小説2

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硝くんと付き合い始めて3日。
最初の日に一緒帰った(?)きり、会話すらない状態なのを見かねた多村さんが、私にメモ帳を差し出した。

「手紙書きな!」



遥名の恋 11



「手紙って…何書けば」

確かにカップルが休み時間に手紙のやり取りをしているのをよく見かける。しかし毎日会って、話をして、一緒に帰っているというのに、何を手紙にすることがあるのだろうと思っていた。
しかし私達の場合は(同じクラスなので)毎日会ってはいるものの、話もしないし、一緒に帰ってもいない。だからといって手紙にすることがあるかと言われれば話は別だった。
なにせ今まで友達ですらなかった相手だ。何を話したらいいのか分からないし、そもそも何が好きなのかも分からない。共通の話題があるのかさえも分からない。

「なんかないの? 世間話でも社交辞令でも何でも」

私がメモ帳を前にして考え込んでいると、多村さんが言った。

「急にそんなこと言われてもなあ…」
「あ! そういえば硝くんこの前、髪切ったじゃん。そのこと書けばいいんじゃない? 『似合ってるね』とか」

永依ちゃんが思い出したように言う。確かに月曜日だったか、髪を切っていた。正直前の髪型の方がよかった気もするが、まあとりあえずは挨拶みたいなものだ。そう書くことにした。
返事がきたのは放課後だった。今までの会話のなさが嘘のように普通の文章だった。最後に“返事は月曜日でいいから”と書かれている。その言葉に私は、この先なんとかやっていけそうだという希望を見出したのだった。



7月2日。
月曜日からは修学旅行だ。修学旅行前最後の授業日だが、みんな何処かそわそわしていて集中できていない。その日の帰りの会のとき、修学旅行のバスの座席表が配られた。座席表を見て私は驚く。隣は永依ちゃんなのだが、反対隣が硝くんだったのだ。バスの座席はまず、男子女子それぞれ班の中でペアを組んで、それをクラスの委員長達が適当に組み合わせて決められた。ちなみに委員長達どころかクラスのほとんどが、私と硝くんが付き合っていることを知っている。付き合い始めた日に1度帰ったとき、あんなに短距離だったというのに何故だか沢山の人に目撃されていたらしく(しかももう1人いたのに)、私達の学年では割と有名なカップルになってしまっていた。つまりは委員長達に謀られたのである。自分達の仲よりも先に、周りの噂が広がっていく。私はそれに不安を覚えていた。



そして迎えた修学旅行当日。
宮崎空港に集合し、飛行機で大阪・伊丹空港へ向かった。そこからバスで京都へ向かう。バスの中で硝くんに手紙を渡した。隣でよかった、と思う。きっと明日にはまた返事がくるだろう。1日目は法隆寺を見学し、京都の旅館に泊まった。その旅館は風呂が地下にあり、男子の部屋が3階、女子の部屋が4階、エレベーターはあるが生徒は使わないようにと言われていた。更に当然男子は女子の部屋、女子は男子の部屋に行ってはいけないと言われ、先生達が各階の廊下で見張っていた。
夜、風呂上がりに多村さん達と階段を上っていると、踊場に硝くんとあずけんがいた。

「ほら、硝!」

あずけんに押され、硝くんが近付いてくる。そして手紙を差し出してきた。

「あ、ありがとー」

私はそれを受け取る。まさかここで渡されるとは思っておらず、私は嬉しかった。確かに先生達は各階を見張ってはいるが、階段にはいなかった。私は部屋に戻り、多村さん達にニヤニヤされながら手紙を開く。

「いいなー彼氏が同じ学校でー」

永依ちゃんが言う。同じ部屋の中に彼氏持ちが5人いたが、学校が違うのは永依ちゃんだけだった。ちなみにまぁもあずけんへ手紙の返事を書いていた。

「うちも梢ちゃんに手紙書こっかなー渡さないけど」

と永依ちゃんはメモ帳を取り出した。

「私も書こっかなー彼氏に」
「彼氏っていうか…沖田総司でしょ」

横では伊賀さんと多村さんがそんなやり取りをしていた。伊賀さんは新選組、特に沖田総司が大好きだった。
それを聞きながら私は、プロフィールを書く紙も一緒にして返事を折る。少しでも硝くんの好きなものが知りたかったのだ。中には“好きな異性のタイプは?”という質問もある。硝くんが一体何を見て私を好きになったのか分かるかもしれない。手紙を折って表にすると、“越若君へ”と書いた。多村さんが後ろから覗く。

