小説4

□後
1ページ/2ページ

なんだ。

気にしてたのは、俺だけ?


ラムネ本当の気持ち−


怜の視線の先には、仲良さそうに見知らぬ男子生徒と並んで歩く、よく見知った女子生徒の姿があった。
名前は春夜桃李。この3月まで、同じ中学に通っていた女だ。クラスメートだった。
そして怜の…

「なんだ…」

怜はそう呟くと、声もかけずにもと来た道を走り去っていった。


――なんだ。

気にしてたのは俺だけ?

俺がわざわざ心配して来てやったってのに、あいつはもうとっくに他の奴見つけて俺なんか忘れてたってワケ。
だったら俺だってお前なんか忘れてやるって…
なんで…
なのに…なんで…

涙が流れるわけ?





「…ん?」
「ん? どうかした? 夏夜」

桃李は、立ち止まって目を細める親友に声をかけた。

「いや…今そこに誰か居たんだけど…」
「え? 気のせいじゃない?」
「ううん…確かに今…」

夏夜は首を傾げた。

「どんな人だったの?」

桃李は尋ねた。

「んー…背は高めでひょろっとした感じの人。あっ、テニスのラケットみたいの持ってた。うちらのほう見て逃げてったの」
「何それー。ま、逃げてったんなら気にしなくていいんじゃない?」
「うーん…それもそうだね」
「おーい! 夏夜ー春夜ー早くしろよー!」

その時、遠くから2人を呼ぶ声が聞こえた。

「あっ蒼忘れてた! 待ってー今行くー! 行こっ夏夜」
「うんっ」





数日後。
ここ、県立青山南高校の校門前に、男子生徒による人だかりが出来ていた。
何故なら、他校の女子生徒が1人、校門前に座っていたからである。

「見かけない制服だな。どこの生徒?」
「なぁなぁ、誰か待ってんの?」
「名前教えて!」
「暇ならこれからどっか行かない?」

様々な男たちがその女子に質問を繰り広げる。その時、丁度怜が校門に向かって歩いて来た。怜は人だかりを横目で見ながら、碧に言った。

「…何、あの人だかり?」
「さぁ…」

そういう事にあまり興味を示さない2人は、そのまま校門を通り過ぎた。と、その時だった。

「あっ河野!!」
「!?」

人だかりの中から、聞き覚えのある声がした。声の主は人だかりを掻き分け、怜の前に姿を現した。

「春夜…!?」
「やっほーw お久しぶりっ♪」

春夜桃李だった。
さっきまで騒がしかった人だかりはシンとしていた。誰もが、桃李の待っていた人が怜だった事に驚いているという表情で。

「おぉー春夜さんじゃん。久しぶりだなー」
「あっ春瀬君! 久しぶりーえー2人、まだ仲良いんだぁー」
「おぉ、まぁな。腐れ縁…って奴」

2人は久しぶりの再会で盛り上がっていた。何だかんだ言って、自分よりも春瀬のほうが仲良かったんじゃないか、と怜は思った。

「うわ、腐れ縁って言っちゃったよ、この人…! どうする河野! 言われちゃったよ、腐れ縁だってさ!」
「ぅえっ?」

いきなり自分にふられたので、思わず怜は変な声を出してしまった。しかも話を何も聞いていなかったので、どう答えればいいか分からない。怜は散々考えた末、

「つーかさ、春夜、何しに来たん?」

と言った。

「うわっ、話し逸らしちゃったよコイツ…ま、いいや。そろそろ本題に入るとするかぁー。河野」
「ん?」
「あのね、ラムネがなくなったの!」
「は?」

『本題』があまりに意味の分からないものだったので、碧まで一緒に聞き返してしまった。

「え? ラムネ? って何の事だよ?」

更に代表で怜が聞き返した。

「ラムネだよ! ホラ、3年の時にさ、あたしと緋色と河野と春瀬君の4人で電車に乗って遊びに行った事あったじゃん? そん時に駅にラムネ置いたじゃん。あのラムネがなくなったの! アリがついに全部食べたんだよ!?」

怜と碧は、桃李と桃李の親友、河原緋色と4人で遊びに行った時の事を思い出していた。

「えっアレ? あのラムネ? え、マジでアリ全部食ったの?」
「うんだってあたしずっと見てきたんだもん。少しずつ減ってってたんだよ。今日の朝あとちょこっとになってたの。だからもしかしたらって思って今日は部活をサボって帰って来たら案の定なくなってたわけよ。最後の一欠片を、アリがついに持ってった!」
「うをぁー何かすげー」

桃李と碧は再び2人で盛り上がっていた。話についていけない野次馬たち(さっきのひとだかりを作ってた男子たち)はつまらなそうにその場を去っていった。

「てかそれだけの為にわざわざココに来たの? 部活まで休んで」

怜は盛り上がる2人の会話を遮るように、冷たく言った。

「うん。だって霧島工業入った時から決めてたんやもん。ラムネなくなったらココまで伝えにくるってさ。それに…」
「それに?」

怜が聞き返した。

「久しぶりに会いたかったんだもん♪ 河野に」
「俺…?」




怜にとってはいつもと変わらない、桃李にとっては初めての帰り道を、2人はしばらく無言で歩いていた。碧は気を利かせた(?)のか、1人でさっさと帰ってしまった。沈黙を破ったのは、桃李だった。

「…ラムネなくなったら、河野に会いに行って、言おうと思ってた事があるんよ」
「言おうと思ってた事?」

桃李は、前を向いたまま続けた。

「あたし、中1の時からずっと…河野が好きやった。何度も諦めようとした事だってあったんだよ? それでもずっと好きだった。忘れられなかったんだ」
「でももう忘れたんだろ?」

怜は桃李の言葉を遮った。

「え?」

「どういう事?」と桃李は続けた。

「とぼけんなよ。彼氏、出来たんだろ?」
「えぇぇぇっっ!!? 出来てないよ!?」

桃李は立ち止まって言った。

「この前2人並んで楽しそうにしてるとこ見たけど?」

思ってもみなかった怜の言葉に、桃李は驚いたがすぐに、数日前夏夜が言っていた事を思い出した。

『背は高めでひょろっとした…』

「あ゛――――――!!!!!!」

何かを思い出したように桃李が突然叫んだ。怜は突然叫ばれて、ビクッと体を動かした。

「何!?」

あまりにビックリしたのか、怜の声は少し上擦っていた。

「もしかしてこの前の…背は高めでひょろっとした感じでテニスのラケット持っててうちらのほう見て逃げてったのって、もしかしてアンタ!?」
「何その細かい特徴!?」
「友人の証言」
「あぁ…そう」

見られてたのか、怜は心の中で思った。そんなことは露知らず、桃李は言った。

「あの…さ。今、『2人並んで楽しそうに』って言ったよね?」
「そうだよ」
「あの…気付かなかったの? もう1人…居たんだけど」
「え?」

怜の顔が、少し引きつったようになった。



 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