小説2
□秋
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走った。
何処までも何処までも走った。
まるで逃げるみたいに。
何から?
分からない。
過去から。今から。未来から。
学校から。先生から。友達から。
世界から。
全てから。
逃げ出す為に、走った。
自由になれた気がして嬉しかった。
何もかも捨ててしまってもいいと思った。
――秀子以外。
2度目の秋〜脱走〜
「そー、何処に行くの?」
「…分かんない」
「分かんないって…何も考えてないのに外に出たの?」
「ああ!! そっちか! 考えてる! まずね、こっち!」
聡馬は秀子の手を引いた。
「“そっちか”…?」
聡馬が秀子を連れていったのは、このあたりの女子中高生に人気のある服屋だった。勿論今はみんな学校に行っている時間なので、店は開いているが客は殆んどいない。
「何するの…? ここで」
「制服のまま歩き回るのも目立つだろ?」
「買うの!? でも金なんて…」
「いいからっ僕が払うから!」
聡馬は秀子の背を押して店に入った。
「どれがいい?」
「…どれでもいいよ」
「いいワケないだろ!?」
「高いんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫! ココ元々安いし、更に今日は割引きセールの日なんだ♪」
「はぁ…じゃあこれでいいよ」
秀子は適当にすぐ横にあった服を掴んだ。
掴んで、後悔した。
「あ、イイじゃん」
「いや!!!」
「え?」
「いやいやいやいや絶ッッ対イヤ!!!」
「そこまで拒否しなくても…」
……ピンクのフリル付きワンピースだった。
「可愛いと思うけど…」
「何言ってんの絶対イヤ!! ピンク嫌いなのよ!!」
「あ、はい。じゃあピンクはなし、で…何色が好き?」
「黒」
「(やっぱり…)黒か…じゃあこんなんどう?」
「吊りズボン?」
黒の吊りズボンだった。
「あとこのシャツとネクタイを合わせたら…どうだろう? 着てみてよ」
「うぉぁっ!」
聡馬は服を手渡し、秀子を試着室に押し込んだ。
数分後。
「…ねぇ、やっぱりコレ…」
「着た!?」
秀子が試着室から首だけ出して何かを言おうとしたが、聡馬は勢いよく試着室のカーテンを開けた。
「ぅぁっ! ちょっと!!」
「いいじゃん!」
「ぅん?」
「似合ってるよ。凄く」
聡馬は優しく笑った。
「……じゃあ、これにしよっかな」
秀子は目を泳がせながら言った。
「すいません、これください」
「かしこまりました」
「次は何処に行くの?」
店を出たところで、秀子が聞いた。
「んー何処行こっかな…ボーリングとかは!?」
「ボーリング?? あたしやった事な――」
「いいからいいから! やった事なくても出来るよ!」
聡馬は秀子の手を引き、半ば強引に連れて行った。
「あの…さ」
「何?」
「やった事ないんだよな…?」
「ないよ」
「滅茶苦茶上手いじゃん…秀子実はプロなんじゃないの!?」
「んなわけないじゃん」
1ゲームで秀子ストライク6回、スペア3回。
ボーリング場から出た2人は歩いていた。
「すっげぇな! 秀子って何でも出来るじゃん!!」
「…別に」
秀子はあまり嬉しくなさそうだった。
「どうした?」
それに気付き、聡馬が問いかけた。
「何でも出来るのも、ヤなもんだよ。たまには『出来ない』って言ってみたい」
「秀子…?」
「ククク…なぁにが『出来ないって言ってみたい』だ」
「実験体のクセに学校サボって私服でデートなんてしやがって…生意気なんだよ」
聡馬と秀子が歩いている場所から500m程離れたところで、2人の男が呟いた。
2人とも黒いスーツ、黒い帽子、黒いカバン、黒いサングラスといった格好だった。
1人は双眼鏡、もう1人は新聞と典型的な尾行スタイルだ。
「あの忌々しい髪と眼…間違いねぇな」
「ああ、やっと見つけたぜ」