新甲陽軍鑑
□二章 信濃侵攻
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「高遠は本当にこちらの思い通りに動くだろうか...」
板垣が独り言のようにつぶやいた。
晴信は返事をせずにじっと板垣を見つめた。
板垣は諏訪との信義に背くのではないかと不安になっているのだ。
晴信にもその気持ちは分かる。
しかし信濃を手に入れられなければ、このまま甲斐に閉じ込もっているしかない。
「高遠は必ず動く。」晴信も独り言のようにつぶやいた。
果たして...
高遠頼次は動いた。諏訪領に侵攻し、村落を焼き打ちし始めた。
諏訪からは武田に援軍の使者がしきりに送られてくる。
晴信はすぐに自ら兵を率いて出撃した。建前は諏訪の援軍に応じたのだ。
しかし高遠との密約のため晴信は兵を出したものの、高遠軍と激突する事はなかった。
諏訪軍はあっさりと高遠軍に敗れ、諏訪頼重も捕えられた。
捕えられた頼重は武田に送られることとなった。
表向きは高遠軍との交渉によって諏訪頼重を引き取ったことになっている。
頼重は晴信を何ら疑うことなく甲府に送られた。
諏訪家の領地は高遠と武田で半分ずつ領有することになった。
ここで板垣も甘利も晴信の考え通りに事が進んでいるので、改めて晴信という頭領に心服する事となった。