小説3
□命よりも大切なヒト
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※中学のときに書いた小説を加筆・修正したものです。
命よりも大切な人っていますか?
私にはいます。
その人はバカで、間抜けで、変で、カッコよくもないけど、一緒にいると楽しくて、いつの間にか笑ってる。
そんな彼が、私は大好きです。
いつの間にか好きになって、どんどんその想いが積み重なってきて、今では自分よりも大事な人になりました。
彼のためなら何だってできる。
そう、例えば――…
命よりも大切なヒト
01、どうせ口だけ
命よりも大切な人っていますか?
私にはいます。
「亜莉沙ーっ!! こっちこっちー!!」
「待ってーっ何処ぉー!?」
「ホラッあそこ」
「あっ、ホントだ」
私の名前は矢本亜莉沙、中2。私の大好きな人は――
「何処がいいの!? あんな影薄い奴の」
「全部っ」
同じく中2、テニス部の山本直也。私の友達である山田ののかの言う通り、目立たないし影の薄い、パッとしない奴。そんなとこも含めて、私は彼の全部が好き。影が薄いクセにどちらかというと変な性格で、何故か気が合う。一緒にいると楽しくて、いつの間にか笑ってる。勿論第一印象は『何コイツ、影薄ッッ!!』だったけど…
「やっぱりいいなぁ…」
いつの間にか大好きになってたんだ。
「可愛いよぉ〜もぉマジ好き!」
「ホントに好きなんだねぇ」
「いいねーそんなに好きな人がいるって」
「いいよぉ〜すっごくいいよぉ」
帰り道。いつものように友達の谷口海香、森永晏奈と3人で帰っていたときだった。
「どのくらい好きなの?」
晏奈が突然訊いてきた。
「んーと…1年4ヶ月ぐらいかな?」
「違うよ! そうじゃなくて、幅? っていうか…気持ちの大きさ? みたいな」
「大きさ…あーえっとね…あ、命より!!」
「いのち??」
海香と晏奈が聞き返す。
さも当然のように、亜莉沙は語り出した。
「例えば――…学校が火事になって、山本だけ1人火の中に取り残されちゃったとするじゃん? まあそんなこと考えたくもないけど…もしそうなったら、先生とかに言う前に自分で助けに行く。他の人に頼んで運動場とかで心配しながら待っとくなんて絶対できない!! もし『もう遅かった』ーとか言って助けに行った人が戻ってきちゃったらやだしね。そんなことになるくらいなら自分で行ってちゃんと確かめる!! 通れそうにないとこも通る!! 自分が死んだとしても助けるよ!! アイツの姿見るまでは絶対諦めない!!!」
「た…頼もしいね…」
語り尽くした亜莉沙に、晏奈が言った。
「すごーい!! カッコいい!!」
これは海香の感想。
「でもさ、そいつは助かったのに自分が死んだらどうすんだよ」
「あっ綾野!? いつからいたのさ!?」
「火の中に取り残されて…ってとこ」
――セーフ!! 名前聞かれてない!!
亜莉沙がそんなことを考えているとも知らず、クラスメイトの綾野広人は続ける。
「で、どうなんだよ。自分だけが死んだら?」
「それでもいいよ? だってアイツが助かったことには変わりないしーアイツが助かればそれでいいもん。まあ、それくらい好きってことかな」
「亜莉沙…」
「矢本…」
沈黙のあと、続けたのは広人。
「そこまではねぇだろ!! どうせ口だけだよ!!」
「そんなことないよ!!」
「大体、言うだけならどうにでもなんじゃん!! でもさ、実際そうなったら絶対自分じゃ火の中は入れないって!!」
「そんなことない!!」
――私は自分で助けるもん!!
世界で1番、命よりも大切な人だから。
02、両想いじゃないでしょ?
