小説2

□春
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4月。
クラス替えがあった。
安美と違うクラスになっていじめは殆んどなくなったが、秀子は相変わらず1人だった。

「アサギーやめなよー」



2度目の春〜守


読む本がなくなったらしく、最近秀子は絵を描いていた。
誰もいない教室の絵だった。

「何、描いてるの…?」

昼休み。
2年5組の教室には、秀子を含めて4人がいた。
手をとめて秀子が顔を上げると、二つ結びの少女が立っていた。その後ろにはもう2人いる。

「何?」

秀子は少女の目を見て冷たく言った。

「私、覚えてるかな…?」
「……みつきあさぎ」

秀子がそう呟くと、少女は目を輝かせた。

「覚えててくれたの!?」
「えっああうん」

秀子の手をとった少女に気圧されながら、そう答えた。
本当は覚えていなかったのだが、頭の上には『三月亜鷺』と出ているので、答えただけなのだ。
秀子には他人の名前が見える。
しかも見たい時だけ見る事が出来る。
これは冗談半分でつけられた【gods】の“機能”だった。

「ねぇあたしは覚えてる?」
「こたに…あい、ら」
「あたしは?」
「えっと…ひらおか、ゆきみ?」
「凄っ!! 広瀬さんって実は結構覚えてるんだね!」
「まぁ…人の名前覚えるのは得意で…」

当たり前だ。忘れたら見ればいいのだから。

「へぇー」

そう言ってニコニコしたまま、少女――亜鷺以外の2人は席に戻っていった。

「絵上手いんだね」

亜鷺は微笑んで言った。

「別に」

秀子はそう言ったが、何処となく嬉しそうだった。

「えっ本当凄いよ! 画家になれるかもよ!」
「画家?」
「広瀬さんて、何になりたいの?」
「……」

――何に?

「……さぁ」
「んーまぁまだ中2だしね! これから決めればいいよ」

亜鷺は笑う。

「そっちは?」
「え?」
「三月、さんは…?」
「…私保育士! 子供とか好きなの!」

亜鷺は目を輝かせて言った。
秀子から話しかけてくれたのが嬉しかったらしい。

「将、来か…」

――何も考えてない。あたしが就ける職種なんてあるかどうかも微妙だし、会社でやってけんのかも分かんないし…社会適応力ゼロだから、あたし。

でもまぁ、いいや。金なくてもどうせ餓死とかしないし。生きてないから、死んでるようなもんだし。

あたしは、いらないから。





「聡馬君また本読んでるの?」
「最近よく読んでるよねー」
「そんなに面白ぉいぃ?」

2年1組の教室。
四月一日安美、唐瀬千暁、嵐ヶ丘那波が話しかけてきた。

「しがつついたちさんは」
「わたぬきよ!!」

安美は力一杯ツッコんだ。
小学校も一緒だったのだからそれくらい勿論知っていたが、聡馬は態と言ったのだ。

「…ワタヌキさんは、本読まないの?」
「マンガ以外全然。活字ばっかりの本って苦手ー」
「ふぅん」

聡馬はさほど興味もなさそうに返事をした。
そして読み終えた本(『スカイライン。』結局6ヶ月かかった)を閉じると、立ち上がって教室の出口へ向かった。

「何処行くの?」
「図書室。本借りてくる」

それだけ言うと教室から出て行った。途中5組の前を通ると、秀子と、この間まで同じクラスだった小谷愛羅、三月亜鷺、平岡雪見がいた。秀子は何か書いている。
しかし窓際の席なので何を書いているのかまでは分からない。
秀子を目で追いながら、聡馬は5組の前を通り過ぎた。
教室から雪見の声が聞こえた。

「アサギーやめなよー」




 
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