小説2

□春
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3年生になって何日か経った。
クラスは2人共5組だった。
その日秀子のアパートの前に、1人の少女がいた。


3度目の春〜遺



「あっ、おっそい秀子!」
「瑠子!?」

“瑠子”は秀子に近付いてきた。

「久しぶりっ」
「そうだね」

そして瑠子と聡馬は互いを見た。

「それ…誰?」

2人は同時に言った。

「えーっと、こっちは広瀬瑠子。あたしの妹」
「妹ぉぉ!!?」
「ちょっと驚き過ぎだしょ」

瑠子は不満そうだった。
しかし、聡馬が想像していた“秀子の妹”とは全く違う少女だったのだ。
ウェーブをかけ、横の高い位置で1つに結んだ真っ黒な髪に真っ黒な瞳。
ナチュラルメイクの大人びた顔立ち。
短いスカートにルーズソックス。
彼女が着ている制服は、近くの私立中学のものだ。
極普通の今時の中学生。

――これが、秀子の妹…?

思ったが、言わないでおいた。

「で、こっちは平田聡馬。えーっと、友達?」
「聞くなよ」
「恋人ぉ?」
「は!?」

秀子と聡馬は瑠子を見た。
瑠子はニヤニヤしながら2人を見ている。

「ま、いいや。あとでゆっくり聞こおっと♪ ふーん…そーまか…変わった名前ね」

瑠子はクスクスと笑う。改めて見ても似ていない。



「で、何しにきたの?」

瑠子と聡馬にお茶を注ぎ、秀子は座った。

「ん? いや秀子どーせ髪伸ばしっぱなしだから、切ってやろうと思って」

瑠子はカバンから散髪用のハサミを取り出した。

「ああ…」

聡馬は納得したが、ちょっと悲しそうだった(多分結べなくなるからだろう)。

「さぁってと♪ 秀子あっち向いて」

瑠子はカバンから新聞紙を取り出し、秀子の後ろに敷いた。

「あたいが切らないと、秀子美容室行かないからさ」
「普通の人以上に変な目で見るからウザいのよ」
「グラデーションなんて普通出来ないもんね」

瑠子は秀子の髪を櫛で丁寧に解かす。

「前から思ってたんだけど、秀子の髪って切ったらどうなんの?」
「それが凄いんだって。切ったら金色だけになりそうだしょ? ところが違うんだい! まぁ見てて」

そう言い瑠子が秀子の髪を切ると、毛先がみるみる黒くなっていった。

「…どういう事?」
「なんかよく分からんけど、どんだけ切っても常にグラデーションになるっぽい」
「へぇ…」

変な髪だ。



「で?」

瑠子が秀子の髪を切りながら唐突に言った。

「でって?」

秀子が答えた。聡馬は呑気に、出されたお茶を飲んでいる。

「2人はどんな関係なワケ?」
「…友達?」

2人は顔を見合わせて言った。

「えーっホントにィ? 怪しいなぁーなんかハモってるし、あんた秀子呼び捨てしてたし」
「僕一応年上なんだけど…」
「秀子わ何て呼んでんの?」
「え? そー」
「そー? そーまじゃなくて? じゃああたいもそーって呼ぼうっと♪」
「だから僕一応年上だって…」
「はいはい、じゃあそー先輩でいい?」
「……もう、いいよ」

聡馬はため息を吐いた。

「でも別にそーでもいいぢゃんか。年も大して変わらないし、未来の兄ちゃんなんだし♪」
「は!?」

聡馬は手に持っていたお茶を落としかけた。

「ちょっと秀子動かないでよ! 失敗しちゃったぁ」
「え嘘」

失敗したと聞いて秀子は固まった。

「まぁ、これぐらいなら大丈夫だけどー」
「りゅうこ…ちゃん? てさ、秀子を嫌がったり、しないの?」
「ん?」

ふと聡馬は思った事を口にした。

「何言ってんの。秀子わ秀子だよん♪ あたいの大事なお姉ちゃんだもの」

瑠子は手も止めずに言う。

「髪がこんな色してても、目が紅くても、暴走しても、実験体でも、秀子わあたいのたった1人の姉妹なんだよ」
「…そっか」

聡馬は嬉しそうに笑った。



 
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