「ハートつけたら?」
「え?」
「“越若くんへ”の後ろに」
「っつけないよ!」
「えーつけなよーねぇ永依ちゃん?」
「いーじゃん! つけなよー」
「や、だ!」
「ウチが書いてあげる」

多村さんは勝手に“越若くんへ”の後ろにハートを書いた。

「ちょっ、やめてよ! 恥ずかしいじゃん!」

私は修正ペンでハートを消す。

「えー書けばいいのにー」
「書かないって!」

しかし修正ペンで消した痕が残っているのでこれでは逆に気になる。よく見たらハートが書いてあるのも分かるはずだ。私はどうしたものかと考えた。「ならもっかいハート書けばいいじゃんー!」と騒ぐ2人を無視し、結局私は星を書いて誤魔化すことにした。



修学旅行2日目。
この日は京都で自主研修だ。私達の班は伊賀さんの押しにより、新選組縁の地を回るルートだった。
ところが。
壬生寺までは比較的順調だったのだが、次の目的地である博物館(ちょうど新選組に関する展示会をやっているらしい)に向かっている途中、道に迷ってしまった。歩いてばかりで疲れも溜まってきているのか、班内にはピリピリとした空気が漂う。中でもしっかり者で責任感のある班長の多村さんと伊賀さんは、計画通りいかないことに対してイライラしているようだった。2人は足早に歩き、その少し後ろを大原さんが無言で歩く。そしてその更に後ろを私と永依ちゃんは並んで歩いていた。

「そんなに急がなくていいのにねー」
「多分あの2人A型だからだよー」
「永依ちゃん何型?」
「うちB。遥名さんは?」
「あたしO」
「だよねー」

2人で笑う。
マイペースと大雑把の組み合わせだった。そのあと私達は、多村さんと伊賀さんの文句を言いながらマイペースに3人の後ろを歩いていた。これまでは最初にクラスで仲良くなった多村さんを通じて、という感じで永依ちゃんと付き合っていたのだが、このとき永依ちゃんと本格的な友情が芽生えたと言っても過言ではない。
結局博物館に辿り着くことは出来ず、全部の班に配られたPHSで先生に連絡し、スタート地点である京都駅に戻ってくるようにと言われた。仕方なく京都駅に戻り、ゴールまでの時間を駅構内でぶらぶらと潰し、私達の自主研修は終わった。



その夜、先生達の部屋に呼び出され、お説教というか、軽く事情説明があった。そのあと部屋に戻ると、硝くんからの手紙が届いていた。渡したプロフィールの紙も一緒だ。早速中を開いて見ると、“好きな異性のタイプは?”の問いに対して、“遥名さん見たいな人”と書かれていた。

「ねぇ…“みたい”の“み”って漢字だっけ…?」

私は紙を見せて多村さんに問う。

「いや、平仮名だったと思うけど…ていうかそれノロケ?」
「いや何が!?」
「だってそれ…」
「えー何何? なんて書いてあんの?」

他のメンバーも気になって寄ってくる。

「好きなタイプが“遥名さんみたいな人”だってー」
「ちょっと多村さん!?」
「何それノロケじゃんー!」
「うわ羨ましっ」

部屋の中はまた騒がしくなる。私は再度紙を見た。

「…全然参考にならないじゃん」

私は呟く。
勿論“遥名さんみたいな人”という回答が嬉しくなかった訳ではない。しかしこれでは結局私の何を好きになったのか分からない。何の参考にもならなかった。
続いて私は手紙の方を見た。そこには“なんかおそろいのお土産一つ買わない?”と書かれていた。

