小説4

□後
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神菜の横から乗用車が突っ込んで来た。


「神菜!」


ドン

何処にもいかないで…


Meet Again−神の愛娘− 後)永遠の世界



「功太郎…?」

神菜は座り込んだまま動かなかった。
血を流して倒れている功太郎もまた、動かなかった。
神菜の横から乗用車が突っ込んで来た時、とっさに功太郎は神菜を突き飛ばした。
その結果ぶつかったのは功太郎。
神菜は突き飛ばされた時のかすり傷で済んだ。しかし神菜には今の状況が把握出来なかった。

「功太郎…?」

もう一度そう呟くと、功太郎の体がピクリと動いた。

「神、菜…」
「功太郎っ…!!」
「ケガは、ないか…?」
「ないよ…ないよ!!」
「突き飛ばした時、痛くなかった?」
「これくらい全然大した事ないよ」
「そっか…よかっ…た…」
「功太郎っ何で…?」
「言った、だ、ろ…? もう二度と…お前を失いたくなぃ…」

功太郎は目を閉じて動かなくなった。

「そんなっ…あたしだって、あたしだって…功太郎っ功太郎ぉぉぉぉっっっ!!!」




それから数分後、乗用車の運転手が救急車を呼んでくれていて、功太郎は病院に運ばれた。何とか一命は取り留めたが、もう目覚める事はないかもしれないと言われた。
神菜は功太郎の手を握って、ひたすら祈っていた。


「お願い…神様…お願いだよ…2度もあたしの事助けてくれたじゃない。助けて…助けてよ…功太郎を助けて…あたしが生きてて、功太郎がこうしてるなんて駄目だよ…っっ神様…!!」


――功太郎を助けて。


神菜は神の愛娘だ。最初は、長生きの亀を断ってまで15年の人間を選んだ芽香に天界での記憶は残しておくなどのサービスをした。

次に、15年の人間人生を終えた芽香がもう一度功太郎に会えるよう、順番を入れ替えて芽香を生まれ変わらせてくれた。

ソレほどまでに溺愛している愛娘の願いを、神が聞かない筈がなかった。


「神、菜…?」

声が聞こえて、神菜は顔をあげた。この声を聞いていかなったのは僅か2、3時間だというのに、凄く懐かしい感じがした。

「功、太郎…?」
「ただいま。神菜」
「おかえりっ…おかえり功太郎っっ!!」

神菜は功太郎に飛び付いた。
しかし、喜びも束の間。
神といえども、出来ない事だってあるのだ。

「あ、れ…? 功太郎? 嬉しく、ないの?」
「え? 何言ってんだよ。嬉しくないワケないじゃん」
「でも功太郎…笑ってないよ」



功太郎は暗闇の中に笑顔を置き忘れてきていた。





「…――功太郎君の場合、口の周りの筋肉だけが巧く働かなくなってしまったようですね。完全に働かない訳ではないので喋る事は可能ですが…笑う事は不可能でしょう。しかし口の周りだけで済んだのは最早奇跡だ」

功太郎の家族が医者から説明を受けているのを、神菜はドア越しに聞いていた。


――奇跡なんて関係ない。どうしてこんな事になったの?? 神様…あたしの願いを聞いてくれなかったの??


でも、生きててくれて良かった。
目が覚めてくれて良かった。
もう…それで充分。






《数日後》

「おはよー神菜」
「おはよー紅」

神菜は生まれ変わる前からの親友・葵紅と挨拶を交した。紅は、神菜が芽香である事は知らない。
死んだ人間を生まれ変わらせるのは、功太郎の前だけでいい。

「綾坂、今日から学校来るんだよね」
「うん。早くみんなに会いたいってさ」
「ところでさぁ、前から気になってたんだけど…神菜、綾坂の中学の頃の好きな人の話、聞いた事ある?」
「え?」

――それってあたしだよ!

神菜は密かにそう思ったが、言わないでおいた。

「青山芽香、ってコだったんだけどさ…芽香はあたしの親友でもあったんだけど、今はもうこの世にいないの。丁度1年くらい前に、心停止でね」

――心停止って事になってんのか…なんか年寄りくさっっ!!←

「めちゃめちゃショック受けてた、綾坂」
「それでっ…?」

その先が知りたかった。神菜は紅を促した。

「綾坂は…恋をしなくなった」
「えっ?」
「芽香の時と同じように、いつかは離れる事になるから、大切な人を失うのが怖くて、誰かを好きになる事をやめた」


『2度も大事な奴失ったら、生きてけないって』


「功太郎…」
「だからっ、神菜は綾坂の心の扉を開いたって事なんだよ。凄いよ! これって。神菜ってさ…どっか芽香に似てるんだよ。何処がってワケじゃないんだけどね」

教室に入ろうとした功太郎は足を止めた。自分の話をしているのが分かった。
すると今度は、神菜の声が聞こえてきた。

「うん…でも…」

――でも…?

「功太郎の笑った顔…もっと見たかったよ…」

功太郎は固まったまま動かなかった。

「あっ功太郎ーっ久しぶりじゃん!」

廊下に居た男子が功太郎に声をかけた。
功太郎は声をかけられると突然走り出した。

「あっおい功太郎!」

廊下から男子生徒の声が聞こえて、神菜と紅は振り返った。

「ねぇ神菜…今功太郎って…あれ?」

紅が向き直った時、神菜はもう居なかった。





「功太郎っ!」

神菜が後ろから叫ぶと、功太郎はピタリと止まった。屋上へあがる階段の途中だった。

「神菜…」

功太郎は振り向き気味に言った。


「キツかったら別れてもいいよ…」


「なっ何言ってんの…?」

少しの沈黙のあと、神菜が口を開いた。

「笑えない男なんかと一緒に居ても、楽しくなんてないだろ? 俺の事はいいから…神菜が幸せになってくれれば…俺はいいから…」
「何言ってんのよ! あんたっ…何の為にあたしが戻ってきたと思ってんの!? 全部っ…功太郎に会う為じゃない…あたしからあんたを取ったら、あたし生きる意味ないんだよ!? そりゃあもっと笑う顔見たかったし、もっと笑ってほしかったけど…あたしは功太郎が生きててくれればいい。側にいてくれればそれでいい。功太郎はあたしの生きる理由なんだから」
「神、菜…」

功太郎は振り返った。いつからかは分からない。功太郎の目から大粒の涙が溢れていた。

「功太郎、愛してるよ」

神菜は笑って言った。
功太郎は目を細めた。口元は相変わらずだが、神菜には功太郎が笑っているのが分かった。
それだけで、愛しくなる。
目を細めた自分なりの笑顔で、功太郎は言った。


「うん。俺も、愛してる」



end

 

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