小説3

□弐
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「僕が食料探しに行こうか?」





男が白菊の住処に来て5日。男はとんでもないことを言い出した。白菊は顔をしかめる。

「…は? 貴方は馬鹿なの? 動かない方がいいから此処に置いてやっているのよ? 死にたいの? 死にたいのなら探しに行ってもいいけれど」
「…すいません」

男は小さくなって呟いた。白菊は溜め息を吐く。

「貴方は余計な心配しなくていいわ。その辺りで死なれたら迷惑だと言ったでしょう」
「そうだけど…何から何まで面倒見てもらってなんか悪い気がして…」
「別に、仕方なく世話してやっているだけなのだから貴方が恩を感じる必要はないのよ」

言って白菊は住処を出た。雪の降り積もった山の中を裸足で歩く。別に痛くもないし、赤くなったりもしない。自分の体温と雪の冷たさがあまり変わらないからだろう。
少し山を下りれば兎などの動物がいるので、捕まえて帰る。基本的に雪妖族のような種族は小動物を殺すことに抵抗がなかった。しかし男がそれを見て辛そうな表情をするので、白菊は住処に戻る前に皮を剥いで何の肉か分からないようにすることにしている。

「…何をしているの?」

白菊が住処に戻ると、男は何かもそもそと作業をしていた。白菊の声にビクッと反応し、何か隠す。

「! あ、お、お帰り! 早かったね!」
「…今日はいつもより簡単に捕まえられたのよ」
「そっか!」
「…何?」
「え、何が?」
「何かしていたでしょう? 今」
「別に、何でもないよ」
「…そう」

白菊はそれ以上は聞かなかった。会話が面倒だっただけだ。
住処の壁際に積まれている木の棒に、持って帰ってきた肉を刺し、焚き火にかける。

「今日は何の肉?」
「知ったら食べないでしょう?」

それは初日に分かったことだった。

「だって…可哀相だよ」
「この世界は弱肉強食よ?」
「…そ、そう、だけど…」

肉を火にかけると、白菊はすぐに火から離れた。

「寒くない?」

最近の定位置に座り、男に尋ねる。

「あったかいよ」

男は笑って答えた。

「…そう」
「そっちは暑くない?」
「…少しね。でも平気よ、全然」

それから肉が焼けるまでの間、男は今の世界の話をした。そして白菊は昔の日本の話をした。それはどちらにとっても興味深く、話に夢中になって肉が焦げるところだった。



「! おいしい」
「…そう」

白菊は男の笑みに口元を緩ませた。

「本当に、ありがとう」
「別に、礼なんて要らないわ」
「でも、君のお陰で助かったし、本当に感謝してるんだ」
「…分かったわ。その気持ち受け取っておくことにする」

白菊は男から目を反らし、肉を一口かじった。

「ごちそうさま」

男は残った木の棒を地面に置いた。

「兎」
「えっ?」
「兎の肉よ、今日のは」
「!? 〜〜っなんで最後に言うんだよっ!」
「知りたがっていたじゃない」
「食べ終わってから言うことないだろっ!?」
「でも美味しかったでしょう?」

白菊は意地の悪い笑みを浮かべる。

「っ…お、おいしかったけど…」
「ならいいじゃない」
「うー…」

男の何とも言えない表情が面白く、白菊は声を殺して笑う。

「! わ、笑うなっ!」
「っぷ、あはは」
「笑うなって!」
「だって…」

白菊が笑っていると、男は何も言わなくなった。男が静かなので見ると、男は驚いたような表情で白菊を見ていた。

「何よ?」

白菊は笑い顔のまま問いかける。

「いや…雪女って、そういう風に笑うんだね」
「?」
「いや、雪女ってクールで笑わないんだと思ってたから…」
「心外だわ。私にだって感情くらいはあるのよ?」
「そう、だよね…ごめん」

白菊は火に近付き、持っていた棒を二つに折って投げ入れた。

「笑った顔、可愛いと思う」
「…は!?」

火の近くにいるからなのか、それとも照れているのか、白菊の頬はほんのりピンクに染まっていた。

「普通の子って感じだった」
「…普通の子って何よ」
「特別な感じがしてたからさ。なんか…近付けた気がする」

男がはにかみ、白菊は更に頬を染めた。

「…暑い」

白菊はそれだけ呟き、元の位置に戻った。




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