気まぐれ
□嬉しい
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「映画面白かったなっ!」
「うん。あそこよかった。あのー、……あそこ!」
「どこだよ?」
今日はのぶの部活が珍しく午前中までだったから、午後から2人で見たかった映画を見に来た。
「ポチの可愛さは泣けたなぁ。」
「泣くとこおかしいだろっ。」
映画の感想を話ながら歩く。
手は、繋いでる。
付き合ってすぐのころ、恥ずかしくて繋げなかったのが嘘のように自然に繋いでいる。
「…? ………っ!!??」
歩いていくと1つ、駅がある。
そこを通っていて、私は衝撃的な光景を目の当たりにしてしまいました。
「(ひゃ〜〜〜っ!)」
私が見たのは、カップルが抱き合ってキスをしているところ。
普通電車しか止まらない小さな駅だけど、意外にも人はいる。
そんな中でもカップルはお構いなしでラブラブである。
「(な、なんか……。)」
どう表せばいいのかわからない気持ちになる。
なんというか、見てはいけないものを見てしまったような。
この気持ちは実際に見た人にしかわからないであろう。
「…。」
「あ?どうしたんだよ?」
のぶがカップルに気付いたかどうかは知らないけど、とりあえず私は早くこの場から離れたくて繋いだ手に少し力を入れて下を向いたまま足早に歩いた。
せっかく一緒にいるんだからまだ帰りたくなくて、適当な言い訳や口実を言ったり目についたお店に入ったりして、のぶから「そろそろ帰るか」という言葉を出させないようにした。
気が付いたら、西の空は綺麗なオレンジ色になっていた。
「来週、練習試合するんだよね?どこの学校と?」
「……、どこが相手だろうと海南が勝ーーつ!!かっかっかっ!」
「(…きっと覚えてないんだなぁ。)」
のぶはいつものように私を家まで送ってくれた。
「悪いから」と前に断ったとき、「お前を送った帰り家まで走るからトレーニングなんだよっ!」って顔を赤くして早口で言ってたっけ。
「じゃあ、また明日な。」
「ぁ、……、」
そうだよね。のぶも帰らなきゃいけないもんね。
「………っ、」
「ばいばい」って、そう言おうと俯かせていた顔を上げようとしたら、
のぶが私のおデコにキスをした。
「えっ、の・ぶ…、」
「じゃーなっっ!!」
「え゙っ!?」
大きな声ではそれだけ言うとのぶは、そのまま全速力で去っていきました。
「(わ、わわっ!!)」
別れ際にキスなんてあのときのカップルみたい。
あのカップルを見たときは正直複雑だったけど、いざ自分がしたら…、
ちょっと嬉しい
とか、思っちゃった。
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100518*葉月
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