新甲陽軍鑑
□一章 クーデター
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晴信は人目を忍んで、弟信繁を訪ねていた。
気まずい緊張が時を支配していた。
晴信の雰囲気がいつもと違う事を信繁も感じとっていた。
晴信と信繁はある意味家督を争っている。父信虎は家督を継ぐために叔父を討った。
今度は兄弟で家督争いが起こる可能性があった。
信虎が次男の信繁に家督を継がせようとしているからだ。
心ある重臣達が動き、密かな計画を共に進めてきた。信繁の存在は目の上のコブであった。
信繁の反応によっては弟を斬らなければならない。晴信は決心して口を開いた。
信繁は晴信の口から出た言葉に驚きはしたが、取り乱す様子は無かった。
「何事も兄上の指図に従いまする。」
それが信繁の出した答えだった。
晴信はこの弟が好きであった。自分の事を慕っている事も知っている。
父が自分を寵愛しても、兄に対する姿勢は変わる事がなかった。
信繁に計画を洩らす事は危険な賭けであった。
信虎に計画が洩れれば、計画に加担した者たちの命はないだろう。
晴信はあえて賭けに出た。そして弟も父ではなく計画を黙認したのだ。
静かな夜の事であった。