小説3

□Melt
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「――だから、ごめんなさい」

最低な理由だったように思う。
最悪な別れだったように思う。
それは全部、今更だった。


Melt



「ユキ」

理澄が校門に立っているあたしに話しかけた。

「リズム! おっそーい」
「ごめんごめん。委員会長引いてさ」

あたしは理澄の胸をポン、と叩いて言った。

「リズムのおごり☆」

そしてあたしたちは帰り道を歩き始めた。

付き合い始めてから3ヶ月。
あたしの片想いからの粘り勝ちだった。
まさに幸せの絶頂。
それなのに。


「はい」

理澄はあたしにアイスを手渡した。

「ありがとっ」

2人で公園のベンチに座り、アイスを食べ始めた。

「ユキ」
「んー?」
「今度どっか行く?」



『今度…』
『ん?』
『…いや、何でもない』




「ユキ?」
「えっ、あ、ああ、うん。行きたい!」
「じゃあ日曜とかは?」
「オッケーだよ♪」
「んじゃ1時に駅でいい?」
「うんっ!」

――初デートだっ!


幸せだった。
だけど理澄が笑うたび、頭を過る笑顔があった。


『門倉さん』


結局最後まで、私の名前を呼び捨てにできなかった人。
それが凄く不満で、
それは凄く優しかった。


「ユキ」

名を呼ばれて、ハッと我に返る。

「どうした?」
「あ、なんでもない。ごめん」
「いや、いいけど」

理澄が笑った。
ああ、また。
あたしが理澄を好きになったのは、
彼に似てたからなのかな?
未だに罪の意識が、あたしを縛っているのかな?
こんなハズじゃなかったのに。

――忘れられない人になるハズじゃ、なかったのに。



雪のように溶けていくハズだった存在が、こんなにも残ってしまうなんて。


「ユキ!? どうした?」

ああ、理澄が優しくて、心が痛い。

「ごめん。ごめんね…ごめんね…」

泣きながら繰り返しても、彼に届くはずない。
フッたのはあたしで、傷付けたのもあたしで、
傷付いたのはあたしで、後悔してるのもあたしで、忘れられないのも、あたしだった。
きっと、あたしだけなんだ。
彼は今頃可愛い彼女と街を歩いてるに決まってる。
泣くな、泣くな。
当たり前だ。自業自得なんだ。
あたしが悪いんだ。当然なんだ。
泣くな、泣くなって。



理澄は駅まで送ってくれて、あたしは電車に乗って帰った。
彼は送ってくれなかったなって、また考えてしまった。
理由はまあ、恥ずかしかったとかそんなのなんだけど。
不安で不満で切なくて、やっぱり不満だった。

「門倉さん」

とても懐かしい響きがした。
とても懐かしい笑顔があった。
もうあたしには、この笑顔を見る資格はないんじゃないかと思ってた。

「忘れらんなかった」

さっき泣き止んだのに、なのにまた。

「バカだね。あたしなんか、好きにならなきゃよかったのに」
「…そうかもね。でも、もうなっちゃったから」
「そうだね。ごめんね」

溶けずに残った想いが、あたしの中で輝き出した。
最期まで残ったのは、彼だった。
初めての彼氏。
ずっと最初で最後の人。
あんな最低最悪な別れ、修正、むしろリセットしたかったから。

「ごめんね。さよなら」


もう一度、別れ。

あたしに残された時間が少なすぎて、もう付き合えないの。
さよなら。

あなたは知らなくていい。


End


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