小説2

□秋
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11月。
秀子は追い詰められていた。

「広瀬お前、今日こそ出してもらうからな! 提出するまで帰さん!」

…という訳で白紙の進路調査票と格闘していた。
みんな既に2度目の進路調査票を提出したにも関わらず、7月の進路調査票をかれこれ4ヶ月先延ばししているので、先生がいい加減キレ気味だった。


3度目の秋〜進



「しゅーこたんっ」

放課後教室で1人で唸っていると、窓から愛乃が顔を覗かせた。

「愛乃!」

秀子が近寄って窓を開けると、愛乃は窓枠によじ登って教室に入ってきた。
すると今度は窓の方を向いて誰かに手を伸ばす。

「?」
「んっんー重いです! しゅこたんも手伝ってです!」

秀子が下を見ると、愛乃の手の先には亜鷺がいた。
その周りには愛羅と雪見もいる。
秀子は亜鷺の手を掴んで軽々と持ち上げた。
愛羅と雪見も同様にして、教室に入ってきた。

「4人共何で窓から…?」
「だって廊下に先生いたですよ」
「秀子が帰らないように見張ってんだよあれ」
「マジで!?」(←帰ろうとしてた人)
「今日こそ出さないと先生ヤバいよ」
「……」
「あーっ! まだ秀子真っ白じゃんか!」

亜鷺が秀子の進路調査票を見ながら言った。

「第一志望も決まってないですか!?」
「う、うん…」
「適当に書いときゃいいじゃん」
「雪見アバウト過ぎ…って何勝手に書こうとしてんの!?」

秀子は勝手に進路調査票を書こうとしている雪見を止めた。

「雪見の将来の夢はニートだもんね」

愛羅が笑う。

「んなわきゃないでしょ」

雪見は勿論突っ込んだ。

「雪見の夢って何なの?」

秀子が聞いた。

「弁護士☆」
「はいはい」

愛羅が直ぐ様言った。

「雪見が弁護士になれる国になったら終わりだよ」

亜鷺も言った。

「どういう意味よ!」
「そーいう意味です。成績学年188位が何言ってるですか。下から3番じゃないですよ」
「10番以内に入ったらもう1度言いな」
「フッ…甘いな!! 今回のテスト受けたのは188人なんだよ」

雪見のその言葉を聞いた途端、愛羅と愛乃は雪見に襲いかかった。

「ビリじゃねぇかああああああ!!!!! 自慢になってねーんだよ!!」
「よくその成績で弁護士なんて言えるですね!」
「痛っ! ちょっ、痛いって! いいじゃん夢見たって! 夢は自由だよ! 幾らでも見ていいじゃん!」
「見すぎじゃボケェェェェェ!!!!!」

そんな3人のやりとりを、秀子と亜鷺は呆然として見ていた。
そして少ししてから、亜鷺は秀子の方を向いた。

「秀子は、何かやりたい事ないの?」
「やりたい事…」

正直、やりたい事はなかった。
副作用のせいで、秀子は殆んど何でも出来る。
何でも出来ると、却ってやりたい事は見つからないものだ。

「何でも出来るんだから、なんかやらないともったいないよ! 折角の才能なのに」
「才能じゃないよ、副作用」
「副作用でも! 副作用でも、秀子には可能性がいっぱいあるんだよ!? 大切にしなきゃ!」

亜鷺が秀子の机にバン、と手をついた。

「う、うん…」
「で、秀子は何がしたい?」

頷いた秀子に亜鷺は再度聞いた。
その頃には、愛乃達の言い争いも終わっていた。
暫く黙ったあと、秀子は言った。


「そーと、ずっと一緒にいたい」


「……」
「そーと一緒にいれたら、あたしは何も要らない」


誰も、喋らなかった。


「て、事は専業主婦??」

雪見が沈黙を破った。

「えー何、ノロケ!?」

愛羅も笑って言った。

「そう来るとは思わなかった…でも、とりあえず高校は卒業しといた方がいいでしょ。普通科行けば?」

亜鷺は若干呆れ気味だった。

「普通科か…でも、何処の」
「だったらウチらと同じトコ行きましょうです!」
「ウチら?」

愛乃の言葉に、秀子は首を傾げた。

「ウチら4人、志望校みんな同じだよ」

亜鷺が秀子に言った。

「雪見は受かるか分かんないけどねぇー」

愛羅が横目で雪見を見た。

「ひっどいなぁー受かるし!」

雪見が反論すると、他の4人は笑った。

「で、それ何処?」

笑いが治まると秀子が聞いた。

「桜葉高校」

亜鷺が言った。

「去年共学になったばっかでしょ? まだ女子少ないからチャンスだよ」

雪見が付け加える。

「ゆっきーはそれが目的です! しかもしゅこたんにはそー君がいるですからそんな情報無意味です」




 
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