小説2

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夏休みが過ぎて、新学期がやってきた。
今日は始業式で、みんなは転校生が来ないかと楽しみにしている。
少しして、担任の先生と共に、1人の男子が入ってきた。

「熊本から来ました。かいまゆうです。よろしくお願いします」

彼はニコニコしながら大きめの声でそれだけ言った。
その間に先生は黒板に“海馬攸”と書いていた。

「海馬君に質問がある人!」

先生は明るく言った。
すると1人の男子が手を挙げた。
吹奏楽部員、上野伸一だ。
先生に指され、立ち上がると上野は、

「音楽は好きですか?」

と聞いた。
その瞬間、クラス全員が上野の質問の意図を察し、教室に笑いが起こった。
上野は、海馬攸を吹奏楽部に勧誘しようとしていたのだ。

「音楽はあまり好きではありません…」

上野の勧誘も虚しく、海馬攸はそう言い、教室ではまた笑いが起こった。

そしてその日の席替えで私は海馬攸の隣の席になってしまったのだ。


遥名緑の 4



「音楽は好きじゃないんじゃなかったっけ?」

その日の朝、席に着きランドセルを開けた海馬攸に私は言った。

「まぁ、そうなんだけど…」

海馬攸のランドセルからは、小太鼓を叩くのに使うようなバチが出てきたのだ。

「小太鼓?」
「パーカッション」
「ごめん、分からん」
「まぁ、簡単に言えば太鼓がいっぱいついてるようなのだよ」
「ふぅん」

そんな事言われても、想像もつかなかった。
私も楽器はよく分からなかったのだ。
そんな話をしているうちに私は海馬攸を好きになった。




「遥名さんって何クラブ?」

新学期最初のクラブ活動の日、海馬攸が聞いてきた。

「室内ゲーム」

私は机の中からクラブの反省カードを取り出して言った。

「室内ゲーム? 何すんの?」
「そのまんま。室内でするゲームとか。えーっと、例えばトランプ? あとUNOとか、オセロ、女子だったら占いとか心理テストとか、男子だったら囲碁・将棋とか、兎に角色々」
「ふぅん。なんか面白そうやね」

そのあと私は海馬攸から離れ、室内ゲームクラブの活動教室へ向かった。
クラブが始まって数分後。
海馬攸は室内ゲームクラブの教室へ入ってきた。



そんなある日、確か9月頃だったと思う。
学年発表会の練習中、体育館で歌を歌っている時、私はまた倒れた。
まだ夏の暑さの残る頃で、体育館には人が集まっていてクーラーもない。
そして前回と同じく歌っている時という事で、私は暑いから貧血だろうと思うようになった。



その年の暮れ、私は去年同様に悩んでいた。
私は海馬攸の家を知った。
そして必然的に住所も。
そしてまた年賀はがきを前に、唸っていたのだ。
結局私は年賀状を書き、郵便ポストに入れた。



そして年が明けて8日、始業式の前日だった。
部屋にいると郵便配達のバイクの音が聞こえて、私はドアを開け、郵便受けへ向かった。
開けるとそこには、3通の封筒に紛れて年賀はがきが2枚。
1枚は父宛て、もう1枚は私宛て。
差出人は――“海馬攸”。
慌てて家に入り、他の郵便をリビングのテーブルに置き、階段を駆け上がった。

「き、来た…」

ドキドキしながらはがきを裏返す。
そこには確かに『あけましておめでとう』と『今年もよろしく!』の文字。
私は階下の母に気付かれない程度に飛び跳ねて喜んだ。



 
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