小説3

□捌
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「お前最近楽しそうだな」

クラスの友達に呆れた顔でそう言われた。






「…そうか?」
「そうだよ。授業中までニヤニヤすんな!」
「そんなにニヤニヤしてた?」
「してたよバーカ! なんだよ彼女かよ?」

それを聞いて、隆茂はバッと友達を見る。

「はっ? 何言ってんだよ。違ぇーし」
「じゃあ何だよ」
「何って…ただの友達だよ」

隆茂は前を向きながら答えた。

「友達ィ? お前友達のこと考えながらニヤニヤすんの? 気持ち悪っ…」
「うるせーな。いいだろ別に」
「友達って女だろ?」
「だったら何だよ」
「好きなんだろ、お前。その子のこと」
「何言ってんだよ別にそんなんじゃないし」
「いや認めろよ。好きでもない女のこと考えてニヤニヤしてる方が逆にキモいぞ」
「…そんなこと言われたって」

隆茂がどうしても認めないので、友達は溜め息を吐いた。

「…分かった。じゃあ訊くけどさ、お前その子と一緒にいないとき会いたいって思うか?」
「思う。ていうか、今も会いたいって思ってるし」
「一緒にいるときは? 幸せだって思うか?」
「思うよ」
「今西とか、他の女友達に対しても同じように思うか?」
「…別に。今西はただの友達で、あの人は特別だ」

友達は再び溜め息を吐く。

「お前…そこまで自覚してんのになんで自分がその子のこと好きなの気付かねえの?」
「は…?」
「お前はその子が好きなんだよ。分かってんじゃねえか、普通の女友達には会いたいとか幸せだとか思わないって。だったらその子だけに対してそう思うってのがどういうことか分からないのか?」
「……」

隆茂は友達の方を見ながら黙っていた。

「好きなの、お前は。その子のことが」

友達は断言する。

「好き…?」

正直なところ隆茂には、好きという感情がよく分かっていなかった。でなければ、もっと早く気付いていただろう。

「好き」

隆茂は再び呟いた。

「そう、好き」

友達は隆茂に自覚させるようにもう一度言う。

「アンタ達、なんで好きとか言い合ってんの?」

後ろから声がした。2人は勢いよく振り返る。

「!? 今西!」
「アンタらそういう関係だったの?」

若干引いた顔をした今西が立っていた。

「んなわけねーだろ!!」
「あれ、授業は?」
「今終わったよ。聞いてなかったの?」
「うっそ…正一! お前が話しかけるから…!」
「はあ? 俺のせいかよ!」
「あーもう喧嘩しない! ノート貸してあげるから。隆くんには」

今西は隆茂にノートを渡した。

「…ありがとう」
「おい、俺は!?」
「はあ? なんでアンタに貸さなきゃいけないの?」
「あーそうかよはいはい分かったよ。どうせお前は隆茂にしか貸したくないんだろ」
「はあっ!? なな何言ってんのよ馬鹿じゃない!? 隆くん別にあたし…」

今西が隆茂の方を向いたとき、もうそこに隆茂はいなかった。

「隆くん…?」
「俺が喋ってるときにはもういなかったぞ。あの子に会いに…ってか」
「ちょっと、あの子って誰!?」

今西は正一に掴みかかる。

「好きな奴ができたんだと、アイツ」
「好きな…?」

今西は手を離した。

「授業中までその子のこと考えてニヤニヤしやがってよ。相当だよ、アレ」
「……まさか、あの寒そうな子…?」
「寒そうな子? なんだそれ。頼子会ったことあんの?」
「この前大学の近くまで来てたよ。この寒いのにノースリーブでさ。肌も髪も服も真っ白。変な子だった」
「はっノースリーブ!? 馬鹿じゃねえの!?」
「あたしもマジ有り得ないと思ったけど。せっかく一緒に帰ってたのにその子の姿見た途端今日は帰れないとか言いだしてさ」
「そりゃ…間違いねぇな。アイツそんな変人に捕まってんのか…」
「……」
「ドンマイ、頼子」
「触んな」

今西は肩を叩いた正一の手を払った。





隆茂がアパートに帰ると、白菊はその階段に座っていた。

「こんにちは」

白菊が微笑む。隆茂はその姿を見て頬を染めた。

「どうしたの? 頬が紅いけれど」

白菊はそれを見て隆茂に近付いてくる。隆茂は首を思い切り振った。

「ッ…なんでもない」
「? そう?」
「うん、行こ」

隆茂は白菊の横を通り過ぎ、先に階段を上り始めた。

「?」

白菊はそんな隆茂に疑問を抱きながらも、隆茂について行った。




気付いてしまった。好きだという気持ちに。
自覚して、認めたら、その想いは一気に加速する。きっと誰にも止められない。
振り返ると、彼女は自分を見て首を傾げる。そんな仕草さえも愛おしく感じた。
告げたらどんな反応をするのだろう。

「ねぇ、」
「…何?」
「…………暑くない?」
「いいえ? 大丈夫よ」
「そっか!」

階段を上り切った隆茂は、足早に自分の部屋へ向かった。



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