小説3

□拾
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「貴方のことが好きかもしれないわ」





隆茂は今の状況を必死に整理していた。そしてようやく、告白されたのだという考えに到る。しかし何か引っかかった。

「かも…?」
「え?」
「かもって言った?」
「かも…? ああ、ええと、違うの。好き…好き…好き…みたい」

白菊は言い直したが、あまり変わらなかった。

「みたい…」
「ええ、あの、先程今西さんにね、指摘されたの。私は貴方のことが好きなのだって。それで考えていたのだけれど…ええ、好きみたいだわ」
「……ホントに?」
「本当よ。貴方が好きだわ」

白菊は微笑んだ。

「…そっかぁ」

隆茂はホッとしたように笑う。そして続けた。

「僕も君が好き。大好き」
「…大好き?」
「うん、大好き」
「…本当に?」
「うん、ホント」

そして隆茂は勢いで白菊に抱きつきそうになった。白菊は目を大きく開いて思い切り屈む。隆茂はバランスを崩して転びそうになったが、なんとか持ち直した。

「び、びっくりしたぁー…」
「触らないで!!」

白菊は隆茂を見上げて強く言う。それに隆茂はビクッとした。

「えっ…あ…ごめん…」
「抱きつくなんて論外よ! 分かっているでしょう!?」
「嬉しくて、つい…」
「“つい”で抱きつかれて凍られたりしたら私が嫌なのよ! それくらい分かって頂戴…」

白菊があまりに悲しい表情をするので、隆茂はその頬に触れたい手を必死に抑えていた。隆茂が勢いよくその場に屈む。

「ごめん…で、でも! これで僕達、付き合うんだよね?」

隆茂が言うと、白菊は顔を上げた。

「…え?」

すると隆茂は悲しそうな顔をする。

「え、違うの…?」
「あ、いえ、あの、付き合うってどういう事なのかしら?」

隆茂は困った。恐らく1番難しい質問だ。

「あーえっと…例えば、デートしたり、とか…」
「でーと?」

白菊は首を傾げる。

「一緒に遊びに行ったり、ご飯食べたり、一緒にいれないときは電話したりとか…あ、それは無理だけど…とにかく! ずっと一緒にいるの!」
「それって、今までとどう違うの?」
「え?」

言われて隆茂は固まる。

「ずっと一緒にいて、お話したりするんでしょう? それなら今までと変わらないわ」
「あーそうだけど…気の持ちよう? 意識が違うんだよ!!」

自分でも半ば無理矢理な気がした。それでも白菊は、一応は納得しているようだった。

「意識…」
「うん」
「…分かったわ」
「僕の恋人に、なってくれる?」

隆茂は改めて問う。

「…ええ。けれど、絶対抱き締めようなんて思わないで。貴方を失いたくないの」

そして白菊は、自分が彼に対してそう思う理由をようやく見つけたのだった。

「貴方が好きなのよ」
「…うん。分かった。約束する」

白菊を見てそう言った隆茂の瞳は、何処か憂いを帯びていた。しかし、その真剣さは十分に伝わってくる。白菊は余計に胸が痛かった。

「…ごめんなさい。私が人間でなくて」
「えっ…違うよ! 責めてるワケじゃないんだ!! 触れられなくたって僕は君と一緒にいれればいい! 君がいいんだ」

隆茂は必死に言う。それが嬉しかった。体温が上がる。それを初めて、“あつい”ではなく“あったかい”と感じた。白菊が頬を染めていると、隆茂も自分が言ったことが恥ずかしくなってきたのか、頬を紅くした。

「…あったかい」

白菊が呟く。

「あったかい?」
「…ええ。私、幸せだわ」

白菊は微笑んだ。誰かに愛されることが、こんなに心満たされるなんて知らなかった。

「…そっか! よかった…君が幸せだったら、僕も幸せだよ」

隆茂も微笑んだ。
ようやく立ち上がると、ずっと屈んでいたため2人共足が痺れていた。それがおかしくて、2人で笑った。

部屋に入ったら2人並んで座ろう。少し間隔は必要だけれど。そんな間隔は愛で埋めよう。

手すりに掴まり、痺れた足をゆっくり動かしながら、2人は隆茂の部屋へ向かった。



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