小説4

□拾肆
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隆茂が帰ったあとの大学。
正一はサークルの4年メンバーで昼食をとっていた。


拾肆



「隆茂の彼女さ、」

正一が呟く。

「っアイツ彼女できたの!?」

メンバーの1人である片桐創志が驚いて、飲んでいた水を吹いた。

「ちょっと片桐汚い!」

創志の前に座っていた頼子が抗議する。創志は咽せていた。

「創志知らなかったの?」

創志の隣で中溝苅馬が言う。

「え、苅馬知ってたの!? まさか知らなかったの俺だけ!?」

創志は正一と頼子を見る。

「俺はさっき知った」
「…あたしは、直接隆くんから聞いたわけじゃないけど知ってたよ」
「…まじかよ。隆茂の野郎…」

水臭ぇな、と創志は呟いた。

「で、誰なんだよ。何学部?」
「いや、大学生じゃないらしいよ」

苅馬が言う。

「会ったことあんのは今西だけだろ?」

正一は頼子を見た。

「今西会ったことあんの?」
「…うん」
「どんな子? 可愛い?」

創志は隆茂の彼女に興味津々だったが、頼子は話したくなさそうだった。

「…可愛いっていうか、美人? 儚い美しさ、って感じ。でもちょっと幼い感じもあって…あんまり年上って感じじゃなかったな…とにかく、真っ白な子。雪みたいに」
「真っ白? どういうことだ?」
「髪も肌も服も真っ白なの。目は灰色がかった白って感じで。しかも真冬にノースリーブでさ。4月に会ったときは長袖着てたけど、4月でもあの長袖は絶対寒いよ」
「っはあ!? ノースリーブ!?」

創志は本日2度目、水を吹き出した。苅馬もそこまでは知らなかったらしく、驚いていた。

「ちょっと、汚いってアンタ! あたしもう片桐の前やだ! 正一替わって!」

頼子は学食のプレートを持って立ち上がる。

「えー俺もや…」
「替われ」

頼子は有無を言わさず正一を横にずらし、苅馬の前に座る。苅馬と創志は2人のやり取りには慣れていた。

「で、」

ようやく食事を再開したところで、苅馬が言った。

「正一が最初に言いかけたことは?」
「え?」

今までのやり取りのお陰で正一も自分が何か言おうとしていたことをすっかり忘れていた。このメンバー(+隆茂)でいるとそういうことがよくある。それを覚えていてくれるのが苅馬だった。正一は思い出したようにああ、と呟く。

「隆茂がさ、付き合って2ヶ月らしいんだけど、キスどころか手も繋いでねぇって言うんだよ」
「はあ? それはねぇだろ。中学生じゃねんだぞ」
「…それは気になるな」

創志だけでなく苅馬も言う。確かに大学生にしては進展が遅すぎるのかもしれなかった。

「だろ? 俺遊ばれてんじゃねぇかと思ってさー…」
「いや、」

正一の言葉を否定したのは、頼子だった。

「…白菊も、隆くんのこと超好きみたいだったよ」
「白菊って、隆茂の彼女?」

苅馬に尋ねられ、頼子は頷く。

「奥入瀬、白菊」
「へえ。名前にまで白入ってんのか」

創志が呟いた。

「うん。名前通りの子だよ」
「実際会った今西が言うならホントに遊びじゃないのかもしんないけどさ、だったらなんで2ヶ月も付き合ってて手も繋げないんだよ? 何、焦らしプレイ?」
「女の子の前でプレイとか言うなアホ」
「はー? コイツの何処が女の子なんだよ」

創志が叩いて正一が文句を言う。いつもなら、ここで更に頼子が正一を叩くか、掴みかかるかのどちらかだが、頼子は黙ったまま深刻そうな表情をしている。

「どした? 今西。何か気になることでもある?」

苅馬が頼子に尋ね、2人はようやく頼子を見た。頼子は顔を上げる。

「あたしこの間2人が歩いてんの見たんだけどさ、」
「うん」
「最初は手ェ繋いでんのかな、と思ったの。けどよく見たら…隆くんが、白菊の袖を握ってたんだよね」
「…え?」

4人の間に流れる空気が変わった。創志が呟いたきり、沈黙が続く。そして再び創志が口を開いた。

「…何ソレ、どういうこと? 手じゃなくて、袖?」

頼子は頷く。

「しかも全然くっついてなくてさ。なんか…距離があるっていうか」
「2人の、間に?」

頼子はまた頷いた。

「離れてんの。袖握って」
「…意味分かんねぇ」
「…そこまでしてなんで手繋がないんだよ」

正一と創志は理解できないという顔をしている。

「…中溝はどう思う?」

頼子が真剣な表情で俯いている苅馬に問う。苅馬は静かに呟いた。

「…強迫性神経障害」

頼子は目を開いた。正一と創志も苅馬を見る。

「え、何?」



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