「山本ーっっ」
「うわっ何」
「べっつにぃーなんでもないよー」
いつもこんな会話。どう考えても話してるのはいつも亜莉沙の方。直也は話す気ゼロだ。亜莉沙は分かっていた。
それでも亜莉沙が話しかけるのをやめないのは、亜莉沙にとって直也は世界で1番大好きな人だから。
自分にとっては大好きな人。相手にとっては大嫌い、迷惑。亜莉沙はそれでもいいと思っている。どんな形でもいいから、自分のことを覚えていて欲しい。「あー、あのいっつも話しかけてきたウザい奴ねー」でもいい。「そんな奴いたっけ?」よりは遥かにマシだ。
そう考えながら、亜莉沙はいつも話しかける。
「ラブラブー」
「廊下でイチャつくなよー」
いつもそう言ってくるのは、直也のクラスメイトの川崎隼人や福冨孝。
こういう奴らはウザい。それを言われると亜莉沙は話しかけられなくなる。本当にラブラブなわけでもないし、イチャついているわけでもない。ただ、亜莉沙が一方的に話しかけているだけで。両想いなんて噂もあるが、そんなの絶対に嘘だ。
「矢本…」
「はっはい!?」
突然後ろから呼ばれて、亜莉沙は勢いよく振り返る。
「もう…いいの?」
「あ、うん!! 全然おっけ!! じゃ、サヨナラッッ!!」
「うん、じゃ…」
直也が教室へ入るより早く、亜莉沙は猛ダッシュで教室へ帰った(直也→2年4組、亜莉沙→2年2組。直也が教室へ入ろうとした瞬間に話しかけてました)。
――“両想い”じゃ…ないでしょ?
私のこと、迷惑な奴だと思ってるんでしょ?
自分でもよく分かってるよ…
ごめんね…
でも大好きなの…
とまらないよ…
迷惑でもいいから…話しかけてもいい?
いざというときには…
自分の命より先に助けるから。
03、悪夢の現実
「告ろっかな…」
「お!?」
亜莉沙が昼休みを過ごすのは決まって2年4組。ののか、重森加央里、田辺友理、山村音色、小浜美葉の5人と一緒に、黒板に絵を描いたり、ゲームをしたり、話をしたり。
今日も6人で話をしていたとき、突然亜莉沙が呟いた。
「え!? マジ? 告るの?」
「おー!! 凄いじゃん!! 頑張れー!!」
「凄い! え? どんな風に?」
ののか、音色、加央里が順に訊いてきた。
「えー、う〜ん…呼び出して…かなあ??」
「おぉぉぉぉ!!!」
5人は盛り上がる。
「じゃ、私が呼び出す!」
これはののか。
「じゃあ私場所決める!!」
これは音色。
「じゃあのの呼び出すの忘れるかもしれないし!! (酷い)私も付き添いで!!」
これは加央里。
「じゃあうちは何もしない」
これは友理。
「私山本に何回も言ってあげる!!」
これは美葉。
「い…いや…いいんだケド…」
「いいじゃん協力させてよ!」
「そーそー」
「や、あのなぁ…呼び出してくれるのはいいよ。私クラスどころか校舎まで違うから、なかなか呼び出す機会なんてないと思うし…でも場所とかまで決めてもらわなくても…」
亜莉沙の言う通り、1、2組は北校舎、3、4、5組は中校舎なので、亜莉沙は直也と校舎が違うのだ。ちなみに亜莉沙以外の5人は全員中校舎だ。
「じゃあ、私達は何をすればいい?」
ののかが訊いた。
「呼び出しだけ」
亜莉沙が答える。
「何処に?」
音色が訊いた。
「中校舎の階段のとこでいいよ」
亜莉沙が答える。
「どっちの?」
加央里が訊いた。中校舎には3組側と5組側に階段があるのだ。
「5組の方」
亜莉沙が答える。
「いつがいい?」
友理が訊いた。
「放課後かな」
昼休みが終わり、5時間目の授業も終わり、6時間目も終わり、掃除も終わり、帰りの会も終わった。いよいよ放課後だ。