小説3

□しあわせなじかん
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※実話です






しあわせなじかん


オレンジジュースを片手に、あたしの前に座った17歳は、それを少し飲んで、テーブルに置いた。
あたしと目が合うと、優しく微笑んで首を傾げる。
そんな姿が堪らなく愛しい。

「どっか分からんとこある?」
「…全部(笑)」

優しく聞いてくれた17歳にあたしは苦笑して答えた。
17歳も笑って、あたしのノートを見る。

「…あれ?」

慌てて、自分のノートを開いた。

「あ、そっか」

思い出したようだ。
17歳はあたしのノートを、長くて綺麗な指で指差して、自分のノートを見ながら、丁寧に教えてくれた。

「ここまで分かる?」

上目遣いであたしの表情を窺う。
17歳が凄く愛しい。

「うん」

すきだよ。

立ち上がって再びジュースを注ぎに行く。
ホワイトウォーターの入ったグラスを持って戻ってきた17歳は、ヘッドホンをつけて自分の勉強を始めた。
あたしはいつも、そのオレンジジュースとホワイトウォーター、混ぜて飲むんだよ。
貴方は知らない。
何を聴いてるの?
あたしは知らない。

「電車の時間、7時18分しかないけど…」

17歳がヘッドホンを外したから、あたしは言った。

「俺は大丈夫だよ。じゃあ7時ぐらいにここ出ればいいね」

17歳は笑った。
7時まで、あと2時間。
あと2時間、貴方といられるんだね。

「うん」

あたしもね、あと半月で、17歳になるんだよ。
貴方はきっと覚えてない。
あたしの誕生日、覚えてないよね?
あたしは知らない。
駅へ行くたび、最後に手を振った17歳を思い出す。
あたしの駅から貴方の駅まで、11駅。
あたしの駅から貴方の駅まで、910円。
あたしの駅から貴方の駅まで、1時間半。
乗り換え1回。
行けないなあ。
でも17歳は来てくれた。
喋れなかったけど、しあわせなじかんでした。


おわり


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