小説2

□冬
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2月。
秀子は滑り止めで受けた高校に合格した。
非常に校則の緩い学校で、秀子の髪の色については質問すらしなかった。
しかし問題は本命の桜葉高校。特に厳しいという程でもないが、髪については何か聞いてくるだろう。
高校で染めるならまだしも、中学、いや小学校からこの色なのだ。


3度目の冬〜然〜


秀子は家で鏡を見ていた。
自分の髪の色が見たくなくてこの家には鏡がなかったが、最近何となく買ってみた。
髪を見るのも、そんなに嫌じゃなくなった。
一昨年の秋に、聡馬に『そんな色秀子にしか似合わないよ』と言われてからだ。
そして鏡の中の自分を見ていて、ふと思った。

――そういえば、愛乃はどうするんだろう。

栗村愛乃。桜葉高校看護科志望。ダークレッドに黄色のメッシュ。目は紅。おまけにそれらは後から手を入れたもののようで、秀子のように元々という訳ではない。

――っていうか、そもそも愛乃は何であんな色にしたんだろ。そういえば聞いてなかったな…色覚異常って言ってたけど、何か関係してるのかな…

というわけで、秀子は隣である愛乃の部屋へ向かった。

ピンポーン

秀子がインターホンを押すと、「はぁーぃ」という声と共に、バタバタと足音が近付いてきた。

バンッ
ガンッ

「いったぁ〜〜っ」

秀子は頭をおさえて蹲った。

「あ゛ぁっ!! しゅこたん! ごめんです!」

愛乃はドアを開けたままの体勢で焦っていた。

「愛乃!! ドアをそんな勢いよく開けるなっていつも言ってるじゃん!」
「だったらしゅこたんもうまく避けて下さいですよー」
「え? 何逆ギレ?」
「で、何ですか?」
「ああ、ちょっと聞きたい事が…愛乃、受験の時髪どうすんの?」
「んー? このままで行くですよ?」

愛乃は当然の如く言った。

「そのままで!? え、目は?」
「目? 目って…目は元からこの色ですよ?」
「え!?」

秀子は驚いた。髪を染めてるくらいだから、今までずっと目はカラコンだと思っていた。

「髪は、目に合う色に染めたですから」
「目に合う色って…」

合ってるようには見えないんだけど、と言おうとしたが、止めた。
次に愛乃が言う事が分かったからだ。

「愛乃から見て、です」

愛乃は笑った。
秀子も笑った。

「うん。じゃあ、あたしもこれで行く」






桜葉高校は個人面接だ。
愛乃は面接室から出てくると、秀子に向かってピースした。
愛羅と雪見はもう別の面接室に入っていて、亜鷺は秀子の横に座っている。
次は秀子の番だ。
秀子は立ち上がった。
ドアの前まで行くと、ノックをして、中に入った。
手にはカバンを持っていた。


面接室に入った秀子を見て、試験官は驚いた。
まぁ無理もない。
染めたような髪色をした生徒が2人連続で入ってきたのだから。

「え、えーと、座って下さい」

試験官は額の汗を拭いながらそう指示した。
秀子は特に気にする様子もなく一礼をして、用意されていた椅子に座った。

「では、まず受験番号と学校名、名前を」
「受験番号52225番、汐前中学校、広瀬秀子です」
「えー…広瀬さん。では、まず…その、髪の色は…?」

試験官は秀子にそう聞いた。

「髪は元々この色です。ちょっと失礼します」

秀子はそう言うと、横に置いたカバンから白髪染めを取り出して、髪につけた。
髪は一旦は黒くなるものの、すぐに元の色に戻った。

「そ、それは一体…」

試験官はかなり動揺していた。

「この通り、黒く染める事も出来ません」
「そ、そうでしたか…それはまた、不思議な…では、通常の質問に移ります。この学校を志望する理由を聞かせて下さい」
「正直、これと言ってやりたい事はないのですが、とりあえず高校卒業程度の知識は持っていた方がいいと思いました。この学校の多彩な授業内容を見て、ここならやりたい事が見つかるのではないかと思い、志望しました」

こうして、秀子の受験は終わった。



 
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