小説4

□自殺志願
1ページ/1ページ

どうして…どうして死んじゃったの?


自殺


少女は駅にいた。
駅員もいない、田舎の小さな駅だった。
駅には、その少女しかいない。
黄色い線の外側に立って、ただひたすらに空を見つめていた。


やがて電車がやってきた。
特急のようだ。
この駅には停まらない。

『電車が通過します。危ないですから、黄色い線の内側でお待ち下さい』

スピーカからアナウンスが流れたが、少女は相変わらず黄色い線の外側に立っていた。
そして電車が通り過ぎようとした時、少女はふらりと前に倒れた。
しかし、何か強い力に引っ張られ、少女は駅のホームに尻餅をついた。

「痛ッ」

その間に電車は通り過ぎ、小さくなっていく。
少女の自殺は失敗に終わった。

「痛いと思うならまだ死ぬな」

いつからそこにいたのか。
駅には少女の他には誰もいなかったハズなのに。
少女の腕を掴んだままの少年が、そこにいた。

「だ、れ…?」

少女は呆然と少年を見上げながら呟いた。

「そんな事は大した問題ではないだろう」

少年は少女の腕を放した。

「止めたって無駄よ。次の電車が来たら死ぬんだから。何度止めたって、電車は幾らでも来るんだから」
「別に止めたワケじゃない。ちょっと最期に話をしておこうと思っただけだ。話が終わったら、死ねばいい」

少年は少女の隣に座った。

「どうして私に話があるの? 貴方と私は初めて会ったのに」
「大した理由じゃないさ。どうして自殺しようと思ったんだい?」

少年の問掛けに、少女は退屈そうに笑った。

「なんか、つまんなくて。生きていても死んでも変わらないわ」

少女は笑った。
これから死のうとしているというのに。

「それは違うな。死んだら何もかも変わる。死んだら何もかも失う。いくつも後悔する。変わらないはずがないだろう」
「なんでそんな事分かるの? 死んだらきっと苦しみからも解放されて、楽になれるわ」
「違う。解放なんてされやしない。死んでからが本当の苦しみだった」
「だった?」

少女は聞き返した。
まるで、自分が経験したような言い方だった。

「ここで死ぬのもどうかと思うよ。電車にはねられるなんて残酷過ぎる。あんたの残骸集めなきゃいけない奴らも、運転手も、乗客もいい迷惑だ。特に運転手は、もう電車の運転手なんて辞めちまうだろうな」

少年は少女の疑問には答えなかった。

「……」

少女は黙る。

「あんたがこんなトコで死んだら、他人の人生狂わす事になるんだ」
「……そんな事、言われたくない。私の人生を狂わせたのは、他でもなく自殺だもの」

少年は驚かなかった。
顔色1つ変えずに、少女を見ていた。

「誰の?」
「私の大切なひと」

初めて、少年の表情は少し動いた。

「大切な…」
「そう。でも、あの人は、私が大切に思っていた事に気付いていなかった。だって、もし気付いていたなら、自殺なんてしてないよね?」
「当たり前だ。そんな事絶対しなかった」
「ずっと側にいたの。あの人が無視されても、いじめられても、1人になっても、私ずっと側にいたの。あの人は多分…親同士が仲良くて、幼馴染だったから、親に側にいてってお願いされて、それで私が仕方なく側にいるんだと思っていたのかもしれない。確かにお願いはされたけど、そんな事されなくても絶対一緒にいた。いじめられても、1人になっても、私はずっと大切に思っていたのに…言えばよかった。大切だって、ちゃんと伝えてあげればよかった。仕方なく一緒にいるんじゃない。大切だから一緒にいるんだって、伝えてあげればよかった。あの人がいなくなったら、私生きてる意味なんてないのに。あの人をずっとずっと守っていきたいって、私生きてたのに」

少女はいつの間にか、涙を流していた。

「……気付かなかった。そんなに想われてたなんて…自殺なんてするんじゃなかった。お前が俺の為に泣いてくれた時、本当に後悔した。死ななければ、お前がいたのに」
「え…?」

少女は顔を上げた。
少年が、“あの人”と重なった。

「お前には、俺と同じ後悔をして欲しくなかったんだ。お前が死んだら、今度は俺が泣いてやる。俺の為に、生きて欲しい」
「え…ぁ、あ…」
「樹浬は、俺の大切なひとだから」

少年は、少女が今まで見た中で1番の笑顔で、消えた。

「澪生…」



私がここで死のうと思ったのはね、貴方が死んだ場所だから。
同じ場所で死んだら、また一緒にいられそうな気がしたの。
でも、私はまだ生きていなくちゃいけないんだね。
痛みを痛いと思えるなら。
大切なひとの為に。


END.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