小説2

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私の名前は遥名緑。
1990年10月31日生まれ。
え? 何歳かって?
えーっと、それは享年を言えばいい?
だって私、死んでるから。
どうして死んだかって言うと、恋をしたから。
意味が分からない?
じゃあ今から、恋を中心に、私の一生を話す事にしよう。


遥名の恋 1


さっきも言った通り、1990年10月31日私、遥名緑は生まれた。
父は遥名青檎、母は遥名やよい。
なんで秋なのに『緑』かというと、何が起きたのか詳しい事はよく分からないけど、その日私が生まれた病院の辺りは、空が薄緑色だったらしい。
他の場所はいつもと変わらない青空だったようで、それが珍しいという事と、父の名前にも色が入っていたので緑と付けたらしい。
けど、今思えば、何か私に対する不吉な予兆だったんじゃないだろうか。
その日以外、空が緑色になった事はない。


私の生まれた日に空が緑色だった事など、誰も気に止めていなかった。
なんの心配も必要ない極普通の子供だったからだ。
いつもだっこしていないと泣く甘えん坊で、人見知りもせず誰にでもなついていた。
1歳の誕生日の翌日から歩き出し、目の高さにあるものを出してみたり、空のゴミ箱の中に色んなものを入れたり、ティッシュを出したりと悪戯もしょっちゅう。
テレビの音楽に合わせて踊るのが大好きでよく踊っていた。
父と散歩に行ってこけて、鼻の頭を擦り剥いて帰ってきた事もあったらしい。



2歳の時、母が妊娠した。
それからはおんぶしてと言わずに、1人で布団で寝るようになったらしい。
自分がお姉ちゃんになるのをとても楽しみにしていた。
そして私が3歳になる年の6月に妹、遥名水無が生まれた。
由来は水無月の水無。
母が3月生まれでやよいだから、それと同じ付け方。
水無が生まれてからの私は、すっかりお姉ちゃんになった。
家の後ろにあった公園に遊びに行って、初めて会った子とも仲良くなり、友達を沢山作った。
水無と遊んで、顔を抓まれたり、噛みつかれたりしても、決して手を出さなかったらしい。



私が5歳になる年の4月、私立朝日ヶ丘幼稚園に入園した。
友達も沢山出来てとても楽しい毎日だった。
母の友人の紹介で英語を習い始め、英語の歌をよく歌っていた。
翌年、水無が2歳になり、段々と強くなってよく泣かされた。
絵を描くのが好きで、テレビアニメの主人公や、家族の絵をよく描いていた。
幼稚園からコンクールに出した絵が、特別賞を貰った事もある。


その年の事だ。
隣のクラスのひらなかこうじという男の子を好きになった。
その人とは幼稚園以来会っていないので、名前の漢字も知らない。
何故好きになったのかも、覚えていない。
当時の私が積極的だったのかは兎も角として2月、母にスーパーでチョコを買ってもらい、バレンタインにチョコをあげた。
その時私が何と言って渡したのかは覚えていない。
ただ、ひらなかこうじは一言、

「いらない」

と言った。
私の初めての失恋の瞬間。
勿論ショックだった。
その後私がそのチョコをどうしたかというと、近くにいた同じクラスの馬廻綾という男の子に渡した。
そのコが要ると言ったから。
数分後、ひらなかこうじの母親が私と母に謝りにきた。
母親が言うには、ひらなかこうじはチョコは母親や姉から貰うものだから要らないと思ったらしい。
つまり、家族以外からも貰うものだという事を、知らなかったみたいだ。
ちなみに結果的に私がチョコをあげた馬廻綾はというと、お零れに関わらず、ホワイトデーに律儀にお返しをくれた。

そういうワケで、私の初恋は相手の間抜けな勘違いで幕を閉じた。
その後私はひらなかこうじを嫌いになり、思い出したくもない初恋となったのだ。



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