小説4
□正夢
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Magic Mirror...
『…ぎゃあああああ――っっ!!!』
−正夢−
ガンッ
「っつぁ〜っ」
沙木亜鶴佐は目を開けた。
頭はベッドから落ちていた。
「夢…?」
亜鶴佐はそのまま床に落ち、起き上がった。
頭が痛い。床にぶつけたからだ。
「亜鶴佐ー! いつまで寝てるの! 夕鶴紀はもう学校行ったわよー!」
1階から母の声がする。亜鶴佐は時計を見た。
長針が動いて7時53分を指した。
「やっば! あと7分!?」
亜鶴佐はベッドから飛び降り、急いで着替え始めた。
「夕鶴紀ー! ちょっと酷くない!? 起こしてよぉーっ」
学校に着くと、亜鶴佐は双子の妹、沙木夕鶴紀に向かって言った。
「何度も起こしたわよ」
夕鶴紀は読んでいた本から目を離し、亜鶴佐の方を見た。
「起きるまで起こしてよ!」
「嫌よ面倒臭い。亜鶴佐を起こすのにどれだけの労力が要ると思ってんの?」
「う゛っ」
亜鶴佐の寝起きの悪さはクラス全員が知っている事だった。
みんなの視線が亜鶴佐に集まる。
「ちょ、ちょっとぉ〜そんな見ないでよ」
「毎日毎日あんたを起こす、夕鶴紀の身にもなってみなよ。恐ろしくて鬱になるよ」
如月みのりが隣から言った。
「…反省シマス」
亜鶴佐が言うと、みんなが笑い、間もなく授業開始のチャイムが鳴った。
その日の放課後。
亜鶴佐は夕鶴紀、みのりと3人で帰っていた。
「目覚ましは5つぐらいあった方がいいと思うよ」
寝起きの悪さに悩む亜鶴佐にみのりが言った。
「今亜鶴佐の部屋目覚まし何個あったっけ?」
「3個」
「あたしのあげようか? 目覚ましなくても起きれるし」
みのりが横目で見ながらいやらしく言った。
「うわ、なんかウザ」
亜鶴佐は嫌そうな顔をしてみせた。
すると突然後ろから頭を叩かれた。
「よっ遅刻魔!」
「ぃたっ成田! 何すんのよ!」
亜鶴佐が好意を抱いている、クラスメイトの成田圭介だった。
「俺の目覚ましもやろうか? 壊れかけてっから騒音撒き散らすぜ」
圭介はニカッと笑ってみせた。
亜鶴佐はこの笑顔に魅せられたのだ。
「要るかよんなもん!」
亜鶴佐は圭介にべーっと舌を出して答えた。
「可愛くねぇな」
いつも2人はこうだ。
亜鶴佐はそれが楽しかった。
けど、いつまでもこのままというのも味気ない。
変わらなければならないと思っていた。
「…そういえば今日ヤな夢見たんだよねー」
圭介と別れて少し歩いたあと、突発的に亜鶴佐が言った。
「ヤな夢?」
みのりが聞き返す。
「うんーなんかよく分かんないけど…穴? に落ち」
そこまで言ったところで、足に地面を感じない事に気付いた。
「ん?」
そして下を見た。
「え」
マンホールの蓋が――開いていた。
「ええ? ちょっ何コっ…ぎゃあああああ――っっ!!!」
「亜鶴佐!?」
夕鶴紀とみのりは慌ててマンホールを覗き込んだ。
少しして、『いったぁーっ』という亜鶴佐の声が聞こえてきた。
「亜鶴佐ーっ大丈夫!?」
夕鶴紀が問いかけたが、返事がない。
「亜鶴佐ーっ!」
みのりも同様に問いかける。
一方の亜鶴佐は、マンホールの中で目を丸くしていた。
――これ…今朝、夢で…
「正夢…?」
亜鶴佐は呟いて上を見た。
さっき自分が落ちてきた穴から夕鶴紀とみのりが覗いている。
亜鶴佐は側にあった梯子からマンホールを上り始めた。
「大丈夫亜鶴佐?」
上り切ったところで夕鶴紀が聞いた。
「うん、まぁ」
「有り得ないよね! マンホールの蓋が開いてるなんて! 慰謝料とか請求出来るんじゃない?」
みのりが蓋の開いたマンホールを一瞥して言った。
「でも、そんなに怪我してないし」
「どうする? これ、そのまんまにしとく?」
夕鶴紀はしゃがみ込んでマンホールと蓋を見ていた。
「マンホールの蓋って重いよね確か…」
みのりも蓋を見ながら言った。
「でも危ないから一応閉めとこうよ」
亜鶴佐がマンホールを飛び越えて言った。
「そうだね。いつまた亜鶴佐みたいなドジが引っ掛かるかも分かんないし」
「誰がドジだって!?」
3人は協力して蓋を閉め、家に向かって再び歩き出した。
その時には、それが正夢だった事はすっかり忘れていた。