。

「……?」

白菊はそちらに向かって進む。そして白菊は目を丸くした。

「…雪人…さん?」

そこにいたのは、雪人だった。白菊が小さいとき、たまに白菊と雲の様子を見にきていた、白菊の父親代わりとも言える人物。

「こんなところで何をしている、奥入瀬」

雪人は言った。彼は白菊が、奥入瀬を苗字にしたことを知らないのだ。

「何って…すきーよ。すきー」
「すきー…?」

雪人は眉をひそめる。

「そう、すきー。人間の遊びよ。とっても楽しいの!」

白菊が言うと、雪人は更に険しい顔をした。

「…あの男は誰だ」

雪人はその険しい表情で言った。

「え?」
「お前と一緒にいた男だ。人間だろう。お前の玩具か」

雪人の言葉に、白菊は驚く。

「玩具だなんて…! 隆茂は私の恋人よ?」
「恋人だァ!?」

次の瞬間、雪人は消え、白菊の目の前に現れた。

「お前ッ…! 人間なんかと恋仲になって…!」
「恋仲だなんて古いわよ? 雪人さん。今はかれかのって言うんだから」
「そんなことはどうだっていい! 何故人間なんかと…!」
「人間なんか人間なんかって、雪人さんだって元は人間だったんでしょう!?」
「ああそうだだから言っているんだ! 人間なんてロクな生き物じゃない! 今すぐ縁を切った方がお前の為だ!!」
「…雪人さん、貴方分かってないわ」

白菊は眉をひそめて言った。

「…何が」
「貴方が人間だったとき、貴方の近くにいた人はみんなロクな人じゃなかったの? みんな嫌な人だったの?」
「……」
「いい人は1人もいなかったの?」
「…それは」
「優しい人だっていたはずよ。人間だって1人1人違うわ。いい人も悪い人もいる。雪妖族だって一緒よ。そんな風に人間に嫌悪感を剥き出しにしていたら雪人さん、貴方の嫌な人間と同じよ」
「…奥入瀬、お前変わったな」
「そんなことないわ。私は最初から人間を恨んだりしてないもの。雪人さん、私は人間が好きよ。人間にはいい人も沢山いるわ」

雪人の頭に、1人の少女が浮かんだ。

「……そうかもな」

やがて雪人は呟いた。

「奥入瀬、今もあの山に住んでいるのか」
「え? …ええ、そうよ」
「だがこの間訪ねたときはいなかった」
「来たの? あー…でも、昼間だったらあまりいないわ。彼の家にいるの」
「…そうか」

雪人は少し不機嫌そうに言った。

「でもよく来れたわね。暑くなかった?」
「焼けそうだった」
「そんなに? よく倒れなかったわね」
「いや…倒れた」
「え?」

白菊は目を丸くする。

「倒れたって…」
「道端でな。力尽きた」
「それで…どうしたの?」
「人間の小娘に助けられた」
「……ふふ」
「何がおかしい」
「いえ…、いい子ね、その子」
「……」
「大嫌いな人間に助けられたのが気に食わなかったんでしょう? でも分かってるのね。悪い人ばかりではないって」
「……五月蝿い」
「ふふ…なら、もう少しね」
「は?」
「白菊!」

そこで後ろから声がして、白菊は振り返った。隆茂がこちらにやってくる。

「隆茂! どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! 白菊上にあがったのに、全然降りてこないから…!」
「あら、ごめんなさい」

そこで隆茂は、白菊の向こうに人がいるのに気付いた。そして目を丸くする。

「し、知り合い…?」
「ええ。雪人さんよ。雪人さん、彼が私の恋人の、内田隆茂」

白菊は2人を互いに紹介した。隆茂が雪人に手を伸ばす。

「初めまして。白菊さんとお付き合いさせていただいている内田隆茂といいます」

隆茂の改まった挨拶に、白菊は眉をひそめた。

「隆茂? 別に私のお父さんじゃないのよ」
「えっ? あ…そうだよね。すいません」
「…ふん」

雪人は2人に背を向けて歩き出した。

「雪人さん!」

白菊が呼びかけると、雪人は立ち止まる。

「人間なんて、嫌いだ」

呟いて、雪人は消えた。

「僕…なんか悪いこと言った?」

隆茂が気まずそうに訊ねる。

「雪人さん、隆茂のこと嫌いみたい」
「えっ」
「隆茂がいい人だから」
「…どういうこと?」

隆茂は訳が分からず首を傾げている。それを見て、白菊は微笑んだ。

「降りましょう、隆茂」
「え、うん…」

そして2人は斜面に向かう。

「白菊、結局あの人、白菊とどういう関係なの?」

滑り始める直前、隆茂が聞いた。

「そうね…お父さん、ではないんだけど…お父さんみたいな人よ」
「へえ……って、じゃあ嫌われちゃマズいじゃん!」

隆茂が隣でそう言うのを聞いて、白菊は笑いながら斜面を滑り降りた。



end


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