小説2
□夏
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「おはよう秀子」
「はよ」
3ヶ月が経った。
あれからいつも隣には、秀子がいる。
それだけで、充分幸せだった。
――例えこの先、どんな未来が待っていたとしても。
2度目の夏〜今〜
「さぁって♪ 今日はどんな髪型にしよっかな♪」
「…あんまり恥ずかしいのにはしないでよ」
「じゃあこうしよーっと」
聡馬は水色のシンプルなゴムで秀子の髪をくくった。
「…なぁ」
「何?」
「秀子は何で前髪作らないの? 僕が切ってあげようか?」
「いいよ。前髪なんてジャマなだけだし…」
「そんな事ないよ。ま、でもかわいいからいっか♪」
「は!? 何!? 何だって!?」
秀子は顔を真っ赤にして言う。
「何でもなーい」
髪を結び終えた聡馬は学校に向かって駆け出した。
秀子も追いかける。
秀子なら、足の遅い聡馬には一瞬で追いつくはずだろう。しかし、追いつかない。
理由はただ1つ。
追いつこうとしていない。秀子は今の状況を楽しんでいた。
14年間生きてきて、初めて感じる温かさだった。
「あ、おはよー秀子」
「おはようアサギ」
教室に入ると、三月亜鷺に声をかけられた。
亜鷺とも、あの日以来少しだけ話すようになった。
「あれっまた新しい本?」
「うん…」
「ふぅん…『遥名緑の恋』か…面白い?」
「まだ読んでないよ」
「あぅっそうだったね」
亜鷺は秀子の髪に触れた。
「最近いっつも髪型違うね。今日も聡馬君?」
「うん」
「バリエーション増えたんだね。そういえばこの前、本屋で女の子の雑誌読んでんの見たよー。髪型研究してんだねっ」
「へぇ…そう」
男の子が女の子の雑誌を見るなんてさぞかし恥ずかしいだろう。
聡馬が自分の為にそんな事までしてくれているのが、嬉しかった。
今日は水曜日。水曜日は一緒に帰らない日、だ。
――今日は本屋に寄ってみようかな…。
秀子は本の1ページ目をめくった。
「ねぇ、秀子…」
「何? 聡」
「ちょっと待った。『そう』って何!? その呼び方やめてくんない!? 読者の皆様が『アレ? さとし?』とか思うから!!」
「イイじゃん。じゃあ『そー』って伸ばすよ」
「変わらねェェェェェ!!!!」
「で、何? そー」
「(もういいや…)いや、あの、さ」
昼休み。
聡馬は、静かな桜の木の下で、深刻そうに言った。
「秀子は、僕が死んだら、どうする…?」
「は? 何言ってんの。いつ死ぬかなんて分かんないじゃん。大事なのは、今を生きる事でしょ?」
「今を…生きる…?」
その言葉が秀子の口から出るとは思わなかった。
「そーが教えてくれたんだよ」
「…うん…そうだね」
聡馬は軽く笑って言った。
――夏休み、聡馬はあるリストを作った。
9月。
「ごちそうさまっ」
聡馬は食べ終わった弁当箱を秀子に返した。
「食べきったね…結構作ったんだけどな…」
「だってうまいじゃん! 秀子の弁当♪」
聡馬は満面の笑みで言った。
秀子はそんな聡馬を横目で見ながら弁当箱を片付けた。
「あの、さ」
秀子が弁当箱を片付けたところで、聡馬が切り出した。
「ん?」
「今日午後サボらない?」
2度目の秋へ