小説2

□春
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それは運命だった。
あたしにとっては突然でも、
聡馬にとっては3年前から決まっていた事。
3年前から知っていた運命だったのだ。
考えてみれば簡単な事だった。
あの日聡馬の母親があたしを叩いて言った『もしもの事』。
あの日聡馬が言った『僕はもう要らないね』。
あの日亜鷺が言った『頑張ろうね』。
全部意味が分かった。
今までの疑問が全て解けた。
聡馬は、病気だった。
現在の医療ではまだ治せない病気で、3年前に余命3年を宣告されていた。
しかも、あたし以外はみんなその事を知っていた。
3年前から。
ずっと黙っていたのだ。
『秀子には言えない』と、聡馬が言ったから…


4度目の春〜命〜



「秀子…」

聡馬が目を開けるとそこは病院で、隣には秀子がいた。

「愛乃達から聞いた。もう隠さなくていいよ」

秀子は口を開くと、それだけを言った。
それが何の事だか、聡馬は良く分かっていた。

「…ごめん」
「どうして黙ってたの?」
「…ごめん」
「どうして黙ってたのって聞いてるんだけど」

秀子の声が若干低くなった。

「…秀子に、病気で苦しんでるの、見せたくなかったから…自分の事だけでも色々大変なのに、心配…させたくなかった」
「……」
「秀子…怒ってる?」

聡馬は目に涙を浮かべて言った。

「怒ってないよ。ちょっとショックなだけ」
「……」
「3年前に…あと3年、でしょ? て事は、もう…」

秀子は下を向いて、聡馬を見ないように喋っていた。

「…ずっと一緒だと思ってたのに…っそんなになるまで知らされなかったなんて…」
「…ごめん」
「もういいよ。謝られたって、なんか変わるワケじゃないし」
「うん…」

すると秀子が顔を上げ、真っ直ぐ聡馬を見た。

「あたし、毎日来るからね。何があっても、絶対毎日来るからね。来ないでって言っても来るからね」

――聡馬があたしにそうしてくれたように、今度はあたしが聡馬の側にいる。

「秀子…」
「ずっと一緒にいるって、約束したじゃない。ずっと一緒にいようって、聡馬も言ったじゃん」

秀子はベッドのシーツを握り締めた。
聡馬は悲しそうに笑った。

「約束したのに…守れそうになくてごめん」
「絶対、来るからね!」

そう言って秀子は走って帰っていった。



卒業式に、勿論聡馬の姿はなかった。
翌日の合格発表にも、聡馬はいなかった。当然受験会場にも、いなかったのだが。
秀子も亜鷺も愛乃も愛羅も、桜葉高校に合格していた。
雪見も、特別進学科は不合格だったが、普通科はなんとか合格したので、普通科に行く事になるだろう。
そして、平穏な春休みが始まった。




ピンポーン
ガチャ

「よっ」

秀子がドアを開けると、亜鷺、愛乃、愛羅、雪見がいた。

「……」
「いや、黙ってないで入れてよ」

雪見が笑った。

「…どうぞ」
「お邪魔しまーす」

4人は順に部屋に入ってきた。



「お昼どうする?」

リビングに座るなり亜鷺が言った。

「ピザとか頼んじゃおうよ」

愛羅が言った。

「いいね! じゃあ電話しよ」

雪見が言った。

「あ、愛乃の電話使ってくださいですー」

愛乃が言った。
それらは用意されたような台詞だった。
秀子はキッチンで飲み物を用意していた。
何をしに来たのか、ある程度察しはついていた。



 
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