小説2

□冬
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それは突然だった。
秀子はいつものように玄関の戸を開け、外へ出た。
冷たい北風が頬を打つ。
階段を下りて表へ出ると、“そいつら”はそこにいた。

「よぉ? 元気そうじゃねぇか、実験体」



2度目の冬〜価


あの日と同じ典型的な尾行スタイル。
その内の1人がサングラスを外して言った。

「柏木…ジョン…!!」
「誰がジョンだ」

くわえていた煙草を道路に落とし、靴で踏んで火を消しながら、もう1人の男が言う。

「俺はジャンだ」
「どっちでもいいだろうが」
「いいワケねぇだろ!!」
「落ち着けジョン」
「ジャンだっつってんだろ」
「コイツの挑発に乗るな」

“ジャン”をなだめ、“柏木”は言った。

「久しぶりだな001。俺は柏木洋一だ。覚えていてくれて嬉しいよ」
「…何しに来た」
「オマエを連れ戻しに来たに決まってんだろ?」
「は…? 何フザけた事抜かしてんの。行くワケないでしょあんなトコ」
「いーや、来てもらわなきゃこっちとしても困るんだよなァ…お前は唯一の成功品なんだ」

柏木は言う。

「!?」

秀子の表情が一瞬曇った。

「万恵は…?」
「マエ…? ああ、002の事か。002は確かそんな名前だったな」
「万恵は!? 万恵はどうしたのよ!! 万恵も成功品のハズでしょ!?」

秀子はジャンに掴みかかった。

「何でオレ!? 喋ってんのカシワギじゃん!!」
「002は死んだ」

――と。秀子の手の力が緩み、ジャンは道路に尻餅をついた。

「1年前に爆発した。長生きできる人間が死ぬ実験だ。これは成功でもある」

秀子は、静止したまま動かなかった。
静止したまま動かない秀子を柏木は連れて行こうとした。
その時。

「秀子を離せェェェッッ!!」

ドカッッ

ジャンの顔に黒い通学用カバンが激突した。

「ってぇ…誰だ!!」

道路に落ちたカバンには真っ赤なリボンがついていた。

「そー…?」

秀子が呟いた。
聡馬は秀子の手を取り、学校まで走った。


校門を通ったところで、聡馬は走るのを止めた。

「秀子? どうしたの、大丈夫!?」

聡馬は秀子の肩を掴んで揺する。

「万、恵…万恵、が…万恵が、死ん…」
「まえ…?」
「万恵が!! 死んだって…!! どうして!?」

今度は秀子が聡馬の肩を掴んだ。

「ちょっ秀子!? 落ち着いて!!」
「だって!!」

秀子の目から涙が零れた。
聡馬は秀子をぎゅっと抱きしめた。
このまま、時が止まってしまえばいいと思った。



それから昼休みまで、聡馬と秀子が会う事はなかった。
だから秀子がどうしていたのか、聡馬は知らなかった。
5組に行くとそこに秀子はおらず、保健室へ行ったとの事だった。

「2時間目の途中だったかな。涙が本当に止まらなくてね、先生が保健室に行かせたの。目なんか真っ赤に腫れちゃって。酷い顔だったよ。もう泣き止んでるのに、涙だけずっと流れてるんだ。どうしたんだろう…聡馬君なんか知ってる?」

亜鷺は首を傾げて言った。
知っているはずもなかった。
キーパーソンは“まえ”。
聡馬は亜鷺に礼を言うと、保健室へ走った。



 
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