「きやあああ」

私はよく分からない悲鳴をあげる。

「え、何? 緑ちゃんどうしたの?」

同じ部屋のメンバーが奇異の目で私を見る。そして手に持った手紙に目をやった。

「あ、もしかして硝くん?」
「何何? 何言われたの?」

周りは興味津々だ。

「硝くんがお揃いのお土産買おうって!」

私ではなく、多村さんが言う。室内は興奮の空気に包まれた。

「うわー! マジで? やったじゃん!」
「やるねー硝くん!」
「や、でも硝くんが積極的にそんなこと言うとは思えないよねー」
「あーあずけんが言ったんじゃない?」

室内でワイワイ盛り上がっている。まあ確かにあずけんが言い出したという方が有り得る気がした。

「あ、3Dシアター一緒に観ようって誘っちゃダメかな?」

そこで私は思いつく。3日目に天保山で自由行動がある。そこにあるサントリーミュージアムで3Dの映画を上映しているのだ。

「いいじゃん! 誘っちゃえー!」

再び室内は盛り上がる。私は手紙に“お土産はもちろんいいよ。あと、3Dシアター一緒に観ない?”と書いた。それを多村さんにお願いして班長会に持って行ってもらった。
それから2時間程経った消灯間近の頃。
部屋の扉が開いて、別のクラスの女子が入ってきた。

「遥名緑いる?」
「いるよー緑ちゃーん」
「え、あたし?」

私は驚きながら扉の方へ向かう。彼女は私に手紙を渡してきた。

「あずけんから渡してって頼まれたんだ」

私はそれを受け取る。硝くんからの返事だった。彼女が帰っていくとすぐに消灯の時間になった。返事どうしよう、と思っていると、「遥名さん、これ使いなよ」と懐中電灯を渡され、私はその灯りを頼りに返事を書くことにした。





修学旅行3日目。
私達は京都を離れ、バスで奈良の東大寺へ。そして大阪城へ行き、神戸にある人と防災未来センターを見学し、再び大阪に戻って天保山へ向かった。私は有加と2人でショッピングセンターを回り、海遊館へ行き、3Dシアターが始まるまでの時間を潰した。ただし海遊館の中を回っている途中で約束の時間が迫っていることに気付き、後半は走ったので、あまりというか正直全く観れていない。サントリーミュージアムへ行くと、3Dシアターを待っている人の列が出来ていた。そこに並ぶが、硝くんの姿はない。やがて開場の時間になり、中に入っていく。席に座ろうとしている硝くんを見つけた。硝くんの隣には梅畑がいる。私と有加はそこまで行って、硝くんの隣に座った。その際の会話は一切ない。そのまま隣で3Dシアターを観、終わると何も喋らずに解散する。ここでもまた“隣に座っている”だけになってしまった。





修学旅行4日目。
お揃いのものを買うという約束をしていたものの、具体的に何処で何を買うのか決まらないまま最終日になってしまった。買うならUSJだろうと思っていたが、会う約束もないし、結局どうするのだろうと考えていた。私がUSJを有加と回っていると、偶然多村さんに会った。

「あ、遥名さんー」
「おー」
「あ、ねぇねぇ、硝くんがさー探してたよ」
「え? 何処で?」
「スヌーピーのあたりにいたよー」
「ありがとう!」

私は有加を連れてスヌーピースタジオへ急いだ。スヌーピースタジオの土産物屋といったら1つしかない。
スヌーピースタジオにある土産物屋へ着くと、店の中を探す。硝くんを見つけた。

「…あ」

硝くんはあずけんと一緒に、ストラップなどが並んでいるコーナーの前に立っていた。私もその隣に立つ。有加は他のコーナーを見に行った。硝くんはビーズとスヌーピーのキーホルダーを指差し、

「これで…いい?」

と言った。色はピンクだ。

「うん…」

私は、ピンクでいいんだろうかと思いつつ、承諾した。あずけんは隣にあるビーズのストラップを手に取る。そちらはピンクとブルーの2種類があった。

「硝もこっちにしたら?」

あずけんが硝くんにそう勧める。

「これにしよう」

硝くんはあずけんに勧められたブルーのストラップを手に取った。私はピンクを取る。そしてレジへ向かった。



 
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