小説4

□明日、いつもの場所で
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有菜和希。
彼女は明るくて優しい、普通の女子高生だった。
悩みもないかのように、傷も知らないかのように、毎日を幸せそうに生きていた。


明日、いつもの所で



「有菜っタオル!」
「あっ、はい!」

和希はサッカー部のマネージャーをしている。
そして好きな人も、同じくサッカー部にいた。

「有菜、俺にもタオルくれる?」
「うん! はい」

葉月将也。
1年生でありながらもう既にエースといわれる程の腕前だ。

「今日も頑張ってるね」
「まぁな。もうすぐ2年だし」
「将也君ならレギュラーになれるよ、きっと」
「俺なんかまだまだだよ」

和希は、そう言って去っていく将也の後ろ姿を眺めていた。




「和希バレンタインは?」
「え? どういう意味?」
「チョ・コ! 葉月君にあげるのかって聞いたの!」

バレンタイン1週間前の放課後の教室。
和希は親友の稲葉朔夜、米柚乃と3人で話をしていた。

「ちょっと、待ってよ! なんで将也君にあげなきゃいけないの?」
「何とぼけてんのよ。好きなんでしょ? 葉月君の事。見ててすぐ分かる」

朔夜が和希の頭をコツンと叩いて言った。

「そりゃ、好きだけど…」
「けど、何? 強気に攻める! 鉄則だよ?」
「うーん…」
「あーもう焦れったい! 貸して!」

柚乃は立ち上がり、和希の手から携帯を奪った。

「ちょっと何すんの柚乃!?」
「葉月君のアド入ってんでしょ!? あたしがメール送ってあげる!」

柚乃は素早くメールを打ち始めた。

「何打ってんの!!?」

和希は携帯を奪い返し、柚乃が作成したメールを見た。

“バレンタインにチョコ作るんだけどいる?V(^-^)V”

「い゛やあああああああああ」

そのメールを見た和希は絶叫した。

「まぁまぁ、いいじゃん。送っちゃえ」

朔夜は和希の肩に手を置いて言った。

「よくない! 何この顔文字!? 私将也君のメールに顔文字なんて使わないよ!!」

和希は立ち上がった。

「どうしたの?」
「用事思い出した。ちょっと行ってくる!」
「何処いくの?」
「内緒」

“明日、いつもの場所で待ってる”

走りながら和希は、昨日来た将也からのメールを思い出していた。
和希と将也には、2人しか知らない“いつもの場所”があった。




「将也君」

和希は下から呼びかけた。

「有菜! いつもの場所で分からなかったらどうしようかと思った」

将也が小屋から顔を覗かせて言った。
学校の裏にある大きな木の上に、誰が作ったかも分からない小さな小屋がある。
昔から縁結びだとか、恋人と行くと永遠に結ばれるとか言われていたが、今はもう誰も立ち入らなくなっていた。
2人はお互いに何かを渡す時、この小屋を使う事にしていた。

「何?」
「これ、お土産。この間北海道に行ってきたんだ」
「えー! 寒くなかった?」
「すげぇ寒かった」

そんな会話を交わしながら、和希は将也のお土産を受け取る。

「これ何? 食べ物??」
「ああ。夕張メロンのゼリー」
「おおー! 私食べた事ないんだぁーありがとう!」
「そっか。よかった」
「あっ、そうだ! バレンタインいる?」
「え、チョコ?」
「他に何がある?」
「だよな。あーバレンタインかぁ…いる!」
「おっけー。じゃあ来週もココね!」
「おう。じゃ、また明日」

そう言って将也は先に小屋を出た。

「あ、うん。また明日!」

2人は一緒には出なかった。
どちらが決めたワケでもなく、それは暗黙の了解だった。



 
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