小説2
□side.blue
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※蒼子視点の雰囲気小説ですので、自分で色々推測したい方は読まなくてよいと思います。
海は好きだった。
だけどそれ以上に、海の上の世界に興味があった。
「脚の替わりに、その声を貰おう」
19歳の誕生日、私は海の上の世界を覗きに行き、泳いではしゃいでいた。
「…! それは…何か、別のものにしていただけませんか? 声は、声は…」
すると助けを呼ぶ声がして、私は辺りを見回した。1隻の船が見えて、私は近付く。
「そうだね、なら記憶を貰おうか」
船には3人乗っているが、どうやら転覆しそうな状態にあるらしかった。1人は既に海の中だ。
「記憶…?」
やがて別の船が救助にやってきた。その船に3人は救助される。しかしもう1人はもがき疲れたのか、海に沈んでいった。
「ああ、記憶だ。お前は自分が何者かも、自分があの男を助けたことも忘れる。だがそうだね…あの男を好きだということは忘れなくてもいいだろう。その方が面白くなりそうだしねぇ…」
3人は必死に名前を呼ぶ。――『おーま!』と。
「しかし過去の記憶を全て失くすというのはそれなりの負荷がかかるもんでねぇ。反動で記憶が1日しか持たなくなる。つまり夜寝たら次の朝には忘れてるってことさ。それでもいいなら脚と交換してやってもいいよ?」
私は海へ潜り、沈んでいく“おーま”を追いかけた。追いついて彼を抱きかかえ、私は岸へ急ぐ。
「…分かり、ました」
『大丈夫、大丈夫よ。もうすぐ岸に着くから。だから…もう少し頑張って』
私 は 彼 に 恋 を し た 。
た だ 、 あ な た が 好 き だ っ た 。
そ れ は も う 、 手 遅 れ 。
「蒼子ちゃんはそんなことしなくていいって言ったでしょう? 気を遣わなくていいのよ」
――そんなこと言ってたっけ?
「こんにちは、蒼子ちゃん」
――この人誰だっけ?
「桜馬何処にいるか分かる?」
――あ、桜馬の知り合いか。案内してあげなくちゃ
「じゃあ来月の26日で決まりだな」
「これで日取りは決定ね。あとは―…」
――なんの話をしてるんだろう?
「今夜実行するのよ、必ず。彼が眠ってしまってから」
――どうして今夜じゃなきゃいけないんだろう?
「明日10時に、駅の改札の近くで待ち合わせよう。場所分かるよね?」
――場所くらい分かるよ。桜馬と何度も…行ったっけ?
「…蒼子、約束は…?」
――約束ってなんの?
「お前なんか、嫌いだ」
私はただ、あなたが好きだっただけなのに。
どうして…嫌われてしまったの?
それすら、分からない。
「おーま、おーま…っ」
さようなら。
私の 。
end